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異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第8章 光と風の魔術
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56.光と風の魔術(2)(R)

56.光と風の魔術(2)


 昔鳥カササギが目を開くと、目の前に美しい女性がいた。


 高貴な方らしく、従女まかたちが左右に二名いた。


「挨拶は不要でしょう? 聖女さま」


「はい。カササギさん。あれが光と風の魔術ですか?」


「ぼくの知識で底上げしています。――アレを二度落とされてぼくの国は負けたんです」


「そうでしたか……。あちらを王都に落とすということですか?」


「話が早くて助かります。しなかったことにのみ後悔するものですから」


 中島敦の小説『光と風と夢』には「昔、私は、自分のした事に就いて後悔したことはなかった。しなかった事に就いてのみ、何時も後悔を感じていた」とある。


「あれだけの魔術をそうそう使えるとは考えられませんが」


 側の女性が意見を述べた。


「今すぐにでも使えますよ、ナリスクリスさん」


 リムリスの母親だ。


「キロルテロル、フィルダティルダ」


「こちらに」


 光の魔術師と風の上級魔術師の両名が昔鳥の横に並んだ。


「信じられません」


「もう一度だ」


「かしこまりました」


 聖女の疑問に、昔鳥が答えた。


 光と風の魔術師二名が前に進むと手を取った。


 一条の光が舞い、風が光をまとって天空に上がって行った。


 雷が城跡に落ちた。


 雷鳴が届くと同時に、竜巻が発生して爆発した。


 大量の光で目を開けていられなくなる。


 地震。


 黒い雨。


 溶岩。


 土が再度焼けた。


「……」


 もう誰も否定することはできなかった。


「あなたは世界を破滅できるのですね?」


「可能です。――これで継戦派を抑えることができますね?」


「交渉に応じると考えられます」


「それと、暗殺は静かにするものです」


 昔鳥が針を何本か落とした。


「あなた!」


 聖女さまは知らなかったらしい。ナリスクリスの顔を見た。


「忖度したんでしょう。そのほうがあなたの利益になると判断した。ぼくだって変な人間がいたら排除します。もっとも殺めるなんて野蛮なことはしませんが」


 リミャンスミャンとパキストラキストが、鋭い目をした中年女性と幼い少女二名を連れて来た。


「知っていますか?」


 殺し屋だ。


「いいえ」


 ナリスクリスが否定した。


「知らないそうだ。ぼくに従うかい?」


「術を解け!」


 少女が大声で怒鳴った。


「どうして命令口調なのかしら……どうぞ」


「私は従おう」


 奥二重でキツく見えるらしい年増女が口にした。


「殺せ」


 一方少女は死を選んだ。


 パキストラキストが指を鳴らすと、少女が消えた。風でどこかに飛ばしたらしい。


「カササギさま。つきましては、新しく名をいただきたいのですが」


 元殺し屋が膝をついた。


「じゃあ、涼やかな目(クールアイズ)と名づけよう」


「はっ! クールアイズ、いかようにもお使いください」


「後でね」


「はっ!」


 姿が消えた。光学迷彩だ。光の魔術師らしい。


「……話を進めても構いませんね?」


「どうぞ」


 昔鳥が了承した。


   *


 勇者上月(コウヅキ)が戦闘の後、城跡を見た。


「反応兵器……あんなものをよく使おうと思ったな」


「あれは?」


「悪魔の所業だよ」


 リムリスの問いに比喩を使った。


「まあカササギの取り巻きがやったんだろうが……」


「光と風の高等魔術ですね」


 カナイルナイが冷静に分析した。


「あんなのけようがない」


「二度もか……」


 ハーフエルフたちは現実的だった。


   *


 王都への帰路、馬車の中で聖女が考え込んでいた。


(あれだけの魔術……。恐ろしい人だわ)


 光の術式は解放されていたが、実際にする魔術師はいないだろう。自分をも消し去ってしまう内容になっていた。それにあれだけの出力ができる魔術師はキロルテロル以外にいない。


 風の魔術は台風の術式を応用したもので、できなくはない。けれど、あの出力の光の魔力を制御できる魔術師はフィルダティルダの他にいなかった。


 頭の中で何度思考しても成立しなかった。異質な、そう異世界の魔術だった。


(魔王に教えたと言っていた。ヒトではなく、魔王軍の幹部の何人かが使えても不思議ではないけれど)


 それもハッタリかもしれない。


 それでもヒトの魔術には違いない。


(カササギさんの条件を飲むしかないでしょう)


 停戦派としては嬉しさ半分といったところだ。継戦派と同じく後に粛清される可能性がある。時代が変わるとはそういうことだ。


 ナリスクリスが先手で殺し屋を送っていたのも大きい。


 昔鳥が強気なのも、その殺し屋の一人を今も使っていることにある。


 キロルテロルは別にして、光の魔術師には信念がある。あの少女のようにバレれば自害するよう教育されている。


 あのクールアイズを聖女は知らなかった。新しくナリスクリスが仕込んだ者だろう。


(失態だ……)


 静かに昔鳥と接触してこちら側に引き込もうとしていた聖女の意図を、ナリスクリスが深読みしすぎて暴走してしまった。


 王都では大公閣下が待っていた。


 悩みは尽きない。


   *


 別の馬車で帰るよう言われたナリスクリスがほぞんだ。


(聖女の信頼を失ってしまった。カササギめ……)


 組合長ギルドマスターから昔鳥のことは聞かされていた。母娘の関係は悪いとはいえ、情報交換くらいはする。お互い政治家なのだ。嘘吐きには違いないが。


 娘のリムリスによると、魔術の質が「異様」で近寄りたくないらしい。


 リムリスはある種の天才だからよりそう感じるのだろう。


「異様」の意味がよく分からなかったナリスクリスだったが、今日ではっきりした。


(あんなことができるなんて……)


 王都に落とせば数十万人単位で人が蹂躙されるだろう。あるいは数百万か。


(カササギに従うしかあるまい……)



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