28.神聖リヴャンテリ王国(2)(R)
28.神聖リヴャンテリ王国(2)
昔鳥がレディ・キロルテロルにキスすると、微笑んだアーダァ伯爵の子女が押し倒した。
馬乗りになると、両手で昔鳥の頬を撫でた。
昔鳥の唇から血が流れた。
「レディ?」
舌を噛まれた昔鳥が声をかけると、キロルテロルが風の魔術でドアに錠をかけると、静寂で室内を静かにした。
呼吸と、心臓の鼓動だけが聞こえる。
「相性がイイ」
そう言うと、キロルテロルが昔鳥の右頬を右手の甲で打った。
神聖リヴャンテリ王国では、最大の侮辱だった。
唇も切れる。
(加虐性欲者か!)
上着を脱いでブラジャー姿になった美しい狂気の女性が、今度は左の甲で、無抵抗な青年の左頬を打ち付けた。
(一回目は奇跡。二回目は偶然)
昔鳥がキロルテロルの水月に二本貫手を入れた。
昔鳥は、三回目の必然を黙って待つような誠実な人物ではなかった。
素早く抜くと同時に、キロルテロルが硬直した。
目をゆっくりと閉じたり開いたりしている。
貴族が領内の平民をどう扱おうが、まったく何の罪にも問われない。人権がないとはそういうことだ。
宮廷魔術師にとってはカササギという〝巻き添え〟がいたことこそが問題で、治療がうまくいかなくても問題ない。
勇者コウヅキがカササギを見てもそれが泥人形であっても区別はつかない自信が、キロルテロルたち宮廷魔術師にはあった。
キロルテロルの美しい身体を支えると、昔鳥がゆっくりベッドに寝かせた。
「こんなことをしたくはないが……」
「……」
キロルテロルが口を開こうとするが、息も浅く声にならなかった。
無詠唱で魔術を使おうにも、思考自体が真っ白で何も考えることができなかった。
「……」
「キロルテロル。お前に魔法をかけた」
(魔法? 魔術ではなく?)
キロルテロルの柔肌に玉のような汗が吹き出てきた。顔を左右に動かそうにも動かない。もちろん五体すべてが動かず、肺もわずかしか動いていない。
(死ぬ? アタシ死ぬ? 平民に殺されて死ぬ?)
「お前の真名を教えろ」
(何を言っている? 貴族にそんなことを要求できると思っているのか?)
昔鳥がキロルテロルの水月に、右手を翳した。
(何を?)
昔鳥の隣国の文化で〝気功〟という。気功は代替治療にすぎないが、プラセボ効果は侮れない。人間にはそれだけ自然治癒できる能力が備わっている。
水月に〝気〟を流し込んだ。
(うっ!)
体内に他人が入ってくる感覚に、キロルテロルが吐き気をもよおすが、それもできない。
次に昔鳥が、キロルテロルの項に左手の指先を置いた。
(げっ!)
昔鳥の手のひらから水月に入れられた〝気〟が、キロルテロルの項から出て行った。
(嫌! ――嫌あああ!)
胸から首をロードローラーで轢かれたような感覚だった。一滴の血液も一個の細胞も項から絞り出される感覚に、キロルテロルが恐怖した。
気絶しそうになると、昔鳥が〝気〟を反転させた。逆流だ。
ケーキの飾りに、絞り袋から美しい形のホイップが体内に入ってくる感覚があった。
これは昔鳥が自分の〝気〟とキロルテロルの〝気〟を融合させたものだ。
何度か往復すると苦痛がなくなり、快感に変わってきた。
(ベッドに寝ているだけなのに。)
昔鳥はその〝気〟をすべて入れ替えるのではなく、細かく細かく微細に移動させた。
電気でいうところの交流に近い。
それを今度は全身に流通させた。
〝気〟の流れが一定になった瞬間、昔鳥がキスをした。
キロルテロルが気絶した。
*
キロルテロルが目覚めると、昔鳥がいなかった。
上着は胸にかけられていて、他には何もされていなかった。
袖を通して、同時に索敵した。
昔鳥の血は二度記憶している。
「あの男!」
間違う訳はなかった。
昔鳥は図書館で資料を閲覧していた。
ヴィヴといっしょに。




