40.勇者チーム訓練計画(2)(R)
40.勇者チーム訓練計画(2)
勇者上月が馬上で呻いていた。
つい十日ほど前に初めて馬に乗ったところなのに、もう全力疾走させていた。
後方には騎兵隊三十六名。その後ろにも親衛隊二名がいる。
気を抜くと親衛隊から雷の魔術が飛んできた。
「痛!」
上月の尻に雷が落ちた。痛むが歩みを止めることはできなかった。
かなりのスピードで落ちれば、後続に踏まれるだろう。
*
昔鳥が、アーダァ伯爵テ・ロル=テ・ロルと話をした翌朝、約束通り上月がやってきた。
上月は先にルダティ邸に寄ったのでロルテ邸に着くには時間があったが、昔鳥はまだ眠り足りないのか口に手を当てて欠伸をした。
「お二人は?」
光の魔術師キロルテロルと風の上級魔術師フィルダティルダだ。
「作戦行動中……うーん眠い……」
昔鳥が顔を洗った。
「どんな作戦なんです?」
「機密保持のため、秘匿されている……」
「ヒトク?」
「秘密で匿名性がある……違うな。ままいいか」
「分かりますよ。知られちゃいけないんでしょう?〝敵を騙すにはまず味方から〟でしょ?」
〝敵を欺くにはまず味方から〟と言いたかったらしい。
いちいち昔鳥は訂正しなかった。通じている話の腰を折っても意味がない。
「……実は、神聖リヴャンテリ王国の作戦がよく分からなくて……カササギさんなら教えてくれるかなと……」
「殊勝な心がけだね」
「主将?」
「殊に勝れている心がけ。……いいよ。分かる範囲なら。もう一つは?」
「……耳を」
昔鳥が耳を澄ませた。
「……ああ。そういう女いるよ。後ろからすればいい。恥ずかしかったら顔を見ながら横からとか。無理に前からしなくていい」
「でも……」
「若いんだから、やってから考えればいい。ただし、避妊はしろよ」
「はい……ところで――」
「――まだあるの?」
「貴族の人って不倫とかどうなんです?」
「さあどうかしら……。フランスのブルボン朝だと公妾――公の妾がいたなあ……」
「公の妾? 二号さんとかではなく?」
「うん……家臣の誰かと結婚した奥さんが王様とラヴラヴする。公式に。貴族同士も」
「公式に……」
「つまりサロンとかにも出席する」
「それって問題にならないんですか?」
「未婚のほうが問題になったんだよ。子供ができたら大変だから。どうなると思う?」
「王様の子供?」
「未婚の子だよ? 洗礼も受けられない=キリスト教徒になれない=迫害一直線だね。いちおう貴族の誰かと結婚していれば、正式にその夫の子だし、非公式に王様の子ならその子の縁談もイイように働くし。それになりより、王様の愛人は平民不可なんだよ」
「そんなところにも身分制度が……」
「あの時代そんな感じだよ。……民主主義的に考えるとややこしくなるから、いったん置いておいたほうがいい。ちなみに〝勇者〟の称号は臣民公爵――公公爵の身分になるらしい」
「それってイイんですか?」
「王様、王族公爵――公公爵ね。で、臣民公爵。これも公公爵。三番目くらいのクラスかな。他国では賓客で『閣下』と呼ばれる立場になる」
「めんどうですね」
「それだけの価値はある。ただ、何度も言うけれど、人権とかそうしたもので判断しないことだよ」
「どうしてです?」
「少しは想像力を使ってごらん」
「大変なことになる?」
「たぶんね。……先に練兵所に行っておいて。分からないところを箇条書きに書いておいてくれるかな」
「何が分からないか分からないんですが……」
「そっちか……疑問になった点……、行き詰まった事を箇条書きで。重複してもいいから。時間や場所もバラバラでいいから。思いついたまま書いてみて」
「俺……字、汚いんですよね」
「ていねいには書けるでしょう?」
「ああ、そういうことか」
しない理由を探していたのに気づいた上月だった。




