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58.通商会議(2)(R)

58.通商会議(2)


 神聖リヴャンテリ王国通商代表部の人員八名が決まった。


通商代表――カササギ

通商副代表―アーダァ伯爵

通商副代表―エアー侯爵

通商主任――勇者コウヅキ

随行人―――アーダァ伯爵第四子レディ・キロルテロル

随行人―――アーダァ伯爵陪臣男爵第二子レディ・リミャンスミャン

随行人―――エアー侯爵第一子レディ・フィルダティルダ

随行人―――エアー侯爵陪臣子爵第四子レディ・パキストラキスト


 なお、議決権は通商代表一名を二票とし、通商副代表二名と通商主任一名が各一票の合計五票となっていた。これは偶数人による票の分断を避けるためだった。


(決定権を持つのはカササギさんか……)


 上月(コウヅキ)が意見を通すには、昔鳥カササギを説得するほうが早い。二人の貴族が上月の意見に賛同するとは考えにくかった。


 移動の馬車はアーダァ伯爵、エアー侯爵それぞれが一台ずつ。


 御者も馬も泥人形ゴーレムだった。最悪捨て置ける。もっとも魔法の馬車だから、収納魔法でポケットに入れて逃げることもできる。


 昔鳥はアーダァ伯爵の馬車だった。


 上月はより大きなエアー侯爵の馬車に揺られていた。


 実際には魔法でまったく揺れていない。窓の風景が流れ変わるだけだった。小さな館がそのまま地面を動いている感覚だった。


 エアー侯爵に会った上月だが早口で分からず、あとからフィルダティルダに〝翻訳〟してもらった。その後、エアー侯爵は自室から出てこない。


 パキストラキストから通商条約の内容の説明を受けた。ざっと百ページはあった。


「コレ、ぜんぶを読むのか?」


「はい。漏れていると、あとあと大変なことになりますから」


「適当であとから決めればいいんじゃあないの?」


「本人たちが生きていればそうした変更も可能でしょうけれど、一度決まった条約を改正するにはかなりの手間が必要になります」


「暴力か……」


「そうなりますね。カササギさんやコウヅキさんがいた国ではかつて不平等条約があったと聞いています」


「歴史で習ったよ」


「さすがは勇者であらせられる」


「いや、内容は知らないからなあ。俺はカササギさんのように賢くない」


「それでも歴史の事実を知る立場にあったのでしょう?」


「それはそうだけれど……(そうかこの国の国民は歴史の事実すら知らないのか……)新聞とかないもんなあ……」


「新聞、ですか?」


「国際情報とかいろいろ」


「それを民に知ろしめてどうするおつもりなのですか?」


「いろいろ話し合ったり、決めたり……(そうかこの国の人は自分では何も決められないのか……)」


 上月は、前に昔鳥から「民主主義的に考えるな」と言われていたことを思い出した。


「違う世界なんだな……」


「はい。異なります。カササギさんはとても優秀な施政者になられるでしょう」


「シセイシャ?」


「政治家です」


「ああ、あの人はそんなものに興味はないと思うよ。女と二人暮らせたら満足なんだろうな」


 エアー侯爵から「ヴィヴ一人くれてやりなさい」と言われたことを、上月が思い出した。


 ヴィヴが〝名前を消された元王女〟だとは知っていた。


 平民の父の看病のために奴隷落ちしたあわれな女だとも。


 それもアース公爵カ・クマ=リ・クマの策略だと聞いている。


「つくづくあの婆さん、いろいろやってたんだな」


「貴族とはそうしたものです」


 侯爵陪臣子爵第四子のパキストラキストは、別に嫌味で言ったのではなかった。本心からそう考えているのが上月にも分かった。


(ああカササギさん。違う世界だな)


「とはいえ、よほどのことがない限り、貴族はまず命を取られることはありません。貴族の派閥は強固であり、派閥でない他の貴族を害すればそれ相応の処罰があります。これは陪臣やその子であっても同じことです」


「自分の子であれば?」


「子は親の所有物ですから、いかようにも。もっとも害するなら消すでしょう」


 恐いことを言った。


「幽閉とかされるの?」


「そうした趣味があれば別ですが……お好きなのですか?」


「まさか……むかし水牢みずろうにいる罪人を(映画で)見たことがあるから……」


「水牢ですか……検討しましょう」


「いやしなくていいから! ね、ね」


「そうですか……」


 パキストラキストには加虐性欲者サディストの一端があるらしい。


 とはいえ、この国には拷問官がいる。その筆頭が、光の魔術師キロルテロルだ。


 勇者上月(コウヅキ)はそうした闇の部分をあまり知ろうとしなかった。積極的にかかわることはなかったし、またそうしたことを嫌悪していた。


 要は悪人を斬って捨てる勧善懲悪が好きなのだ。一昔前の時代劇のような。


 それでいて、池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』に登場するような味のある悪人にも興味があった。


 いずれにせよ、この国では上月は勇者だった。


(過去形だ……)


 だから、悪人と知れば斬るほかはなかった。


 自分から言い出したことだが、上月が通商会議に参加する意味があるとは思えなかった。



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