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秀悪(プロローグ)

登場人物


ゴア・キャッスルダンス……"聖女"

レイヴン・レッドローチ……富豪

ディーテ・ビシュテン……天才(天文学)

ミヤゲ・オーダー……メイド

サイカ・コールロジック……天才(心理学)

ヴィティーク・ウィークェンド……天才(娼婦)

ウェイブ・ラフフェイク……天才(画家)

ライーレ・インク……画家見習い

僕の恋人が目の前で自殺した時に飛んできた血液ぐらいの温度をした紅茶を飲む。

とても美味しいなあと思いました、そしてやはり彼女の事はとても口惜しいなあと思い返しました。

僕は別に、いちいち紅茶を飲む度に「この赤は愛おしき恋人の血より薄いな」とか「焼け死んだ愛おしき妹はあのお湯よりも熱い思いをしてあのお湯に溺れるよりも呼吸が苦しかったんだろうな」とか考える妙な女ではない。

他ならぬ僕をサロンのお茶会に招待したレイヴン・レッドローチさんに過去の話を尋ねられて、思い返して掘り返した結果、色々な哀愁だとかがごった返してしまっただけだ。

「それで、ゴアさんはその後何処へ向かいましたの?」

レッドローチさんは僕に問う。

「当時の僕には既に行き場所はありませんでしたから、甘んじて誘拐を受け入れました」

「まあ!悲しくなかったのですか?」

「悲劇が起きて悲しめるほどの人間性保持者には該当しないというのが僕の自己評価でして」

「あら、シビアですわね」

そうなのだろうか。

お世辞ならやめて欲しいし、本音ならばこの人の審美眼は水晶体が曇りレンズだ。

「でも私が聞きたいのは人間性と資格の話ではありませんよゴアさん。貴女はその時、どう思いましたの?」

レッドローチさんは重ねて問う。

それに僕は────


朝に起きた、何故なら貴族院に通わねばならないからだ。なぜ貴族でもないのに貴族院に通っているのかというと、僕の『聖女』体質に起因する。

魔法の使用が厳粛に取り締まられ、魔力を用いた何をするにも長い書類手続きが必要となったこの現代に、魔石による充填をせずとも魔法を使う事が出来てしまう人物は危険極まりないからだ。

通っている、というよりはぶち込まれている、という表現の方が近しいだろう。国の粋な計らいで学費を免除して貰っているので、僕としては別に構わない。

細々とした身支度を済ませ、朝食を取る。

あまりお腹は空いていないので、生卵を1つだけ割って口に放り込む。締めに食塩を一舐めして、井戸水で流し込んだ。

生卵は軽食としての手軽さを補って余りある欠点として高確率でお腹を壊すのだが、そういう所で僕の体質は便利だと思う。

制服の袖を通しながらドアを開けると、貴族の皆様方が僕同様に登校中だった。

僕に一緒に登校する友達は居ない。友達が居る奴は人間としての強さがどうだこうだ〜という思想を持っているわけではなく、単に僕には明るさと対人関係への努力が欠けているだけだ。

今日も隙間時間は図書室から本でも借りて過ごそう、僕の死滅している対人関係に言い訳をするのならば、基本的に僕はトラブル体質なのだから、誰とも関わらないのは優しさに満ちた選択と捉える事も下手したら出来かねない、かもしれない。

誰にも認知されない優しさなんて存在しないのと同じだけどね。

自分で自分を論破する、根暗で卑屈で陰気で虚しい時間だ、慣れたけれど。

教室の席に着いて、鞄を置く。

最初の頃は「平民の癖にここに来るなよ」とか言われて僕の鞄キャッチボール大会が開催されたらどうしようかと思ったが、貴族は基本的に皆良い人だ。何故なら金銭的に余裕があるので。

品性は金ではないとよく言うが、金があっても得られない場合があるというだけで前提条件にはやはり裕福さがあるのだろうな、というのがここ最近の持論、戯言みたいなものだけれど。ここで僕をボコボコに論破して「それはお前の世界を捉える目がひねくれていて品性下劣なだけだ!」と2、3発ぶん殴ってくれる奴が居たらストーリー的にさぞスッキリするだろうけど、貴族の人達は陰気で平民な僕に薄らとした優しさ〜同情と腫れ物扱いを添えて〜を発揮しているので特にそんな事は起こらない。

まあそんな感じで、いつも通りボチボチに過ごしていた所で空から女の子が降ってきた。

これは嘘だ、正確に言うと階段からレイヴン・レッドローチ先輩が降りてきて、僕の方に向かってきた。

レッドローチ先輩の家は貴族の中でもそこそこランクが上(らしい、僕は貴族の家のアレコレがよく分からない)で、本人の優雅さとお洒落なサロンを開いているという事で皆から憧れを向けられている(らしい、僕はこの貴族院の人間関係に纏わるアレコレがよくわからない)事で有名だ。

「ゴア・キャッスルダンスさん、ちょっとよろしくって?」

「……えあ?ああ、はい、何がよろしいかは分かりませんが、多分よろしい気が現在はしています」

久しぶりにフルネームを呼ばれた、やたら厳つい苗字で恥ずかしいからあまり呼ばれるのが好きではない。

しかし自分のフルネームを聞くのは本当に久しぶりだ、僕自身でさえ一瞬戸惑ってしまった。

忘れないためにも、自分に自分を紹介するという自己自己紹介を執り行っておこう。


僕の名前はゴア・キャッスルダンス、過剰に往生する常敗の聖女だ。

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