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7.召喚(2)(R)

7.召喚(2)


 暗闇に足音が近づいてきた。


 昔鳥かささぎが小声で「音を出すな」と注意したが、上月こうづきが逆らったので居場所がバレてしまった。


「――来た。バカめ」


「バカと言うな。……さっきのおっさん?」


 血の匂いをたよりに、昔鳥が上月の喉に軽く手刀を入れた。


「――」


 声にならない。


「アコース。……アコース? アコース!」


 昔鳥がアコースと呼ばれたソレの髪をつかんで動かした。


「お前もあの貫手ぬきてにやられたのか……クックック……下がっていろ」


 昔鳥がつかんだまま移動した。アコースの身体が壁に当たる。


(壁……)


 壁を背にする。


「……貴様、アコースをったのか?」


 昔鳥が音もなくベルトをゆるめ、PCケースを静かに床に置くと、上着を脱いで手に持った。


「許せんな……」


 ミシリミシリと音がした。牙か爪か、その両方だろう。


 ケースを開けて、Apple MacBook Proを広げた。暗闇に光は毒だ。


〝なにか〟がMacBookを壊そうと歩んだ瞬間に、上着を足下に投げた。勢いがあったのでMacBookのほうに倒れる。


 昔鳥が左の四本貫手で喉に攻撃した。


〝なにか〟が不自由な体勢で違う手で喉を防御した。


 昔鳥がその腕を左手で押さえると、右手でベルトをはずして顔に叩きつけた。居合いあいの要領だ。


〝なにか〟が蹴りを繰り出した。身体をねじっているため勢いがない上に、昔鳥が腕をはなしたので、平伏状態になってしまう。


 馬乗りになった状態で首に回していたベルトを締め上げた。


「手伝え!」


「えっ?」


 MacBook Proの光でぼんやり見ていた上月が声をかけられて、目をパチパチした。


「上月!」


「はい!」


「そっち持て! 早くしろ!」


「はい!」


(やっぱりな……)


〝なにか〟は二人を背にしたまま、立ち上がろうとしていた。


「両方持て! 返事は!」


「はい!」


「〝俺の手はそっちには回らなねぇんだよ〟」#金田正太郎


 昔鳥が〝なにか〟の手首を掴むと関節を外した。


「クッ!」


〝なにか〟が蹴ろうとしたが、昔鳥はその勢いを利用して同じように関節を外した。


「ふう……」


 泡を吹いたのを見て上月が手を緩めたが、次の瞬間〝なにか〟が顔を上げようとしていた。


「チッ!」


 昔鳥がその頭を掌底で打った。動かなくなる。脳震盪のうしんとうだ。


「最後までやれ! 手を抜くな!」


「アンタ何サマのつもりなんだよ!」


「やれ、上月くん。生き返るぞ」


「はい……」


 昔鳥が〝なにか〟の首の骨を折ろうとして、前を見て手を止めた。


「思い出した! カササギさんだ」


 上月が昔鳥の見ている方向に目をやった。


 死んだはずのアコースが生き返っていた。首を斜めにゆっくり近づいて来る。


「チッ!」


 急いで頚椎けいついを折った昔鳥が後ろの男に気づいた。


「逃げろ!」


 軽装の騎士の剣が昔鳥を袈裟斬りにした。


「カササギさん!」


 上月が背中を支えた。昔鳥が両手で胸を押さえるが血は止まらない。


「……いいから……逃げろ」


 足下がぼんやり明るくなった。


「時間切れか……勇者はよほど運がよいと見える」


 何かの紋様が刻まれた円が浮かび上がった。


「また会おう、勇者コウヅキ。我が名はユズルハズル。魔術騎士ユズルハズル」


 魔術円らしい。


「魔術……」


「カササギと言ったな。魔術騎士ユズルハズルだ。フフフ、覚えておくがいい、カササギ」


「〝さんをつけろよデコ助野郎〟……魔術」


 虫の息で返した昔鳥が、血のついた片手を前にした。


「何をする気だ? カササギ、貴様、魔術が使えるのか? アコース! 対魔術――その首」


 死人しびととなったアコースは魔術が使えない。


「やめろ! 召喚中に魔術を使えばどうなるのか知らんのか!」


 昔鳥が指を開くと、五本指で宙に横五本線を描いた。


「……ユハズルズル」


 親指を閉じて、今度は縦四本線。


「ユズルハズルだ! やめろー!」


 高高指をユズルハズルに向けた。


ね」


 縦横九本の線がユズルハズルに向かうが、魔術円の縁で半分が反射された。弱くなった九本線がユズルハズルの鎧の胸にあたり、消えた。


 苦痛にゆがむユズルハズルの悲鳴はもう聞こえないが、九本線がかごとなって心臓を掴んだのだろう。


 反射された九本線が昔鳥の心臓を掴んだ。



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