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異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第4章 神聖リヴャンテリ王国
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30.神聖リヴャンテリ王国(4)(R)

30.神聖リヴャンテリ王国(4)


 ヴィヴは時おり、収納魔術で中に入った。心だけだったが。


 落ち着かない時など、暗闇の中で静かに瞑想するのは貴族のたしなみでもある。


 キーはあるし、他の人から見れば眠っているだけだから、起こせばいいだけだ。


 なお、物理的に生物を入れることを想定していない。


 幼子が飼っていたペットを入れて忘れて死なせてしまう話は物心がつく前に最初に聞かされる。


 そんなところに自分から入ろうという昔鳥カササギの気がしれなかった。もっともそうした存在を昔鳥は知らないのだが「何かある」「どうにかできる」と考えたのだろう。


 ただ、それが一番楽な方法ではある。


 ドアの向こうにいる人物を特定して収納した。


 ふつうはできない。許可がないと、哀れな魔術師のように永遠に閉じ込められる。#Le Morte d'Arthur


〈まるで子宮の中だな〉


 その表現は適切だった。


 ヴィヴが暗闇に光を灯した。今までもできなくはないが神経を集中させる必要があるので、自分が使うことはほとんどない。


〈服は適当に選んで〉


 昔鳥のほうか小さいので入るのだろう。


 クローゼットルームに入ると、百着近くの服があった。どれも女性用だったが。


   *


 ヴィヴが女召使いを連れて図書館に向かった。


 誰もヴィヴに視線を合わせようとしない。


 奴隷落ちした貴族など、誰が見ようか。明日は我が身である。


 女装した昔鳥の胸の身分を証明するカードは本物だ。


「ユテルパテル」とあるが、ヴィヴの偽名だ。本当は「ウデュルンパデュルン」にしようとしたのだが、先に登録している人がいた。幼いころ読んだ古い本に登場する架空の英雄の名前だが、そんな幼稚な名前を登録した人がいたことに自分を棚上げして驚いた。


 テルパ家は実在した。旧リヴャンテリ王家に従う子爵家で、ヴィヴが幼いころ養子に出されていたことがある。だから、カードは本物だ。


 端末で検査すれば生体認証から異なる人物だと判断されるだろうが、王宮でそんなことをする人間はいない。警備を担当している貴族たちの面子を潰すことになるし、もし本人ではなかったとしても、そんな不作法が許される事はない。


 テルパ家は停止状態だが、誰か(たとえば地方の新興貴族)が継いだ可能性もある。迂闊うかつに手を出せば派閥の貴族に迷惑がかかる。宮廷内に敵は多い。新参者にかまっている余裕はなかった。


 それにヴィヴが勇者のしもべとなっていることは周知の事実だ。女召使い一人連れていても不思議はない。


 どの国も図書館は静かだった。


(バッハでも流したい気分だ)#BWV 1068


 不思議なことに、昔鳥は初見で異世界の言語を読むことができた。


(インストールするのに七日経かったということか……ポンコツだな)


 そもそも〝巻き添え〟で来たので、そうした準備ができていなかっただけだが。


 ヴィヴに案内された棚で、羊皮紙に書かれた法律を読んだ。


 当然だが、貴族のことしか書かれていなかった。


 商法については、信用についてだけ書かれていた。


(中世レベルか。人権はないな。ぼくは貴族だと言うか……)


 歴史は神話の時代から始まっていた。


 二つの月の女神がそれぞれ天と地を創造したらしい。


「月が二つあるのか……」


 キロルテロルの気配がしたので、裏口から外に出た。


「なるほど」


 太陽が天上にあった。


「正午か……」


 西の空を見ると、下弦の月があった。お椀を逆さにした形だ。その後を追うように、六十度の角度にもう一つ小さい下弦の月が並んでいた。


L5(エルファイブ)の月か……」


L5(エルファイブ)?」


「ラグランジュ・ポイントだよ」


 L5にある二つ目の月は肉眼で見えるほど明るいが、実際には無視できるほど質量が小さいのだろう。でなければ、あの位置にはない。


(あるいは、あの月が――)


「――カササギ!」


 キロルテロルが素足で走ってきた。


「あとで教えてあげる」


「分かったあ」


 昔鳥がそう言うと、ヴィヴが退いた。


「光よ光、その光の束をもって捕らえよ」


 光の束が昔鳥を捕まえるが、ドーソン印に絡まってしまい、セーマン印によって束が斬られた。


「嘘!」


 キロルテロルが茫然と立ち尽くした。


「本当。君の魔法は効かない」


(魔法う?)


 ヴィヴが頭を傾けた。キロルテロルが使ったのは、ふつうの魔術で魔法ではない。


「わたくしを否定するの?」


 魔術師に「魔法は効かない」は言ってはいけない言葉だった。この世界の人が多少なりとも持っている魔法の素子――魔法の基本的要素である魔素まその否定だし、それ以前の魔法の因子である魔因まいんをも否定しかねない。つまり「人間ではない」という意味になる。


「否定はしない。ただ、君の魔法が効かないというだけだよ」


 昔鳥に悪気はなかったが、無知は罪である。


「ふざけるな!」


 収納魔法で取り出した剣でキロルテロルがいだ。


居合いあいとはね……)


 宮殿に飾られた武具から長槍を予測していただけに、余裕で回避できた。


「動くな」


 二本指で差した。


 ピタリとキロルテロルの動きが止まった。


「呼吸はしていいよ。剣をしまって」


 持っていた剣が収納された。


「何をした?」


「さあ……いっしょに考えようか」


 異世界から来た青年が美しい女魔術師に微笑んだ。



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