38.神聖リヴャンテリ王国(12)(R)
38.神聖リヴャンテリ王国(12)
アーダァ伯爵テ・ロル=テ・ロルが飲み干すと、視線を部屋の中央に向けた。
朧な白い光が一つ二つ灯ると、やがて人の大きさほどになった。
「……」
床に座っているのは、光の魔術師キロルテロルだった。手を縛られている。
「キィ。気分は?」
「最低です。母上。魔族と交わった感覚です」
「経験もないのにこの子ったら」
(魔族と? あるの?)
エアー侯爵ルダティ家第一子レディ・フィルダティルダが、アーダァ卿を一瞬見た。
(あっ……)
向こうも見ていた。
「フィルダティルダとは〝していない〟のね」
「はい」
見抜いたエアー侯爵が昔鳥に確認した。
「ああ、なるほど。ルゥ」
テ・ロル=テ・ロルがお代わりを注ぐよう、息子のリヒト子爵ルロルテロルに促した。
「光の盟主は何を理解したのですか?」
ルロルテロルが母に聞いた。
「公爵閣下の召喚魔術が過つとは考えにくい」
一口飲んでから自分の考えを述べた。
「誰かが裏切った? ということですか?」
フィルダティルダが一例を出した。
「とするとあなたね。フィルダティルダ」
「いえ、私は宮廷魔術師を辞めましたが、それと召喚魔術とは無関係です」
その上で「いつも裏切るとは限りません」と弁明した。
「召喚魔術の前に、誰かに何か頼まれませんでしたか?」
昔鳥が、風の上級魔術師に訊ねた。
「狼人を用意してくれと言われたので、ミンダフとアコースを――あれ? ……」
「誰に?」
ルロルテロルが聞いた。
「言いたくありません」
「では、カササギさんに聞いてみるとしましょう」
リヒト子爵が顔を向けた。
「答えられるもんですか……」
「キィが先に答えなさい」
「カクナロクナに決まっています」
宮廷魔術師の議長の闇のカクナロクナだ。
「公爵閣下――伯母の謀略を止めるために。フィルダティルダは、私といっしょでカクナロクナに世話になっているから名前を出せないだけ。議長のカクナロクナが真犯人」
「同意見です」
リヒト子爵が母の顔を見た。
「カササギさんは違うみたいよ」
「答えを言っても?」
「どうぞ」
「空間の上級魔術師カサマタサマ」
「えっ?」
「何?」
「どうしてそれを!」
「理由は三つ。一つ、闇のカクナロクナは愚かでも邪悪でもないから。議長であるなら、土の上級魔術師カクマリクマを処分すれば自身の履歴の傷になる。相手が公爵閣下で伯母というなら、破滅願望などないカクナロクナは血縁関係を利用する。盾にも矛にも使う」
「でもそれだけだと、カサマタサマじゃあないという答えにはならない」
キロルテロルが否定した。
「カクマリクマ――公爵閣下は自分が恨まれていることは知っている。召喚魔術の前にあなた――キロルテロルを含め、フィルダティルダとカサマタサマが親しくしていれば不安に感じる」
「だとしても、カサマタサマにはならない」
「一番にぼくに声をかけたのは、カサマタサマですよ。ぼくの力が公爵を失脚できないなら、その場で処分するつもりだったのでしょう。……だから、エアー卿はお嬢さまを差し出した」
「でもそれは、カササギさんに着いていくと決めた私が裏切っただけで――」
「――違うよ」
「……何が違うんです?」
「テロルさん。話してもいいですか?」
「どうぞ」
「エアー卿は公爵閣下を破滅させるために、あなたを宮廷魔術師にしたんです」
「はい?」
「自覚がないからこそ、カサマタサマに言われた通り、ミンダフとアコースを用意したんでしょう?」
「……はい」
「自覚がないスパイ。一番困ったものだわ。ルゥ」
溜息をついた伯爵が子爵にお代わりを注文した。
「それはテロルさんも同じでは?」
「……どうしてそう考えるのかしら?」
「激情の方だとお伺いしました。ですが、アーダァ卿はあまりに冷静です。公爵が失脚するなら、もっと喜んでいいはずですが……」
「どこで気づいたの?」
「エアー卿からこれを与えられました」
侯爵ルダティ家の紋章のある紫檀製の細長い箱だ。
「中身をアース公から取り返すよう命じられています」
「それが何か?」
「リヴャンテリの青い眼鏡を奪ったのが誰かと考えれば答えは限られます」
アーダァ伯爵テ・ロル=テ・ロルが飲み干しテーブルに叩きつけた。




