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53.隠密作戦(3)(R)

53.隠密作戦(3)


 クリーアンの役割は潤滑油であり手綱だった。


 昔鳥カササギが立案した隠密作戦を遂行するのが第一目的だったが、リーダーの勇者上月(コウヅキ)はそれを無視してより深く前進していた。


 上月をサポートするはずの二刀流の剣聖(Master of the Swords)リムリス嬢は戦闘狂だった。魔獣ではない、人型の魔族を狩ることに熱中していた。


 隣の火の上級魔術師ファイアアークウィザードのカナイルナイも同じく、敵を殲滅していた。王国の敵だと信じて。


 ハーフエルフの美少女メリアは索敵するだけではなく、攻撃も追撃もしていた。思うように風魔術の矢が通った。


 クリーアンは土の上級魔術で、三名をその場に留めていた。囲まれてはいくら勇者チームといえど突破できないこともありえる。


 臆病だと言われるクリーアンだが、戦場では冷静なほうが生き残る。


 上月の言うように、取りあえず斬り伏せるというやり方は間違いではないが、力の使い方を学んでいない。


 単純に大きな力を振り回しているに過ぎない。


 そうした時は敵もよく観察している。


 前線を進めたあと、ヴィヴが馬車でやってくるパターンになった。


 昔鳥カササギというと、輜重しちょう担当に徹していた。兵站線を短く、太くしていった。


 昔鳥の「馬による撤退」訓練に鍛えられた王国の騎兵隊三十六名が魔族の残党を狩っていた。


 騎兵隊に従う兵隊は兵站を守っていた。


 それら後方支援を管理するのが、親衛隊二名だった。


 クリーアンが昔鳥から引き継いだ二日目には円滑に動いていた。


(そろそろか……)


 昔鳥の限界だった。


   *


 昔鳥としては、すべきことはした感があった。ただ「何の問題もない」とは言えない状況だった。


 そしてそれらが改善されることはおそらくないだろうことも知っていた。


〝巻き添え〟で召喚された昔鳥としては、十分だと考えていた。


 上月を助けるためとはいえ、ミンダフとアコースを手にかけていた。


 狼人ライカンスロープとはいえ、命を奪ったことに違いはない。


 もちろんそれが嫌なら「黙って殺されろ」という意味ではない。自衛するとしても、予測があってしかるべきだったがこの世界にそれはなかった。


 弱肉強食であったし、貴族でなければ権利もなかった。


 そんな人権もないような場所に強引に連れてこられたことに理不尽を感じていた。


 だからこそ、自分を召喚した土の上級魔術師カクマリクマを廃人にした。あわれ臣民公爵は爵位を奪われ療養中だ。


 心から謝罪すれば赦す気はあった昔鳥だが『あしかせみてあしめっす』は本当だ。足枷あしかせを外した瞬間に復讐されるに決まっている。


 カクマリクマは昔鳥を許さないだろうし、それがために昔鳥はカクマリクマのかせを解くことはできなかった。


 カクマリクマに忖度した暗殺者の存在も無視できなかった。


 昔鳥は東アジアの思想を使った魔法によって、身を守っていた。殺意を持つ者が一定距離に近づくだけで、排除された。


「リミャンスミャンか」


「はい。ここに」


 気配を感じた昔鳥が名前を言った。


 光と風の魔術が使えるなら、不可視化の魔術に応用できる。いわゆる光学迷彩だ。


 リミャンスミャンは腰まである長い緑髪の美しい女性で、光を司るアーダァ伯爵の陪臣男爵ミャンス家の第二子だ。身長は一六二センチメートルなので、ほぼ同じ視線だった。ヒールのぶんだけ高いが。


「あの方からご伝言がございます」


 静寂の魔術が強化された。


「お会いになるそうです。ただし、場所は戦線を離れたところ。日時とともに先様が指定するそうです」


「暗殺目的かしら」


 昔鳥がリミャンスミャンを見上げた。


「国軍をもってしても、不可能だということは理解しているはずですが」


 あのアース公を破ったのだ。リミャンスミャンは「力量を間違える者はいない」と考えていた。


「不可能を可能にすることは簡単だよ。君に毒針を与えればいい」


「冗談でもそんなことは言わないでください」


「針は仕込んだんでしょ?」


「はい。従女まかたちの一人に。ナリスクリスが気づくのは時間の問題でしょう」


「ああ前のリムリスだっけ。剣聖だよね」


「片目のユックリリナをおびき寄せるには格好の餌です。どうしてあの女を?」


「邪悪な美女に興味があってってジョークだよ。これを渡してくれ」


 手のひらに乗る大きさの桐の箱だった。


「これは?」


「義眼だよ。剣聖の〝剣〟を鈍らせることができる」


「こんなものをつくってらしたんですか……」


 溜息をついた。


「見ても?」


「やめたほうがいいよ。目をわれる」


「どうやって渡すんですか?」


「噂を流してある。――パキストラキスト」


「はい。御前おんまえに」


 男装をした麗しい女性が膝をついていた。エアー侯爵の陪臣子爵キストラ家の第四子だ。


 アーダァ伯爵テ・ロル=テ・ロルが娘のかわりにリミャンスミャンを用意したように、エアー侯爵クィ・ルダ=ティ・ルダがパキストラキストを側女に差し出していた。この事実は昔鳥とアーダァ伯爵とエアー侯爵以外に知る者はいない。当のキロルテロルとフィルダティルダにも、それぞれの親である陪臣の男爵・子爵にも知らされていない。


「別に膝をつかなくていいから」


 言われて立ち上がったパキストラキストは一六九センチはあるから、どちらかというとリミャンスミャンの夫のように見えなくもない。風の魔術で土埃を払った。


「すでにユックリリナが動いたとの一報がございました」


「あとは魔王が来てくれたら役者が揃うのだけれど」


 恐いことを言う昔鳥だった。



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