8.召喚(3)(R)
8.召喚(3)
魔術円の中で、上月が泣きながら何か叫んでいた。
「カササギさん! 死なないで!」
「揺する……な……」
名前を呼ばれた昔鳥が答えた。血の気がなかった。
(気絶していたのか……)
「よかった! カササギさん! 俺……俺……」
(出血を止めなければ……)
「横に……傷口……押さえ……」
「はい」
魔術円に横になると、昔鳥が傷口を確かめた。「ここ」と押さえる場所を言った。
(魔術騎士とか言ったな。〝魔術〟と)
「魔術……剣に……魔術……上月くん……傷……」
見上げた昔鳥が上月の腕の傷が治っていることに気づいた。
「時間まで逃げ切れば、回復してくれるそうです。異世界召喚の特典で。俺……興味本位から迂闊に応じちゃって」
「巻き添え……」
「ごめんなさい! 俺のせいで……でもどうしてカササギさんは魔術が使えるんです?」
(魔術……アレか。となると、この心臓の痛みはそうか……)
「知らない……とりあえず……助かったか……少し眠る……」
昔鳥が宙に一筆で星を描くと、心臓に押し当てた。
一瞬で顔色が戻った。
「カササギさん!」
「名前を教えるな……下の名前……」
「名前? 異世界だと名前を奪われてコキ使われるんだろう? 定番だもんな。分かったよ! カササギさん!」
「教えるな……絶対に名前……」
「分かったから――えっ?」
上月の手が、あわく光っていた。
「魔術? 俺も? 治すからね! カササギさん!」
笑顔になった上月を見て、気を失った。
*
宮廷魔術師の代表七名が見守るなか、カクマリクマが召喚魔術を唱え終えると、魔術円がやわらかく光り、ぼんやり人影が見えてきた。
(成功。――えっ? 小さい。……子供? 違う!)
座っているだけだった。
「えっ?」
カクマリクマが驚愕したのは、もう一人いたからだ。
「カササギさんを助けてくれ!」
泣きながらあらん限りの声で上月が叫んだ。
「キロルテロル!」
「はっ!」
カクマリクマが、美しくも胸の大きな上級魔術師の名を叫んだ。
すぐに昔鳥に対して、治癒魔術が開始された。
まばゆいほどの光が発せられる。
「私は、宮廷魔術師カクマリクマです。このたびは私どもの――」
「必ず助けろよ! 俺は上月だ」
「コウヅキさまとおっしゃいますか。なるほど。どういった意味なのでしょうか」
「教えない」
カクマリクマの動きが止まった。
「あのお……」
「教えない。まずはカササギさんを助けてからだ」
「はいかしこまりました。コウヅキさま」
「呼び捨てでいい。敬語もいらない」
「そうは申しましても……」
「とりあえずカササギさんを助けろ。話はそれからだ」
「はいかしこまりました。……コウヅキさん、ではどうでしょうか?」
「好きにしろ。クマさん」
「クックマさん……プププププ」
キロルテロルが胸を揺らして笑った。光の波長がズレる。
「キロルテロル!」
「はい!」
「キロルテロル」
上月が目を細めながら、治癒に特化した宮廷魔術師に声をかけた。
「はいなんでしょう。コウヅキさん」
「カササギさんが死んだらまず最初にお前を殺す」
(あー本気だこの人……)
キロルテロルが術を強化した。光が大きくなった。
「本気を出せ!」
より輝く。キロルテロルの額から汗が落ちる。
「次にクマさんを殺す」
指を差されたカクマリクマが短い足で昔鳥の元にやってくると、手を当てた。三倍ほど大きくなった。
「そのあと全員殺す」
残り五名が我先に走った。
七色の光が昔鳥の前身を包んだ。