表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/66

6.召喚(1)(R)

6.召喚(1)


 深夜の地下街をひとり上月こうづき少年が走っていた。学生服の二の腕の部分がやぶれて、血が流れていた。


「信じられない……」


 声に出したが、速度が落ちる。


(なんなんだアレは)


 犬というには大き過ぎた。狼としても、体長が二メートルある個体はいない。いても一六〇前後だろう。


 閉じられたシャッターが走る勢いでガタガタと揺れた。


 PCケースを肩にしたスーツ姿の昔鳥かささぎが飲み終えたカップ酒のグラスをゴミ箱に入れた。


 走ってきた上月をかわす。


 上月が角を曲がってすぐの階段を上った。


 地上に出ようとするが深夜なので閉鎖されていた。


「なんてこった……」


「あっちだ」


 昔鳥が指を差したのは、上月が走ってきた方向だった。


「ダメだ」


「じゃあ、向こうだな。一七〇……」


 角度を一三五度ずらして指差すと、上月の頭を見た。


「一七七だ! どうしてこんなときに身長を聞くんだ!」


「歩いて百七十五歩。走って九十歩くらいかしら」


「何?」


「この角度にある」


 その方向には、閉じられたシャッターしかない。


「こっちに二十四歩。あの角を右に十七歩。で、左に……」


「――四十九歩だ! 分かったありがとうおっさん!」


昔鳥かささぎだ」


「俺、上月初こうづきはじめ、上の月に最初の初め――って、カササギさんも逃げろ!」


「ぼくはいいよ……」


「昔鳥さんには見えないのか……ええい! 先に行く!」


「じゃあね。上月初くん」


 昔鳥は三本目のコップ酒を開けると、キャップと蓋をゴミ箱に入れると階段のほうに移動した。


「満月か……」


 階段は折り返しになっていて外は見えない。


 何かが走ってくる音が聞こえた。


(四足歩行……犬?)


 足音が変化した。


(人間か……とすると二人? いや――)


「失礼ですが、少年を見ませんでしたか?」


 ネクタイをしたスーツの男性だった。身長は一九〇以上あるだろう。


「さあ……酔っていますからねえ……」


 低い身長の昔鳥だが階段を三段上がっているので、顔の位置は同じくらいだった。


「剣道部の主将で、身長はコレくらいで――」


 男性が喉のあたりに手をやった。


 昔鳥が酒を男にかけると、水月みぞおちに二本貫手(ぬきて)を入れた。


 息をいているときに酒をかけられては、無防備になるしかない。


 突くより早く左手を抜くと、昔鳥が走り出した。PCケースを押さえる。


(血の匂いがした。上月くんを追っていたのはコイツか……)


「電気を消せ!」


 とたんに真っ暗になった。


 昔鳥が目をつむった。


 二十七歩目で右に曲がった。


「こっちだ! 男に見られた!」


 前方から上月の血の匂いがただよった。


 昔鳥との間に〝なにか〟がいた。


 横を走り抜けるタイミングで、手刀を首に――入らない!


 見えていたらしい。腕をつかまれた。


 引き寄せられる力に加速して、昔鳥が腕にそって四本貫手で喉を突いた。


 走ってきた反動もあり、きれいに決まった。


 倒れる。


生成なまなりか?」


 起き上がって〝なにか〟の顔を手で確かめた昔鳥がつぶいた。生成なまなりは能面の一種だ。


「誰だ?」


「さっき会った」


「えっ! 誰?」


 動けないまま〝なにか〟の牙が大きくなっていた。


あやめたくはないが……)


 暗闇のなか、頭に手を回すと一気にひねった。


 骨の砕ける鈍い音がした。


「だから――」


「――音を出すな。せめて黙っていろ。見えてはいないだろうが、匂いは〝みえて〟いる」


「だって――」


 小声で言うが、反論する。


「――来た。バカめ」


 暗闇に足音が響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ