37.神聖リヴャンテリ王国(11)(R)
37.神聖リヴャンテリ王国(11)
白亜の楼閣は天空まで聳えていた。
(スーパーロボットかよ)
光の魔術なのだろう。バベルの塔を築けるだけの技術があるとは考えられない。
それだけ光の伯爵の地位が高いということなのだろう。
そしてそれは風の侯爵が娘の地位を「次席(第二夫人)でも依存なかろう」と言うまでに。
(違うな……何か違和感がある)
昔鳥が何気に正門のほうを見ると、噴水庭園がある丘の遥か向こうの裾に正門があった。
(ひょっとして……ルダティ邸からロルテ邸までの距離より、正門からここまでのほうが長いのかもしれない)
もちろんそんなことはないのだが、それだけ広かった。
王宮がある丘より少し低いくらいだが、三番目に高い丘に巨大な邸宅があった。
二番目は公爵クマリ邸だ。
(どうしてみんな高いところに住みたいのだろう)
水害がある海岸沿いや河川の近く、もちろん活断層の上も遠慮したい昔鳥だが、それほど居住に興味はなかった。
兼六園のような庭が好きだが、住むとなると話は違う。
陶磁器が好きでも自宅で楽しむことはしなかった。
(割るのがオチだ……)
ペルシア模様を思わせる絨毯に乗ると、ふわりと浮き上がり右周りで回廊を移動した。
(空飛ぶ絨毯か……『千夜一夜物語』にあったな……いや、違うか)
あとから追加された物語で、ペルシアの原本にはない。同じように「アラジン」も「シンドバッド」も「アリババ」も『千夜一夜物語』には登場しない。
そもそも『千夜一夜物語』は一〇〇一話もない。八百万の神といっしょで「たくさん」の意味しかない。奇数は縁起がいいだけにすぎない。
(子供のころ読んで楽しんだな……)
夜の話なので、本来「R18+」だ。
(夜の話か……〝Nessun dorma! Nessun dorma!〟)
「何の歌ですか?」
隣のエアー侯爵ルダティ家第一子レディ・フィルダティルダが聞いた。
微妙に漏れていたらしい。
「昔の歌だよ。遠い異国の歌だ」
歌っていたのはジャコモ・プッチーニの歌劇『トゥーランドット』のアリア『誰も寝てはならぬ』だった。『トゥーランドット』は『千夜一夜物語』ではなく『千一日物語』が原作なので、昔鳥は連想したのだろう。
なお『トゥーランドット』の舞台は中国なので、さほど遠くはない。
「王女が求婚者に三つの謎かけをする。解けないと殺められる。王女に恋した異国の王子は――という話だよ」
「どうなるの?」
「忘れた……」
「あなた嘘つきね」
「二人でいるときに教えてあげる」
「そう……着いたわ」
回廊で屋敷を半周した。
反動もなく、静かに絨毯が止まった。
ドアが静かに開かれた。
ベージュの床に、白を基調とした調度品が並んでいた。天井はグレイで、壁が遠く感じる。
美しい女性が出迎えた。三十代にしか見えない。
「カササギさま、こちらが光の盟主です」
リヒト子爵ルロルテロルが母のアーダァ伯爵を紹介した。
「光の盟主、こちらがカササギさまです」
「ようこそいらっしゃいました。カササギさま。私がアーダァ伯爵テ・ロル=テ・ロルである」
キロルテロルに似た見た目で、ボリュームは二割増しのアーダァ卿が先に挨拶した。
「昔鳥と申します。お招き感謝いたします。アーダァ卿」
「どうぞ、楽にしてください。カササギさん。さん付けでよろしかったのでしょう?」
「はい、アーダァ卿」
「私もテロルと」
前半分の名称は、恋人か愛人が口にする名だ。
「――あなたもこちらに、フィルダティルダ」
「はい。光の盟主」
親しい間柄らしい。
「……ではテロルさん。まずお嬢さまの件をお詫びいたします」
フィルダティルダを横に、アーダァ卿とリヒト卿を前に、昔鳥が謝罪した。
「聞きましょう」
(〝激情のお方〟では?)
「礼儀知らずな宮廷魔術師カクマリクマが、ぼくを暗殺しようとしました。お嬢さまの手を使って」
「あら、そう。――お酒はいける口?」
「ほどほどに」
「私はいつもので」
「私が……」
「いや君は今日は客人だ」
使用人がいなかった。気配を消しているのではなく、侍ってもいなかった。
リヒト卿が手際よく氷を入れると、四杯つくった。
昔鳥、フィルダティルダ、それにアーダァ卿の順番に置き、リヒト卿がソファーに戻った。
「そうね。カササギさんの前途を祝して乾杯しましょう」
「テロルさんの健康を祝して」
「それは光栄」
「ではその二つで」
「カササギさんの前途を祝し、光の盟主の健康を祝して、乾杯」
テ・ロル=テ・ロルが視線をやると、フィルダティルダの音頭で、乾杯した。




