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異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第5章 勇者チーム訓練計画
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43.勇者チーム訓練計画(5)/おバカなポーランド人/(2)想定状況のズレ(R)

43.勇者チーム訓練計画(5)/おバカなポーランド人/(2)想定状況のズレ


 昔鳥カササギが「賢いポーランド人を知っているかい?」と訊ねた。


「さあ……ポーランド自体あまり知らないですからね」


 勇者上月(コウヅキ)が上を見た。天井に蜘蛛が巣を作っていた。


「マリ・キュリー」


「誰です?」


キュリー夫人(マダム・キュリー)


「ああ……」


 上月が倒れそうになった。知らぬ人などいない。マリ・キュリーは物理学、化学と二度のノーベル賞を授賞している。


「おバカなポーランド人の本当はね、ナチスの政策によるところが大きい」


「ナチス? ナチスがどう関係するんです?」


「ポーランド侵攻は知っているかな?」


「第二次世界大戦の始まりですよね?」


「うん……。そのときナチスは、ポーランドの文化人を大量虐殺した。大学や図書館、博物館を閉鎖した。ナチスがポーランド人にゆるした教育は500までの数字の算数と、名前が書けることだけ」


「嘘でしょ?」


「世界観戦争って言うんだよ。絶滅戦争だね」


「本気で絶滅させようとした?」


「うん。本気だったね。アドルフ・ヒトラー自身の記録も残っている」


「でもアレ、なんか良いこともしたんじゃあないですか? アウトバーンとか」


「アウトバーンは、前の政権からの引き継ぎでナチス政権が企画したものじゃあない」


「でもいっぱい雇われたって聞きましたが」


「五〇万人ほどは雇用されたらしいけれど、失業者は六〇〇万人もいたんだ」


「はあ?」


「景気回復は占領地から奪ったものだよ。ユダヤ人からも。占領されたフランスのユダヤ人の財産は、管財人が没収したり売却させてフランス国債へと換えた。フランスの国庫に入ってしまった。当のユダヤ人はどうなったと思う? 返したと思う?」#1


「ユダヤ人は大量虐殺されたから……返さなくていい? そんな!」


「それが事実だよ」


#1.「フランスは管財人にユダヤ人財産を没収・売却させた上で、フランス国債へと換えさせた。これによって現地政府はユダヤ人財産を事実上国庫に入れることができ、ユダヤ人が移送・殺害されてしまえば国債の償還義務もなくなると考えられていた」

小野寺拓也、田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波書店、二〇二三年)P五四


   *


 昔鳥カササギが話を続けた。


「資料の拡大解釈の次は、二番目の想定状況のズレ。ちょうど今の状況だね。二十一世紀の日本の常識が、ここでは非常識になっている」


「戦争をやっているのは変わりませんがね」


「一説には戦争をするのが人間だからという考え方もあるらしい」


「どういうことです?」


「人間しか戦争しない。それも世界観戦争――絶滅戦争を。集団自殺も人間だけ」


「……ネズミが、集団自殺するネズミがいませんでしたっけ?」


「レミングだね。でも、嘘だよ。川を渡ることはあっても自殺する訳じゃあない」


「なんか俺の常識が……」


「個人の思考は、先人の思考の上にしかなくて、そのほとんどは考えていないよ」


「考えていない?」


「どちらかを選択するだけじゃあ、考えていることにはならないんだ。まず資料を集めて――」


「――ああ、そこに戻るんですね。先をどうぞ」


「はいよ。生物学上のヒトも動物なので群れるんだけど、一方で賢いヒトは孤独を愛している。孤立して生活はできないけれど、時折ひとりでいる。ヒト以外の動物が集団になったとしても、一万や十万といった単位にはならない。狼のウルフパックにしろ十頭以下だから。ヒトだけが、万単位で行動できる」


「魔族……」


「種類が違う魔族がどうやって行動しているのかまったく理解できない。アンデッドがリッチを先頭にスケルトンやグールを使役している理由も不明だ。どうやって思考が伝播しているのかしら」


「テレパシー?」


「そうかもね。精神感応? 魔法も魔術も存在するとかありえない。だが、ぼくたちの常識ではありえないが、ありえている」


「カササギさん、魔法使えるんですね」


「東洋史を勉強したから占いができるていどだよ。ここの魔術師、とくに宮廷魔術師は頭がおかしいレベルだ」


 闇のカクナロクナがどこかでクシャミしているだろう。


「それでもカササギよりレベル下なんでしょう?」


「このていどすぐに追いつくよ。運も才能もある。本気を出せば技術なんてすぐにクリアしてしまう」


「そんなもんですかね。俺、剣道は自信あったんですがねえ……カササギさん、剣道、素人でしょう?」


「そうだよ」


「じゃあどうして、あんなに戦えたんです?」


 昨日のエアー侯爵ルダティ邸の中庭での一戦だ。勇者上月が昔鳥を降している。


「勝てなくても、負けないという選択はできるからね。ベトナム戦争の教訓さ」


「……俺も魔法使えますかね?」


勇者ヒーローが魔法を使うのかい?」


「なんか、ブワーってやりたいじゃあないですか」


「……戦争はそんなもんじゃあないよ」


「カササギさんって、前は何をしていたんです?」


「通信教育で合気道を少し」


「嘘だあぜったい嘘だあ……」



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