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異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第5章 勇者チーム訓練計画
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44.勇者チーム訓練計画(6)/(3)出典の不備/(4)無根拠な資料(R)

44.勇者チーム訓練計画(6)/(3)出典の不備/(4)無根拠な資料


 資料の拡大解釈、想定状況のズレときて、次は三番目の出典の不備だった。


「出典の不備ってなんです?」


 勇者上月(コウヅキ)が質問した。


「星の運行を知るとき、占星術師に聞くかい? 天文学者に聞くだろう?」


 昔鳥カササギが答えた。


「そりゃそうだ。でも、この国に天文学者なんているんですか?」


「あやしいな。二つ目の月がL5(エルファイブ)の位置にあることは、ありえないんだけれど」


L5(エルファイブ)?」


「ラグランジェ・ポイントだよ。『機動戦士ガンダム』とか知らない?」


「なんとかく」


「ここが地球だとすると、月がここ。月の表面のここにL1(エルワン)がある。裏面の一番遠いところがL2(エルツー)。ズム・シティはここにある。L3(エルスリー)は月の反対側にある。L4(エルフォー)L5(エルファイブ)は月と六十度の位置、こことここにある。だから、L5(エルファイブ)にあるこの小さい月は大きな月より四時間遅れている」


「ここの占星術師より、カササギさんのほうが天文学者っぽいですね」


「問題は、ラグランジェ・ポイントにある月の質量が無視してもいいくらい小さいはずなのに、本来の月より少し暗いくらいで肉眼で見えているということなんだ。本当は見えないはずなのに」


「質量? 一つ目の月と同じくらい質量があるんじゃあないんですか?」


「それだと、月の軌道が変わるはずだよ。同じ軌道で二つとも同じ面を見せているなんてことはありえない」


「でも実際に見えているんだからあるんじゃあないですか? ……魔法?」


「その可能性がある」


「誰がなんのために?」


「王族なら知っているかと鎌をかけてみたんだけれど、知らないそうだ」


「誰に聞いたんです?」


「それを含めて秘密らしい」


「……この王国って王様いないんですよね?」


「リヴャンテリ大公たいこう閣下が君主だね。地球には、かつて神聖ローマ帝国というのがあった。ヴォルテールに言わせると『神聖ではなく、ローマでもなく、帝国でもない』らしい。リヴャンテリ大公たいこう閣下は法王だし、新しいとはいえ旧王族の血を引いているから、三つのうち二つは合っているからいいのでは?」


 もちろんジョークだ。本来であれば「神聖リヴャンテリ王国」ではなく「神聖リヴャンテリ大公国」が正しい。


「さあ俺には分かりませんよ」


「王族といえば、あなたと新王族の娘との子を、旧王族の誰かと結婚させて、次の法王にするらしい」


「気の長い話ですね」


「血を残すのが仕事だからね。――四つ目。最後の無根拠な資料は、経験で話すことだよ」


「経験?」


「感情移入はしやすいが、それだけで信憑性がない状態だ。出産経験がある女性と、男性の産婦人科医のどちらが信頼性が高いかということ」


「それは男の産婦人科医でしょ。素人とは違う」


「ただ、その専門家も専門分野以外では素人同然になる。目のことなら眼科医だし、耳や鼻なら耳鼻科医」


「外科医、内科医……専門分野のほうが幅が狭い?」


「そうなる」


「……正しいものを集めたとして、それをどうするんです?」


「決めることになる。現状の最善解を」


「もし間違っていたら? 正解などないとしたら?」


「正しいと考えられるところまで戻って考えるだけ。理想にはほど遠いけれど、王道はない」


 (1)資料の拡大解釈→(1)それ言い過ぎ

 (2)想定状況のズレ→(2)それは違うでしょ

 (3)出典の不備――→(3)元から違うでしょ

 (4)無根拠な資料―→(4)真っ赤な嘘


「経験が真っ赤な嘘ってなんかなあ……」


「正義が時代や場所によって変わるようなものだよ」


   *


 資料の四チェックを語り終わったあと、昔鳥がもう一度兵站(ロジスティクス)の話をした。


「でも、中途半端なままでもやったもん勝ちじゃあないんですか?」


「『へい拙速せっそくたっとぶ』奇襲だね。『孫子』に『故に兵は拙速を聞くも、未だ功久こうきゅうなるをざるなり』とある。まずくてもいいから速いほうがいいのは確かだよ。二〇一四年のクリミア併合は素晴らしかった」


 実際ロシア連邦の作戦は見事としか言いようがなかった。


「だからこそ、二〇二二年のロシア連邦のウクライナ侵攻は失敗だった」


「ああ、情報が間違っていたということか」


 ようやく、上月も理解が深まったらしい。


「どうしてプーチン大統領は『ロシアをウクライナが受け入れてくれる』と信じてしまったんですか?」


「人間、信じたいものしか信じないからなあ……。独裁者にはイイことしか言わない人しか残らないから」


「悪く言う人は消されちゃうんですね」


「そういうこと」


「じゃあ、停戦派もいるこの国の政治はまだマトモってことですね」


「違うよ」


「えっ?」


「似ているけれど、民主主義的な思考をしていないんだ。まったく違う思想だと考えたほうがいい」


「……?」


収斂しゅうれん進化のようなものさ。クジラやイルカが魚類ではないのに、似たような泳ぎ方をするのと同じ。たぶん五〇〇年以上は思想的な差がある。よほど賢い人でないと、クリアできないはずだよ。トーマス・クーンのパラダイムシフトだ。広意義のだけれど」


「パラダイムシフト?」


「ここの人は天動説ジオセントリズムを信じている。ぼくたちは地動説ヘリオセントリズムを信じている。でも太陽の運行は変わらない。月は二つあるけれど、それも同じ。カトリック教会が公式に地動説を認めたのは今世紀に入ってからだよ。あなたが魔術を使えないのは、信じているものが違うからだろうね」


「今さら天動説を信じろと? 俺はカササギさんがどうやっているのかを知りたいんです」


「そうは言っていないよ。天動説ジオセントリズムは地球中心説だから、自分を中心にする方法もある。ただ、その場合、自己チェックができない」


「……自分を否定することができない? ずっと肯定しつづける必要がある?」


「そう。さっきの答え。矛盾むじゅんする。矛盾の意味は?」


「知っている。武器商人の話だ。――でもそうすると、カササギさんは? あなたはどうするんだ? この世界で」


「この国の酒保商人ヴィヴァンディエールは武器商人でもあるらしい。ヴィヴを連れて逃げるかな。宮廷魔術師に処分される前に」



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