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異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第4章 神聖リヴャンテリ王国
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35.神聖リヴャンテリ王国(9)/〈SABCD五段階評価〉(R)

35.神聖リヴャンテリ王国(9)/〈SABCD五段階評価〉


 ルダティ邸の門が揺らいだ。


 エアー侯爵家の門である。多少の圧力で動ずるものではない。


「開けろ!」


 勇者上月(コウヅキ)の声に門が反応して、静かに開いた。


「コウヅキさん。わざわざお越しいただ――」


 執事が出迎えた。


「カササギさんはどこだ?」


「ただいま入浴中でして――」


「――案内しろ」


 白い練習着は土埃がついていた。


「ですが――」


「――案内しろ。いや、自分で行く」


 執事の視線を感じて奥に進んだ。


   *


 湯船で瞑想していた昔鳥カササギが目を覚ました。


「ちょっ! 勇者?」


 メイド姿で隠れていっしょに昔鳥の身体を洗っていた風の上級魔術師フィルダティルダが振り返った。


「カササギさん!」


 上月が駆け寄ると、昔鳥を強く抱きしめた。フィルダティルダが転んでしまうが、風で一回転した。着地。


「良かった……目覚めて……どうなってしまうかと……」


 支離滅裂に言葉をかけた。


「痛い痛いって、上月くん」


「あっごめんなさい!」


「こんなに土が……いっしょに入ろうか」


 フィルダティルダが鼻血を出した。


「お嬢さま!」


   *


 勇者上月が昔鳥のいなかった七日間を一気に話した。


 もちろん食卓のものを口にしながら。


(英雄は健啖だし艶福だな……)


 本来であれば後ろに従っているはずのヴィヴが上月の左隣にいた。


 右は二刀流の剣聖(Master of the Swords)のリムリス嬢だ。昔鳥をにらんでいる。


緑の目の怪物グリーンアイドモンスターか……)


 ウィリアム・シェイクスピアの悲劇『オセロ』に出てくる「嫉妬」の代名詞だ。


 もっとも昔鳥はリムリスの感情も理解していた。


 若い女性が勇者を独り占めしていたのに、その勇者が他の人間に親しく話している状況が許せないのだろう。


「私はあなたなんか認めない!」


 リムリスが声をあげた。


 昔鳥はそれに答えなかった。何を言っても、また何をしても文句を言われるのであれば何もしないのが得策だった。他者の目を気にするほど、この世界に馴染んでもいない。まだ理解できていないと考える向きだろう。


「食事の後で練習試合はどう? カササギさん」


「リムリス。カササギさんさんは今日目覚めたばかりなのよ?」


 女主人役のフィルダティルダが忠告した。


「それに、剣術であなたに勝てる人はこの中にいないわ」


 お世辞ではなく事実だった。もっとも魔術込みであれば、リムリスよりフィルダティルダのほうが強い。元宮廷魔術師は冒険者ランクではAクラスに匹敵する。国家公務員のなかでも超エリートだ。


 客席の末に座る火の上級魔術師ファイアアークウィザードのカナイルナイも元宮廷魔術師だが、階級が違う。いくら名門ファイア侯爵ナイル家の子女といっても、爵位継承権第一位となれば話は別だがしょせん庶子で上の階級には昇れない。


 良家でなければ魔力は低い。魔力が低いと階級は上がらない。階級が上がらないと良家にならない。三竦さんすくみの状態はどこの世界にもある。#Dirty Mary, Crazy Larry


「じゃあ、俺が相手しますよ。カササギさん。魔術なしなら問題ないでしょう」


(やれやれ……)


   *


 エアー侯爵家の中庭はかなり広い。風の魔術を完全に使うためか、周囲に何もなかった。あるのは中央の四角く区切った芝生だけだった。


 勇者上月が正眼に構えた。対する昔鳥は木刀をもつ左手をだらりと下げたままだ。


(微動だにしないのか……)


 昔鳥が考えを改めた。地下街を逃げていた少年ではないのだ。呉下ごか阿蒙あもうはもういない。


 鈴の音が開始の合図だった。


(無足!)


 予備動作なしに、上月が前に出た。木刀の剣先は昔鳥の右目を狙っていた。


(剣道ではなく、剣術だな)


 人殺しの術だ。武術では基本右目を利き目として、体躯を動かす。左を〝支〟とし、右の〝主〟を活かす。左利きだからといって、右の腰に剣をくことはない。


 たとえば、銃を扱う場合でも右利きに矯正させられる。薬莢が右に排出されるのに、左手で持っていては危険だからだ。これは自分が、ではなく味方がである。


 戦争は八百長だ。敵の真正面を撃つということは少ない。敵の正面ではなく、敵から見えない斜めから、味方の正面の敵を攻撃する。


 荒野の決闘ではないのだ。味方を守る攻撃をしながら、味方に守られつつ敵を攻撃する。


(確かに食後の運動にはいいな)


 左手で受け流しつつ、右にかわした。後ろに退く。右に右に動く。


 芝生の端まで来ると、次に左に動く。


「逃げるな!」


 上月が声を上げた瞬間、のどに突きがあった。首を後方に身体の軸をひねった。右半身がブレるが、追撃はなかった。


「カササギさん、正正堂堂と勝負しましょうよ。フェアプレイです」


 上月の誘いだ。あのまま昔鳥が追えば、何か仕掛けるつもりだったのだろう。


「(よく言う……)頭脳労働者なんだよ……ベッドの上以外では肉体運動は遠慮したい」


 軽口を言う余裕はあるらしい。


「そもそもフェアプレイのフェアは最低ランクだよ?」


「そうなんですか?」


   *


〈SABCD五段階評価〉

 S―エクセレント

 A―ベリーグッド

 B―グッド

 C―フェア

 D―プア(バッド)

※四段階であれば優・良・可・不可で、Cのフェアは認められる最低ランクとなる。



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