47.地球中心説 対 太陽中心説(3)(R)
47.地球中心説 対 太陽中心説(3)
火の上級魔術師のカナイルナイが敵意を向けた時点で、昔鳥の身体を光が包んだ。
「光の魔術!」
「止めろ」
「すべての術式の反射魔術……。二倍の出力でわたしは灰になる」
カナイルナイが杖を下ろした。
「正しくは灰にはならないよ。ぼくの魔法も入っているから」
「どんな術式が……わたしは理解できない?」
カナイルナイがうな垂れた。この世界の魔法ではないということを実感した。
「異世界の魔法構築……あの術式は……」
見たが、まったく理解できない内容だった。
いや、描かれていたものは同じ言葉であり、同じ術式だった。
しかし、そんなものが動くはずがなかった。
落ちる花弁を見ているだけでは、前に咲いていたように花を元に戻せない。
「不可能です」
「そうでもない」
「死から生を生むようなものです。およそ不可能です」
「そうでもないって」
「嘘……」
カナイルナイが反射的に昔鳥との距離を広げるが、残像がそこに残っていた。
「許可なく動くな。危ないだろう?」
強制的に前に戻り、下がったはずのカナイルナイの実体が霧散した。
「意識も動かせる?」
「違う。体系が違うと言っただろう。――黄絹幼婦にも至らないか」#鶏肋
「どういう意味?」
「ぼくがいた世界の隣の国の昔話さ。意味は今度教えてあげるよ。……光の魔術師と風の上級魔術師となると、アレだろう」
人差し指をこめかみにあてると、光がぼんやりかかって消えた。
「正解だったらしいね」
「何を……? 忘却の魔術!」
「正解だ。つまり、発案者のぼくでさえ思い出すことはできないということになる」
「自分に忘却魔術をかけたあ?」
ありえない。だが、事実だった。そんなことをするなどカナイルナイには思いもよらなかった。貴族(政治家)の子女ではあるが、実を分かる環境になかった。
「情報漏洩は人の数に比例する。それに、知らなければ話せない。良心の呵責に――」
「――悪魔め!」
「その言葉は貴族に相応しくないな。……魔族のほうが良心的かもしれない」
「他に誰が知っているんだ!」
カナイルナイが問い詰めたが、それを知るのは不可能だ。予測はできても、当事者はこの国最高の魔術師によって記憶を消されている。
「作戦が次の段階に移行すれば、解除される」
内容が現実になれば、成功しようと失敗しようと解呪される。痕跡も残らない。
「脳を切り刻んで再生してを繰り返すのか?」
「あなたたちはそうして、ぼくの言葉を理解しなかった。ある種の呪いでもある。……違うな。本当の意味で知らないのだから、罪なのだろう。……そういうことか」
発熱した部分を抑えると、何やら呟いた。
「勇者に聞けば……同じ異世界の勇者コウヅキさんに聞けば――」
「――上月くんは高等教育を受けていない。そこまで至らないよ。――だからか! それもあって少年を召喚したんだな。思考がまだ成立していない段階の人間を用意したんだ。なんてことをしやがる」
本当に怒っているらしい。注ぐワインがグラスで波立った。
「あなたは何を言っているのですか? この世界の神と話したのですか?」
「そういう意味になるか……それもそうだな。物理法則は初期の神だから……神ですから、あながち間違ってはいないですが、正確ではないですね」
冷静になった昔鳥が、二人にワインをすすめた。
アーダァ伯爵の秘蔵のワインを第一子のリヒト子爵ルロルテロルが開けた。
美味。
カナイルナイが遠慮なくあおった。
「理解できないですが、大事だということは、わたしには触れられないものだということは理解しました」
「誰しもそうなる」
子爵がようやく口を開いた。
「アーダァ卿の言動が異常なんですよ。あの人はある意味天才ですから」
自分の母親をそういうと、ワインを飲み干した。
「アーダァ卿は理解できたと?」
「ええ。もう一人も」
「どなたです?」
「さあ……」
教えられないもう一人らしい。
「闇のカクナロクナですか?」
カナイルナイがリヒト卿に聞いた。
「違う」
ルロルテロルが否定した。
「……あの二人で何をするつもりなんです? この世界を滅ぼすつもりですか?」
正面からカナイルナイが昔鳥に聞いた。
「それはないだろう。そんな簡単なことで悩まないはずだよ、ぼくは。たぶん、上月くんが助かり、ぼくが平穏に暮らせるような案だと思うよ」
軽く昔鳥が答えた。




