表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第1章 兵站(ロジスティクス)限界
4/66

4.長い兵站線(R)

4.長い兵站線


 ハーフエルフのクリーアンが同郷のメリアに会ったのは数十年振りだった。


 実を言うと二度と会いたくなかったが、勇者一行ということもあり、報酬は十二分だった。


 だが、クリーアンの支払いの半分をカササギ個人が出していると、帳簿をつけていたヴィヴから教えられたとき「このチームのリーダーがカササギだ」と理解した。


 短絡的なメリアが惚れているのが勇者コウヅキだということは誰の目にも明らかで、そのじつコウヅキはヴィヴの他にリムリス嬢も抱いていた。


 性格の暗い上級魔術師アークウィザードのカナイルナイは宮廷魔術師で、クリーアンは苦手だったが悪人ではない。


 性根が悪なのはリムリスだ。


(ああしたかげのある女性を好むヒトの男は多い)


 カササギとリムリスの相性は最悪で、時間の問題だった。


(だからこそ呼ばれたのだ)


 メリアとしてもチームの空中分解は阻止したいのだろう。でないと、あんなことをしてしまったクリーアンに頭を下げるようなことはしない。


 実のところ、クリーアンはメリアのことをすっかり忘れていたので、思い出して不快になっただけで、とうの昔に許していた。カササギより年長だとしても、メリアはまだ子供なのだ。


 エルフなら森で鹿や猪、二角獣バイコーンを追いかけ回している歳だ。


 メリアはカササギが用意した羊皮紙を燃やしてしまったが、先日から幾度も兵站をいっしょに確認しており、クリーアンはそのすべてを覚えていた。


(コウヅキさんが無理を言わなければ……)


 最初に強く言うべき事案だった。


   *


 辞めたカササギとヴィヴが盗賊の残党に襲われ逃げたあと、捕らわれていた盗人を勇者チームが一掃した。


 そのあと、クリーアンが兵站ロジスティクスという言葉を使わずに計画を説明したが、コウヅキは分かったと言いながら、ハメをはずし、新鮮で暖かい焼肉にこだわった。


 祭司(ドルイド)の力で煙を消すことはできても、香りまで消すことはできない。


 肉の匂いは魔物を呼び寄せた。


 久々の狩に夢中になるコウヅキだったが、不安が残った。


(隠密作戦なんだが……)


 メリアの手が痺れるほど射たあと、リムリスに当たりそうになった。矢を斬り落としたリムリスだが、胸がはだけていた。それを正面から見たカナイルナイが火力の調節をあやまった。カナイルナイが方向を変えたが、カササギとヴィヴの方向に流れてしまう。


 隠密作戦は失敗に終わった。


 しかし、侵攻を止めることはできない。


   *


 魔王の拠点はもぬけの殻だった。


「どうして戦わない!」


 コウヅキがえた。


「撤退しましょう」


「いやこの城を最前線にしよう。せっかくここまで来たんだ。使わない手はない」


 クリーアンの提案をコウヅキが退しりぞけた。


「最悪、全滅しますよ?」


「クリーアンは心配性ね」


「メリア、いま一人でも欠けたら全滅するぞ?」


「何を弱腰な」


 リムリスがあざけった。


「いいですか? リーダー」


「何だい? クリーアン」


「全体の三割の損耗で全滅になります」


「いま五人よ?」


 メリアが人数を数えた。


「〝今〟じゃあない。最初七人だった。――三人減ると三割を超えます。今すぐ撤退を」#モンティ・ホール問題


「ダメだ。宝物庫を見てみたい」


「忠告しましたよ」


「ああ、いざとなったら、全員で逃げる。コレで――指輪は?」


「ヴィヴです」


「あの売女ばいた!」


(「別れる時に返してやる」と言ったのはあなたでしょうに……)


 カササギから聞いていたクリーアンは心の中で冷笑した。


「他にも策は――」


「――ある。それだけは徹底的に聞かされたからな」


   *


 お宝に興味のないクリーアンの後ろを、カナイルナイがついてきた。


「クリーアンさん」


「何でしょう? ミス・カナイルナイ」


 他人行儀なのはカナイルナイが貴族の子女だからだ。血統だけでなく、魔力も実力も上だ。


 対してクリーアンにあるのは、知識と年齢に応じた配慮だった。


「先ほどの計算は合っているのですか?」


「間違ってはいません。常に最悪は考えておくべきことです」


 損耗率が四割を超えてしまうと、撤退もままならない。まずは生き残ることだ。


「それは分かりますが、そんなに簡単に負けるものでしょうか」


「ああ、ミス・カナイルナイは負けたことがないのですね?」


「はい。聞いたことはあります。虐殺、拷問、強姦、略奪……」


「転移魔術は使えますか?」


「いいえ。……すべてを灰にしてきましたから」


「敵はこちらをよく観察していますよ。……これを」


 クリーアンが左手のブレスレットを、カナイルナイに手渡した。


「これは?」


「エルフに伝わる魔法のブレスレットです」


「どう使うのですか?」


「敵は……たぶん空気を薄くするでしょう。その時には、こう祈るように手を上げて……そう、そうすることであなたが望む場所まで風が連れて行ってくれます。ただし、あなたが行ったことのない場所に行くことはできませんし、一日三回までです」


「こここんなものをいいいただけませにゅ」


 んだカナイルナイが押し戻した。


「差し上げるとは言っていません。後で返してください」


「はい……」


 左腕に付けると、適切な大きさまで小さくなった。


   *


 メリアの鑑定によると、二つ目の井戸も正常だった。


 かなり急いで撤退したらしく、食堂には温かい料理が手つかずのまま残されていた。かまどの火は消されていたが、鍋のふたを開けると湯気が立った。


 リムリスが清浄の魔術でそれらを消して、一行は食糧庫に向かった。


 保存食が山積みされていた。どれだけの数の魔物がいたのか不明だが、年単位の量だった。


「これは……」


 次に向かったのは宝物庫だったが、宝物殿といったほうがいいだろう。金銀財宝がていねいに保管されていた。


「コレ一つで国が買えそうね」


 巨大な血色のルビーだった。#ピジョン・ブラッド


   *


 翌日、王国軍七十名が到着したが、すべて人喰い(グール)と化していた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ