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異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第6章 地球中心説 対 太陽中心説
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49.地球中心説 対 太陽中心説(5)(R)

49.地球中心説 対 太陽中心説(5)


 首を振るカナイルナイが「それはない」と苦笑した。


「太陽の周りを大地が移動していると言った」


 リヒト子爵ルロルテロルがもう一度述べた。


「地面が浮いて回っていると?」


「そもそも固定されたものなどないんだけれどね」


 昔鳥カササギが肯定した。


「大地は大きな球体なんだ」


「はあ……」


「これを太陽だとすると、私たちがいる地球はこう回っている」


 テーブルにあるボトルを太陽に、グラスを地球に見立てた。


「どうして回っていると分かるんです?」


しょくだよ。日食、月食。これらは地球の影だよ」


「……」


「理解できなくていいよ。ぼくらの世界でも公式に認められたのはつい最近だから」


 カトリック教会が公式に地動説を認めたのは二〇〇八年十二月二十一日だ。


「まるで月に行ったことがあるような言い分ですね」


「あるよ」


「え?」


「え?」


「月に行ったことがあるんですか? カササギさん」


「ぼくはないよ。行こうとも思わない。空気も水も大地もない空間に行こうという人の気がしれないね」


「でも行ったと……」


「隣の国の人が行ったんだ」


「月の人との交流はあったんですか?」


「いや、月に人は住んでいない。空気もない。水もない。ヘリウム3はあるけれど」


「ヘリウム3?」


「この世界では使われていない。――ともかく、月がこの地球の周りを回っているように、地球も太陽の周りを回っている」


「太陽も回っている?」


「そうなる」


「どの? えっ? 何の周りを回っているんですか?」


「天の川の中心を。でも今、二つあるからどちらだろう? 大きいほうに引っ張られているのかも。どちらにせよ〝まったく動いていない物質はない〟よ」


「それでですか……占星術が衰退する訳だ……」


 ここ百年ほど占星術師が減っているらしい。星の運行に支障が出たのだろう。


「今、北極星がないんです……」


 中心の星がなく、二つの月が優勢になっているらしい。それが今の二つ月の神の教会の教えだ。


「教会は何と?」


「今は衰退の時代だと。また復活すると……」


 何億年か先の未来には、二つの銀河が大きな一つの銀河になるだろうが、そのころまでにこの世界が存在するかは不明だ。


「まあ間違ってはいないけれど」


「だからこそ、魔王を討伐する必要があります」


(なるほど、一神教が衰退する訳だ……)


「それは過ちだよ。北極星がないのは、一時的なものだから」


 天文学上の歳差運動でいえば、地球の今の北極星はポラリス(こぐま座α星)だが、およそ一万二〇〇〇年後にはベガ(こと座α星)が北極星になる。


「ズレているのがふつうなんだ。この世界の人類はあいまいなくせに正確を求め過ぎる」


 それはかつていた世界の住民もそうだったのだが、あえて無視した。


「それより大地が丸いというのが信じられない」


 カナイルナイが地球を否定した。


「高いところから遠くを見た経験は?」


「王宮のからでも地平線は見えます」


「地平線はまっすぐ?」


「当たり前でしょう」


「丸いよ」


 と、ルロルテロルが否定した。


「地平線は丸い。お椀を伏せたような形になっている」


 風の上級魔術師でもあるリヒト子爵が説明した。


「空気も少ない。寒い」


 かなり上空に上がらなければ丸くはならないが、それだけ天空に上がったのだろう。


「海を――水平線を見れば船の帆が先に見える。まっすぐなら、全体が見えるはずだけれど、上のほうから順番に見える」


 風の魔術師の教えだった。国民が知らない事実だった。


「……ちょっと確かめて来ます」


 カナイルナイが表に出ると、風の魔術で自分を浮かせると、風に乗った。


   *


 もう一本ワインを開けようとするリヒト子爵ルロルテロルだったが、昔鳥が遠慮した。


「少し眠るよ。明日は戦略会議らしいから……」


 魔王討伐戦だった。昔鳥もメンバーの一員にされている。


「強い者を揃えても勝てないのに……」


 勇者上月(コウヅキ)は強引に昔鳥を連れて行く気らしい。


(けっきょく兵站ロジスティクスの何たるかを教えることはできなかったか……)


「勝てるのでしょう?」


 ルロルテロルがワインの封を切った。


「問題は大公閣下が何を考えているか、だけれど」


「そういえば、まだお会いになっていないんですよね?」


「いないことになっていましたからね」


「闇のカクナロクナが都合のイイように言っているでしょうね」


 他人事のように子爵が言った。



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