9.召喚(4)(R)
9.召喚(4)
昔鳥を治療する宮廷魔術師の代表七名だったが、一人また一人と倒れていった。
それだけ魔術騎士ユズルハズルの魔術が強固だったのだろう。
残り三名になった時点で、光がうすまっていった。
「もう少し……」
「集中しろ」
口髭をたくわえたシルバーグレイの魔術師に、キロルテロルが注意された。
キロルテロルは若いが実力がある。光の魔術の代表なので当然といえば当然なのだが。
それまで強く輝いていた光が小さく淡くなっていった。
向こう側まで見えないほど光っていたのに、ゆっくり消えていった。
「終わりました」
カクマリクマが笑顔で宣言した。こころなしか、やつれている。
「カササギさん!」
上月が駆け寄る。
確かに傷は治っていたが、意識は戻っていなかった。
「どうして目覚めないんだ?」
「拒否反応です。コウヅキさん」
「どうにかしろ!」
「こればかりは私どもでは――」
「――なんとかしろと言った」
上月がカクマリクマの服を掴んで、軽く持ち上げた。
「落ち着いてください。私を殺してもそれはできません」
静かにカクマリクマが述べた。召喚した勇者に殺されたとあっては王国史に永遠にその名が残されるだろう。
上月が手を放した。カクマリクマが無事に着地する。
「さいわい命の炎は感じられます。――勇者であるコウヅキさんは、召喚時に何らかの魔術変換があると考えられますが、この方には使われなかったのでしょう」
「カササギさんだ。覚えろ。――どうする?」
上月が壁にかけられた剣や槍に目をやった。
「聖女とかいないのか?」
「方法はあります」
カクマリクマが質問に答えず、別な答えを提案した。
「どうするんだ?」
「この世界の人は多少なりとも魔法の素子――魔法の基本的要素である魔素を持っています――」
「説明はいい。具体的に何をする?」
「この方――はいカササギさんですね。カササギさんの身体に合う魔因をご自身でつくってもらいます」
「はあ」
「魔法の七つの属性すべてを与え、そのうちの一つか二つを選んでいただいて――」
「――どうやって選ぶんだ?」
「カササギさんの反応しだいですね」
「……本当に宮廷魔法使いなのか?」
「私どもは魔法使いではなく、魔術師です」
「どう違うんだ? まあいい、それで?」
「ここにいる宮廷魔術師一人一人の魔法属性をカササギさんの身体に刻みます。まずは光のキロルテロル」
「はい! 光の魔術師キロルテロルです」
キロルテロルが元気に答えた。
「次に闇のカクナロクナ――」
「――挨拶はいい。早くやってくれ」
口髭&シルバーグレイの魔術師が挨拶しようとしたが、上月が急がせた。
「かしこまりました。キロルテロル」
「始めます」
「早くしろ」
キロルテロルが、昔鳥にキスをした。ディープキスだ。舌まで入れている。
「何をやってるんだ?」
「魔因の摂取と魔素の形成とそれらの返却です」
カクナロクナが解説した。
「ホント?」
「本当です」
「ということは、あの……」
「――キロルテロルの場合、あの方法が一番効果的なのです」
カクナロクナが静かに述べた。
「できました!」
カクナロクナが針を取り出すと、昔鳥の薬指に軽く刺して二三滴、血を飲んだ。
「闇だから血なのか……」
ちょっと期待していた上月が残念がった。
「いいえそうではなく、これが一般的なのです。相手の血液を自らの体内に入れます。魔因から、魔素を形成して、相手に戻します」
カクナロクナの身体がやや光り、やや暗くなり元に戻った。
針を出したカクナロクナが自分の指を刺し、昔鳥の口を開け、血を垂らした。
「キロルテロル……」
「はいなんでしょうコウヅキさん」
「あとでアレも治せよ」
「もちろんです」
昔鳥の口の中は血でいっぱいだった。キロルテロルがキスをしながら血が出るまで舌を噛んだのだ。直接血を飲みながら、魔因の摂取と魔素の形成とそれらの返却を一度にやれば効率的ではある。また、傷からも吸収されるので時間短縮になる。
七名の作業が終わったとき、夜が明けていた。