私のうちは貧乏子爵家
よろしくお願いします!
私のうちは、ええ没落をしました。
そうですよー。
世間で嘲笑されていますよー。
はい、なげやりです。そんな私に縁談ですと??
父よ……早くもボケたのでしょうか?確かまだ30代後半だったように記憶をしているのですが?
「なんと!公爵家がなぁ。お前に『是非とも』と言っているんだよ」
申し遅れました。
私は子爵家長女のアピカ・ローバーと申します。
ピチピチ(?)の18才です。所謂適齢期というやつです。ちょっと遅いかな?
私に縁談を申し込んだという奇特な公爵家はかつての名門・タカピラズ家。
なんでも王家に技術分野で貢献したとか?私にはさっぱりわかりません。
しかしながら、そんなタカピラズ家の当主はご高齢でいらっしゃる。
よって、私は世間では「没落した家だと行く末が知れている」などと嘲笑されているのです。
一応公爵家なんですけどね。
「あちらは着の身着のままで結納金などいらないと言っている。うちのような貧乏子爵家にとっては有難い話だ」
私には……有難いのかなぁ?
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私が嫁ぐ日。
私には侍女がいません。だって……うちは貧乏だもの。
家事全般のスキルが私にはある。何なら他家で使用人の仕事もできるんだけどなぁ。
公爵家……嫁ぐよりも使用人の仕事で行く確率の方が高いと思ってた。
ついてビックリ!屋敷がデカい!!
私一人で掃除しきれない!……いや、使用人としてきたわけじゃないんだけどね。
「アピカ様でいらっしゃいますか?お待ちしておりました」
コレは……執事というやつだろうか?初めて見た。
うちには執事がいません。だってうちは貧乏(以下略)。
「こちらにお部屋をご用意致しました。どうぞおくつろぎください。あ、この専属となった侍女のミカをお使いください。ミカ早速だが、アピカ様にお茶のご用意を」
「かしこまりました。アピカ様はお好みの茶葉などございますか?」
そんなものはない。むしろ、お茶を飲むという習慣がない。だってうちは貧乏(以下略)。
「……えーと、疲れているから疲労が取れるようなのがいいわね」
「かしこまりました」
あるんかい!公爵家は侍女のレベルも高いのね。
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この後、嫁いできたんだもの。当主である、この屋敷のご主人にお目通りかしら?
「ミカ?この後旦那様に会えるのかしら?」
「いいえ、アピカ様にはこちらに来ていただきます」
花嫁を着飾るってやつかしら?本で読んだわよ?図書館の。図書室なんてないわよ!だってうちは貧乏(以下略)。
「どうぞこちらにいらしてください」
なんで地下室の方に行くのかしら?なんだか怖いわ。ここの当主はまともかしら?技術開発……まさか乙女の血で不老不死……とかの技術を開発しちゃったりはしないわよね?はははっ。顔が引きつるわ。
ん?棺……。ゾンビが出てきたりして。怖い……。私はもうミカの後ろについて行く!
「大丈夫ですよ!アピカ様!」
棺が空いた。中からは、麗しい男性が出てきた。そう、素っ裸で。素っ裸で!
「キャーーーーーーー!!」
なんで裸なのよ?
「説明が遅れました。これは先代タカピラズ家当主が御創りになった、まぁ‘人造人間’ですね」
「‘人造’……」
「初めまして、ご主人様。私はこの屋敷に勤める使用人で貴方の伴侶となりますアピカ様の専属侍女をしておりますミカと申します。以後お見知りおきを」
おお、流れるように挨拶をミカはするもんだ感心してしまう。でも私は一刻も早くこの男性に衣服を……。
「わかった。私が今日からこの屋敷の当主なんだな?それで、そこの娘が私の伴侶となるようだな」
見目は麗しいんだけど……、どうにも裸なのが気になるんですけど?
「初めまして、マイハニー。名前はなんていうのかな?私の名前?うーん、侍女のミカっていうの?聞いてる?」
「申し訳ございません。先代からも貴方様のお名前は聞いておりません」
「困った」
それは私だよ!この全裸の麗しい男性が人造で、且、私の伴侶ということになるようだ。
はぁ、じーさんじゃなくてよかった。……とか言ってる場合じゃない!
「マイハニー、名前をつけて♡」
「マイハニーと言うのは私の事でしょうか?私にはアピカという名前がありますので、そちらでお呼びください」
「では、アピカ♡名前をつけて♡」
なんだ?この語尾に♡がついている感じの話し方は。ここの領地経営は大丈夫なんだろうか?
「うーん、人造だし……リンド?」
「ワタシノナマエハリンドニナリマシタ」
うえっ、いきなり機械的な片言!
「わーい!俺の名前はリンドだー!!」
絆されていいのかな?うーん、眉目秀麗なんだよね。
「リンド、とにかく服着てよ!話はそれからね」
こうして私・アピカは貧乏子爵家長女として公爵家に嫁入りしました。
********
服を着たリンドはホントに神々しい。合掌。
「えーっと応接間でいいかな?」
何でこの家の間取りとか知ってるのよ!
「先代が俺を作った時にプログラムに入れておいた」
「ぷろぐらむ?」
「あぁ、俺を作る工程は難しいから深く考えない方がいいよー。俺はこう見えて領地経営も完璧だから!」
……不安なんですけど?
「えー、申し遅れました。私はローバー子爵家より参りましたアピカ・ローバーです。18才」
「うん、知ってるー」
「え?何でー?」
「先代が俺に教えておいてくれた。それに18才のローバー子爵家の子が嫁に来るって聞いてた。いやぁ、マイハニーが俺の好みで良かった♡」
「それは何よりです」
「あ、敬語はいいよ。もうすぐ夫婦になるんだし♡」
いちいち語尾が♡なのが鬱陶しい。ん?もうすぐっていつ?
「あのー、もうすぐっていつでしょう?」
「「今夜♡」ですよ?」
二人に同時に答えられた。
「あ、俺は人造だけどしっかり子作りできるから心配しないでね♡」
全くしてないけど。公爵家の行く末は気になったケド。
リンドなら自分で『人造人間』作ってしまいそうだし、そこら辺は気にしなくても大丈夫だろう。
「あ、もしかして、俺達の子供について思案してる?きちんと100%人間だよ。俺だけ仲間外れなのはちょっと寂しいけどこればっかりは仕方ないよね。アピカに出会えたことに感謝♡」
ミカ・その他大勢の侍女さん達が私を囲む。
「アピカ、怖がらないで♡これから今夜に向けてアピカをピカピカに磨くの。彼女たちが。頑張ってね。俺は楽しみに待ってるよ、アピカ♡」
私はそんなに汚れていただろうか?ってくらい磨かれたら垢が出た。何で?
髪の毛に艶が出た。いい油で艶出しなんてできなかったもの。だってうちは貧乏(以下略)
爪も磨かれた。爪って磨くと光るんだ…。凶器のよう……。
リンドは気に入ってくれるかな?
「アピカ様の髪の色は飴色なのですね。艶が出て、まさに飴のよう。なんだかおいしそう」
……お腹減ってるのかな?
「アピカ様は肌がキレイですね。羨ましいわ」
……いや、化粧品は高価だから化粧は洗顔後の化粧水程度だけで、化粧してないからじゃないかなぁ?
「こうなったら、素材の美しさを生かして、要所要所に香水でもわずかにつける?」
「「「サンセー!」」」
というように、私の改造案は決まっていった。
リンドは完璧に眼福容姿端麗だからなぁ。私は釣り合うかな?
私はもっと頑張って公爵夫人しないとダメかな?
考えているうちに、私はリンドの待つ部屋に放り込まれた(侍女たちが押し込んだんだもん!)。
「リンド、こんな私でいいの?」
「こんなアピカが大好きなの♡」
そういってリンドの腕の中にいた。内心「うぎゃー!」と叫んでいる。だってだって今まで男性経験なんてないし、貧乏子爵家の令嬢を相手にする男なんていなかったから、男性免疫すらないのです。
男性アレルギーとか反応でなくてよかった……。
「へぇ、アピカはそのままでも可愛いのに侍女たちが頑張るとこんなに変身するんだ♡この姿は俺だけしか見ないよ。他の男に見せないでね!俺、嫉妬に狂っちゃうよ!」
「あの……放してもらってもいい?」
「えー?」
リンドは渋るけど、私の心臓が持たない!男前が…男前が…。鼻粘膜は無事だろうか?
「流石に陛下に言われたら見せますけど、他の男との接点ないし、大丈夫じゃないかなぁ?」
「アピカはうっかりさんだなぁ、もう。これからは公爵夫人だよ?いろんな夜会とかに招待されるでしょ?その時の心配してるんだよ」
あ、そうか。どうしよう。夜会はそれなりにオシャレしなきゃだしなぁ。
「それなら、リンドだって他の女性にモテモテでしょうから」
「俺?二人でお揃いの眼鏡でもしようか?それなら他の人間はちょっと離れるかも」
リンドはどうかなぁ?
「夜会とかで私から離れないでね」
「離れてって言われても離れないよ、アピカ♡ それでは、子作りしましょ」
……そういうのって雰囲気じゃないの⁇
**********
そんなこんなで子作りです。ミもフタもなく。
リンドは人外だからでしょうね。体力も精力も人外です。
三日三晩愛され続けました。よく飽きないもんだ。いや、飽きたら浮気されるんだけど…それは絶対ヤダ!!
「ねぇ、汗かいちゃったからシャワーを浴びたいわ」
「そうだよね」
こうして二人でシャワーを浴びることに…。何で?
「シャワーを浴びるアピカも可愛い♡」
…すごく嫌な予感……。
こうしてシャワーを浴びた状態でコトを致しました。
「きちんと体を拭かないと風邪ひいちゃう!!」
「どうせ、汗だくになるから変わらないよ?」
それならシャワー浴びた意味ないじゃん。
そうしてベッドとシャワーを交互に行ったり来たりして(公爵家の侍女は優秀でシャワーを使っている隙にベッドメイクをしている)、三日三晩愛され続けたのです。
私はというと…その後1週間ベッドから起き上がれなくなり、リンドに心配されました。
「アピカ大丈夫?ねぇ、大丈夫?」
うーん、今後気を付けてくれればよいのです。
「大丈夫、原因がわかってるから。私も体力つけるけど、リンドも……ね?」
「うーん…わかった…。ところで、アピカ、妊娠したね?」
え?昨日の今日でもうわかるの?
「まぁ、俺は特殊だからわかるんだけど。俺、お父さんになるのか。ちょっと楽しくなってきたな♪」
私はもうちょっと新婚さん楽しみたかったな。ってリンドに言ったらなんか大変なことになっていそうな気がした。
「…ところで、夜会に招待されたよ。主催が皇太子妃なんだ。だから断れない。約束したお揃いの眼鏡をかけようか?」
「ふふふっ、そうね。あ、私…ドレス持ってない……」
そうよ私は元貧乏子爵家令嬢だから、夜会に相応しいドレスとかアクセサリーとか持ってない!
「ドレスはお腹を圧迫しないようなデザインで採寸しよう。明日は体起こせる?アクセサリーの類は侍女達に任せよう。必ず目利きがいる!」
先代情報だろうか?すごいな…。
「あ、妊娠。お腹の子の性別とか知りたい?」
えー?そこまでわかるの?人造人間色々すごすぎなんだけど?
「子供の性別はお楽しみの方がいいなぁ。リンドの子供だから絶対可愛いし」
「半分はアピカの子供だもん!」
リンドはプクっと頬を膨らました。イケメンは可愛い状態もイケメン。なんかズルい。
***********
翌日採寸をすることにした。
「俺の奥さんは妊娠してるから気をつけてね」
イケメンに言われた針子さんたちはそれはもう張り切った。
ものすごい速さで採寸していった。
さらにデザインでも、「このデザインが今の流行で…」とかすごい色々言われたので、デザインはおまかせにした。
公爵家の若いイケメン当主からの依頼、いい加減な仕事はしないだろう。
リンドに気に入られれば、今後の御用達になる可能性大。商売のビッグチャンス☆である。逆は商売できなくなるから、ここが気合いの入れ時だろう。手は抜けない。
アクセサリー業者も同様にいいものを持ってきたのだろう。
私にはわからない……。多分ガラスでも同じに見える。
目利きの侍女は本当にいた。先代情報本当にすごい!
「こちらは、希少価値の高いルビーでございまして…少々お高いのが難ですな」
「そうですか?こちらのルビーはそこらのルビーと同じものではありません?そうですね、産地などの証書をお持ちになって、またこのお屋敷にいらしてください」
と一蹴した。
「奥様、騙されてはいけませんよ?公爵家はお金があると思って、偽物を売りに来る輩が多いのです。目を養う事も重要です」
はあ、知識とかマナーだけじゃないのか…。
「その点宝石はある程度わかるようになればわかりますし、証書を見せろと言って帰っていくような輩は胡散臭いですね。わかりやすいのです」
ほぅ。でも、私のような貧乏子爵家出身の者には難しいのです。
公爵家の侍女は、悪くても伯爵家?なのかなぁ?そこら辺はわかりません!
「リンド!お揃いの眼鏡はどうやって入手しましょうか?」
「執事に「眼鏡を夫婦で揃いで入手したい」と伝えた。あの執事は優秀だから一両日中に執事に指名された眼鏡屋がこの屋敷に来るだろう」
公爵家というのは買い物の際に出かけないのか…。店が家に来るのか…。カルチャーショックだな。
翌日には私のドレスが数着完成した。
「どちらのドレスがよろしいでしょうか?試着をしますか?もちろん針が残ってないかは入念にチェックをしました」
お手数をおかけしました。
「とりあえず……全部買っとく?」
リンド…その発想、怖いです。どのドレスも素敵ですケド。
「試着をしてみて2・3着でいいのでは?」
「でもアピカ、全部アピカのサイズなんだよ?もったいないじゃん」
うーん。持って帰っても運よく私と同じサイズの人がいるかどうかわからないし・・・。
「そう言われるとそうね。やっぱり全部お願いします」
「「「ありがとうございます!!」」」
リンドに「あとで2・3着試着して俺だけに見せてね」と言われた。
一人で着れないデザインの服とかあるんだけど?
お揃いの眼鏡は黒縁の眼鏡にした。もちろん度は入っていません。視力はいいです。
眼鏡をかけていれば、夜会でも大丈夫だろうと、リンド。何が大丈夫何だろう?
眼鏡をかけたリンドは『知的なイケメン』にしか見えないから困ったもんだ。
やはりイケメンはズルい。
***********
夜会当日
リンドと私は揃いの眼鏡をかけている。みるからにペアということがわかるだろう。
トドメは公爵家に伝わるネックレスというものを私は身に着けている。
肩が凝りそう。目利きの侍女曰く、『値がつけられない価値がある』らしい。
うーんリンドに秋波を送っている令嬢がいるなぁ。
リンドはガッチリ私の腰をホールドしてるんだけどなぁ。
うん、私もリンドの腕を組む(つかむ)くらいしよう。
「アピカ……それは、俺を誘ってるのか?まだ妊娠超超初期だから大丈夫だけど?」
「あの…あの…そんなつもりじゃなくて!リンドに秋波を送ってる令嬢を牽制してるつもりなんだけど?」
「わかってるよ。でも……今日は綺麗だね。眼鏡があって良かった。今日着ているドレスも俺が脱がすんだ♪」
あぁ、結局そうなるのか……。私はお腹に影響がなければいいです。その後、体力はついたつもりだけど、リンドが手加減してくれればいいんだけど。手加減してくれるよね?私は腐っても妊娠中だし。
「皇太子妃へあいさつに行かなきゃだから、二人で行くぞ。あ、妃殿下の前では眼鏡外してな」
「タカピラズ家当主とその奥方ね。まあ、美男美女。ふふふっ、ここ以外で眼鏡をかけているのはお互いにお互いヤキモチかしら?でも、貴族のなかでは賢明かもしれないわね。リンド公爵の領地経営手腕は素晴らしいわ。短期間での成果が著しい」
「いやぁ、アピカと結婚してからですか?ちょっと、いやかなり頑張りましたよ?」
「またご謙遜を。おほほ。他の者たちにも聞かせてやりたいくらいの成果をあげてるじゃない?」
「もったいなきお言葉」
いつの間に領地経営?リンドは謎が多いなぁ。
「奥方も可愛い方ね」
「アピカ=タカピラズと申します。畏れ多くも子爵家よりリンド様の元へ嫁いだため不躾になってしまいますでしょうがお許し願います」
「まぁそうなの?公爵がよほど熱烈に貴女を所望したのねぇ」
と妃殿下がリンドを揶揄した。
「先代の遺志にもありましたし、アピカに会った瞬間私は彼女に一目ぼれしてしまったのでどちらにしてもでしょうか?他の令嬢が目に入りませんよ」
「ご馳走様。わたくしも他の貴族とのあいさつをしなくてはならないので歓談もここまでね。また今度ゆっくりお話ししましょう」
そう言って妃殿下との面談は終わった。
私は妃殿下なんて雲の上の存在との会話だし、今まで挨拶をしたことなんてない!!王家なんて畏れ多い!!
……それにしても
「リンド、いつの間に領地経営なんてしてたの?」
「アピカも眼鏡かけて!!えー、さっきアピカに誘われたからなぁ。今夜教えてあげるよ♪」
悔しいからリンドの腕にしがみついた。
「おーっと、やっぱりアピカは誘ってるんだね♡喜んで♡」
リンドにグッと腰をホールドされた。
「あら?ダンスホール?」
「アピカは本当にうっかりさんだなぁ。夜会だもん、ダンスホールくらいあるよ。踊っとく?アピカはダンスが得意?他の令嬢とか見るよ?」
「なんとびっくり、こんな私がダンス得意なの。(今までパートナーいなかったけど)」
リンドに上目遣いで言ってみた。何としててもリンドに勝ちたい!
「そんじゃあ、決定だな。奥さん、1曲私と踊ってくれませんか?」
リンドは跪いて私に手を差し出した。
「喜んで」
私はリンドの手を取って二人で歩きだした。
「アピカ、せっかくだから眼鏡外してやろう?」
悪戯っ子がすぎるなぁとは思うけど、その方が面白そうだと思う。
「そうね、外しちゃおうか」
そうして、ダンスホールの
ど真ん中に居座った。
観衆からは「あのお方はどちらの方?素敵な方。次にダンスを誘ってくれないかしら?」「あの美女はどこの令嬢だ?俺は令嬢のことは網羅してるつもりだったが…」などと聞こえてくる。
「アピカは今日も俺のもの~♪」
なんだ?いきなり口ずさんでる。聴衆には聞こえてないよね?
「眼鏡を外すと一段と可愛い&綺麗だね♡」
「ありがとう!リンドも素敵よ」
このくらい言わないとなぁ。
「それにしても……アピカの今日のドレスは誰が選んだの?」
「え?変?えーと、ミカとか私付きの侍女達と私で数日前から考えたんだけど?」
「変じゃなくて……胸元開き過ぎじゃない?」
ちょっと待った!この向かい合った状態だと、リンドは所謂胸の谷間が見えてるよ♡ってやつですか?そんなつもりはないんだけど…。侍女達……謀ったわねぇ?まぁ、こんなのどうでもいいけど。
「ホルターネックで可愛いんだけど、胸の谷間が……。目のやり場が……」
何を紳士ぶってるの?私を抱きつぶすのに!
「リンド!私の顔を見て!平気でしょ?そんなんじゃ、ヒールで足踏むわよ?」
「奥さんに踏まれるならイイかも」
新しい扉は開かないでください……。
「あの二人、すごくダンスが上手。でもなんだか教科書通りって感じがするのは気のせいかな?」
「そういえば!女性のドレスが素敵だなぁって見惚れたから、気づかなかったけどそうかも」
というような囁きがあちらこちらで聞こえてきた。
だって、ダンスパートナーいないから教科書通りにできるようになるのが精いっぱいだったし。私は。リンドはそういう風に“ぷろぐらむ”されてるのかな?
「アレンジすればいいのかな?うーん、アピカ!リフトするよ」
私はリンドに持ち上げられた。一応妊婦なんですけど…。
「アレンジ?難しいわね?足踏んじゃうかもだけど、大丈夫?」
「アピカに踏まれるなら♡」
だから、新しい扉は開かないで~
それからは私とリンドに観衆の目は釘付けになった。……同時に踊ってすいません。
私のドレスも評判がよく、特にドレスの裾にチラッとふくらはぎが見える程度のスリットが入っていて私のふくらはぎが見えるたびに「おぉー」と太い声の歓声(?)があがった。
リンドにはそれは不評だったようで「アピカの脚は俺だけのものなのに…」と不機嫌だった。
ドレスは男性にはスリットが好評だったが、女性にはスカートの広がった部分に多くのビーズ、スパンコール、金糸、ガラス玉(本物の宝石かな?)だついていて(重いんだけど)、私がくるりと回るというか、リンドのリードで回されるたびにキラキラして、それが好評だった。
良かったね。このドレスを作った針子さん達のお店、これから大繁盛よ☆
「リンド?機嫌直してくれないかなぁ?このドレスはリンドが脱がすのよね、約束だもんね。それはそうとちょっと残念だわ」
リンドは不思議そうな顔をした。私の思うつぼ!
「一緒に作ったドレスの中に夜着もあって、スリットがふとももまで入ってるやつあるのよー。今度、リンドの所にそれを着ていこうと思ってたんだけど、今日はこのドレスね。ちょっと残念だわ」
少し残念そうに言った。本音は「また抱きつぶされるんだろうなぁ」だけど。
「アピカ!今日はこのドレスで我慢するけど、今度今言ったのを着て俺に見せて!」
我慢する?結局は抱きつぶすんでしょ?でもまぁ、リンドの機嫌が直ったからいいか。
「お嬢さん、次は私と踊ってくれませんか?」等の申し出が多く出た。
「申し訳ないが、妻は私とだけ踊るので失礼する。ちなみに君の家は?」
私は“お嬢さん”と言われてちょっと嬉しかったけどなぁ。それにしても、家を潰す気でいるんですか?私にダンスの申し出をしたくらいで?
「アピカ!あと2・3曲踊ったら帰ろうか?もう妃殿下への挨拶もすんだことだし」
そんなに帰りたいんだね…。
「私はダンスが好きだし。あと2・3曲踊りましょう。きっと疲れるでしょうからその後は帰りましょうか?」
リンドは疲れ知らずだろうケド。
こうして私とリンドは夜会を過ごし、その夜私は予想通り抱きつぶされた。翌日は半日起き上がれなかったけど、リンドとしては手加減したんだろうか?
朦朧とする意識の中で「ふとももまでスリット」という言葉を覚えている。
**********
子供の名前は男の子用と女の子用の二つ用意しておいた方がいいかな?
私のお腹もポッコリと目立つようになりました。
リンド……マジで妊娠がわかったんだなぁ。この調子ならお腹の子の性別なんかも知ってるんだろうけどお楽しみの方がいいし☆
「リンド!リンドは女の子用の名前を考えて!私は男の子用の名前を考える!お腹もポッコリしてるし、あとちょっとで会えるかなぁ?内側から蹴られたりするんだよ」
「え?それは聞いてない!知識では知ってたけど、実際に触ったりはない。俺も蹴られてるのを感じたい」
それは蹴られたいということ?あぁ、動いてるのを感じたいという話かぁ。
私の名づけは男の子用で、男の子は『アレックス』ということにした。
「アピカアピカ!女の子用の名前は『アリア』。でどうだ?」
いいと思う。
「ところで……最近はお腹を蹴られたりとかないのか?」
「寝てるのかな?最近はあんまり動かないよ?」
「そういえば、産婆さん(?)とかと契約してないけど…大丈夫かな?」
「あ、俺が子供を受け取る(?)事にした。異常時には俺なら、医者みたいなこともできるし。万全だ!」
そうなのね。よく「ここからは男性禁制」とかいうのにうちはリンドが産婆さんの仕事をするんだ。いいんだけど、なんか複雑。
「それと、知ってると思うけど……産後はしばらく夫婦の夜の営みというやつができません」
「はぁ、知ってたけどマジかぁ。アピカの事を思ってしばらく我慢します!」
「浮気しないでよ!」
「するわけないじゃん」
「よく、産褥期に浮気が発生するみたいだよ?」
「世の中の男というものは……!」
リンドが言う?何度抱きつぶされたことか!というのは黙っておこう。
「リンド、まだ大丈夫だと思ったのに産まれそうなんだけど?」
「あ、破水したんだね?ミカ、侍女達に清潔な部屋を二つ確保するように伝えて」
「二つ?」
「そう、二つ」
「手術道具は消毒しないとなぁ。あ、すぐには産まれないから、アピカは落ち着いて侍女が用意した清潔な部屋に移動してね♡」
“はすい”って何だろう?何で部屋が二つ必要なんだろう?手術道具必要なのかなぁ?それにしてもものすごい痛いんですけど?
清潔な部屋……公爵家の侍女さんはすごいどこかしこも埃ひとつないんじゃないかなぁ?私自身が一番汚いと思う。
「じゃあ、アピカはベッドに横になってかなり恥ずかしい格好することになるけど、我慢してね♡」
リンドの言う通りかなり恥ずかしかった。何よりそこをリンドがガン見しているのが。
必要なこととはいえ、恥ずかしいなぁ。公爵家の事を思うと男の子がいいんだけど、こうなったら元気な子ならいい。関係ないことを考えて恥ずかしいのを誤魔化そう。すごい痛いけど。
今日の夕ご飯はなんだろう?公爵家の夕ご飯美味しいんだよなぁ。私も料理できるから教えてくれないかなぁ?お菓子作りくらいなら許可が下りないかなぁ?許可するのはリンドだけど。
子供産んだら体形戻るかなぁ?太るのは嫌だなぁ。子供には乳母がつくから、私は運動して体を元に戻そう。ついでに体力つけないとな……。痛いなぁ。
そう言えば、妃殿下がご懐妊らしいなぁ。王家は世継ぎを望まれるから大変だなぁ。
私はかなり思考を飛ばしていた。「はい、教えてた『ラマーズ法』の呼吸をそろそろしてください」とリンドに現実に引き戻された。すごい痛い。
『らまーず法』…よくわからないがいいらしい。
「あ、子宮口全開。アピカ!俺が言ったらイキんで!」
イキむって何?力入れればいいの?
私はとにかくリンドに合わせて力を入れた。
産まれたようだ。声が聞こえない。死産?
「ミカ!この子を頼んだ」
「もう一人いるから続けるよ」
もう一人?いつの間に?リンドは知ってたの?リンド、ミラクル☆
産まれたようだ。声がうるさい。私は疲れてるのに……。
「さぁ、お母さんの初仕事、この子に母乳をあげて下さい。出る?俺確かめる?」
リンド、マジですか?私は産まれた我が子に母乳をあげながらリンドに質問した。
「リンド、いつから双子って知ってたの?この子の性別は?」
「双子なのは最初から知ってたよ。その子は女の子だからアリアちゃんだね♡」
「先に産んだ子はどこに行ったの?」
まさか焼却炉とか嫌よ?
「隣の清潔な部屋。声してなかったから、強制的に生かしたというか、起こした?生き返らせる?なんか言葉が出ないけど、手段が出産中のアピカには刺激的だから隣の部屋で処置をしてもらった。処置の方法は予めミカに教えておいてる」
「どうやったの?」
「人工呼吸。それで息を吹き返さなかったら、尻を叩く!あ、男の子だよ。処置が終わったみたいだから、アレックス君にも母乳をあげてください♡」
性別も双子って事も最初から知ってたのか。
「うーん、二人とも目鼻立ちがしっかりしてるから間違いなく美男美女だね!アリアちゃんはいつかお嫁に行っちゃうのかぁ。寂しいなぁ。アレックス君、可愛いお嫁さんを連れてくるんだ!」
「リンドには私がいるからいいじゃない?」
「うーん、アリアちゃんがお嫁に行っちゃうのは寂しいなぁ」
もう親バカですか?まだ目も開いてないんですけど?
「アレックス君とは将来的に別棟で生活しましょうね!というか、リンドが引退すればいいじゃない?二人で領地に引きこもって……ね?」
「うーん、その場合さらに家族が増えそうだけど?」
「避妊というものをしましょう」
***********
その後、親子4人で生活をしている。でも……リンドが事あるごとに抱きつぶすから。って人のせいにするのはどうかと思うけど、私はまた妊娠をしています。
今度は最初から性別を教えてもらってます。男の子みたいです。
アレックス君もアリアちゃんも10才を越えて、そろそろ婚約者候補とかいたほうがいいのかな?と思うけど、リンドが「まだ早い!」って突っぱねてるんです。毎日のように釣書は屋敷に届きます。
そうよね。だって公爵家の秘蔵美男美女でウワサになってるから。
そんなだから陛下に呼ばれたんです。「噂の子供たちに会いたい」って。
陛下ってのはずっと前の夜会の時の主催だった妃殿下の旦那様、です。かつての妃殿下はそのまま王妃様におなりあそばしました。
妃殿下とは度々お話をしたり手紙を送りあったりしてたんですけど、今度は相手が陛下かぁ。
王妃様にはアレックスもアリアも会ったことがあるけど、そこからお耳に入ったのかなぁ?
「陛下の職権乱用だ!」
「ごねないでください!アレックス、アリア、今日もお城に行くわよ!」
「お城楽しい!」
「騎士様、格好いい。俺、騎士になりたいなぁ」
アレックスはうちを継いでほしいんだけど、自由かな?お腹の子もいるし。
**********
「陛下、ご機嫌麗しゅうございます。うちの子供を見たいということで今回は連れて登城した次第でございます」
「うむ。公爵夫人は王妃と親しくしてくれているようで私は嬉しい」
「有難きお言葉です。こちらがうちの子供です。男の子がアレックス、女の子がアリアと申します。ほら、二人とも挨拶!」
「アレックス=タカピラズと申します。公爵家長男です」
「アリア=タカピラズと申します。公爵家長女です」
「公爵夫人、二人には決まった婚約者がいるのか?」
「それが……公爵が「まだ早い」と…」
「二人は何才だ?」
「「10才!」です」
「公爵!物は相談なんだが、うちの息子とアリア嬢を婚約させては如何かな?」
この場にリンドはいるのです。ただ仏頂面で、不機嫌全開オーラを醸し出してるから話しかけなかっただけで。
「ハイハーイ!アリアが妃殿下になるなら僕は妃殿下を守る騎士になる!」
ほれ見ろ!さっさと決めないからこんなことに。
公爵といえども陛下の提案には逆らえないし、加えてアレックスまで王家に取られた。形になったじゃん。
「アラ素敵ね。アリアちゃんがうちの息子と婚約してアレックス君がアリアちゃんの護衛騎士をしてくれるの?」
あーあ、リンドがどんどん不機嫌になっていく。
「私は賛成です」
当然、王家には逆らえない。リンドも血の涙を流し、断腸の思いで「さん・・せ・・い・・で・す」と返事をした。
どうしたものか?
お腹の子には公爵家を継いでもらわなきゃダメなのかなぁ?リンドに聞いてみよう。
************
「リンド、頑張ったわね。アリアは妃教育のために、アレックスは騎士としての訓練に参加するためにお城に残った訳だけど。お腹の子、公爵家の跡継ぎとして育てないとダメかなぁ?私は自由に恋愛して好きなように生きて欲しいな。そこに公爵家の跡継ぎってのがあればいいけど」
「俺、まだ立ち直れない……」
しかたないなぁ。
「この年でまだ着れるかな?ふとももまでスリットがはいった夜着今日は着ようかな?」
まだお腹目立たない程度だし、そこらへんは大丈夫だろうけど、年齢的にセーフだろうか?
「アピカはずっとキレイだよ。今夜は楽しみにしてるね♡」
完全に立ち直った。単純だなぁ。私は妊婦だけど大丈夫かな?そこら辺は手加減してくれるか。
やっぱりなぁ、今回も抱きつぶされた。お腹の子は大丈夫かな?
リンドだってお腹の子の事気にしてるよね?多分。
出産のときはまたあの格好するのか。ものすごい痛いし、こっちは大変なんだよなぁ。
昔は夕飯なんだろう?とか考えたけど、結局夕飯食べる元気もなかったし。
リンドに高齢出産って言われた……。“高齢”ってまぁ確かにね。アレックスとアリアを産んだ時は19だったけど、今は29だもんなぁ。
「アピカ、ショックだと思うけど、聞いて欲しい。お腹の子なんだけど、完全に俺のせい。お腹で亡くなってしまった」
……え?そんなことあるんだ。確かに蹴られたりしないとは思ったんだけど、なんでだろう?そんなにショックじゃないのは、私は薄情かな?
「それで……そのままだといけないんで俺がアピカの手術をすることにした。けどまだそんなに育ってないから、薬で流す。強制的に体外に出す。麻酔もしよう。俺を信用してくれるか?」
「リンドの言うことなら間違いないんでしょう。信用してる」
そして私の体外に出された亡くなった我が子は庭に埋葬した。
毎年この子の誕生日を祝うことにした。アレックスとアリアにも伝えた。二人は自分たちに弟ができるのを楽しみにしてたから。
「もう、子供を作らないようにしましょう?」
「そうだなー。後味が悪い。また、抱きつぶすのはいいだろうか?」
「私が妊娠しなければ。リンドなら出来るんでしょ?公爵家の跡継ぎ問題はどうしようか?」
「僕が騎士になるのを辞めればいいの?」
「「違う」わよ」
「跡継ぎは……また俺が作るかな?」
「リンド2号?」
「そんな感じ」
タカピラズ公爵家はこうして代々人造人間を作っていくようです。
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アリアは殿下が正式に立太子されて、妃殿下になった。
アレックスは訓練の中でも特に優秀で難なく近衛兵になり、妃殿下の護衛騎士になった。
私とリンドは早々に領地に楽隠居しています☆
全部自分でやるって久しぶり。炊事・洗濯・掃除・畑仕事。もちろん一部ミカも手伝ってくれるけど。
気ままに暮らしてます☆
ドレスとかはここには必要ないけど、リンドのお気に入り『ふとももまでスリットが入った夜着』は持って来ています。着れるまで着たいと思います。
了
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