55.光と風の魔術(1)(R)
55.光と風の魔術(1)
三日目の朝になって、火の上級魔術師のカナイルナイが気づいた。
「お仕事ご苦労さまです。……人喰い(グール)!」
その声に全員が宝物庫に向かった。
王国軍の亡くなった兵士が静かに財宝を馬車に乗せていた。
メリアの風魔術の矢が頭部に刺さるが、刺さった矢を確かめたあとそのまま作業に戻った。
「嘘!」
清浄の魔術を唱えたリムリスが首を薙いだ。
倒れる。後続の兵が倒れそうになるが、気にせず作業を続けようとした。斬り倒す。
勇者上月も参戦した。
カナイルナイとクリーアンが唱える清浄の魔術でいっせいに倒れた。
「いつからだ! いつから人喰い(グール)に!」
上月が問うが、答える者はいなかった。
勇者チーム以外すべてが人喰い(グール)と化していた。
「私のミスです」
クリーアンが言葉を続けた。
「初日に打ち合わせしたあと、異常は感じられなかったので……」
変な妖気も感じられなかった。
一行は兵士といっしょに話すことも、食事をすることもなかった。
メリアとリムリスは上月と毎日肉を焼いていたし、カナイルナイとクリーアンは木の実を食べていた。
「いったん撤退しましょう。前の城塞が気になります」
クリーアンが上申した。
「え?」
メリアが見上げると、空がゆっくりと白くなっていった。
「風?」
リムリスが、風が徐々に強まって上空に流れていくのを眺めた。
「レディ・カナイルナイ! ブレスレットを!」
前に言われたように、カナイルナイが祈るように手を上げた。
「待て!」
勇者の制止の声は届かず、一陣の風が五名を連れ去った。
光が城を包んだ。
*
高台にいた昔鳥がヴィヴとそれを観ていた。
「終わりの始まりだ」
城が光に包まれた。
史上初の大魔術だった。
閃光のあとに巨大な竜巻が城を粉砕した。
高熱で溶けた石が天空に舞い上がり、溶岩が周囲三十キロメートルに降り注いだ。
風上にいた昔鳥だが、遅れてきた爆風に足元が揺らいだ。ヴィヴが昔鳥の腕を掴んだ。
竜巻が天空に、雲龍のように上昇した。
稲光があった次の瞬間、雷鳴とともに高熱の黒い雨が降り注いだ。
地に落ちると、その熱で土を黒く焼いた。
昔鳥が〈観〉を口にして遠見した。
城のあった場所には巨大なクレーターができていた。
およそ人の為せる業ではなかった。
「魔王のお、魔術う?」
ヴィヴが口にしたが、昔鳥は答えなかった。
*
旋風に飛ばされた勇者たちは、一つ前の城砦の前にいた。
「何だ? あれは?」
上月の質問に誰も答えられなかった。
「人喰い(グール)!」
メリアの声に、全員が敵と対峙した。
何があったかという理解の前に、戦闘が始まった。
*
上月の安全を確認した昔鳥が目を閉じた。同時に〈観〉の術式も解除した。
「……ようこそ」
気配を感じて、目を開いた。
「ごきげんよう」
白と銀を使った衣装を着た背の高い美しい女性がベールを上げて挨拶した。




