27.神聖リヴャンテリ王国(1)(R)
27.神聖リヴャンテリ王国(1)
目覚めた昔鳥が初めて見たのは、美しい女性だった。
「……ここは?」
頭が痛く、身体に倦怠感が残っていた。関節が音を立てた。
「美しい(ビュー)。天国?」
スタイルのよい別嬪だった。
「煉獄よお」
ゆっくりした口調で、事実を伝えるその首には禍々しい紋様があった。
「呪い?」
触れようとするが、女性が逃げたので手を止めた。
(迂闊に触れると呪いが発動するのかしら?)
首が落ちる予測をする昔鳥だった。
「呪いではなくてえ、隷紋ですう」
「女隷? 官婢かしら?」
「女隷ですう。コウヅキさんのお」
美しい顔に見蕩れていた昔鳥の記憶が戻った。
(上月くん……)
「アタシは勇者コウヅキさん専門の酒保商人のヴィヴですう。ヴィヴとお呼びくださいい。カササギさんん」
「ヴィヴァンディエール……ヴィヴァンディエールですか……」
「知っておられるのですかあ?」
「兵站の一つですね」
(兵站を理解しているレベルの国か……)
昔鳥がいた国は前世紀に兵站を軽視して敗戦した経緯がある。反応兵器で焦土と化した。
「ロジスティクスを知っておられるのですねえ?」
「多少の実戦も……。法律を教えてくれませんか、ヴィヴ。外交儀礼も」
ミスをして首を落とされたくはない。
「それはわたくしが……」
ヴィヴの背後にいた、うら若い胸の大きな美しい女性が声をかけた。豪奢な白と金の衣装が眩い。
(高級官僚かしら?)
「宮廷魔術師キロルテロルです。光の魔術師です」
(キロルテロル? ユハズルズルとかいう敵がいたな。魔法騎士だったか)
正しくは、魔術騎士ユズルハズルである
「昔鳥です。お手柔らかに」
頭を傾げた。やわらかい笑み。
「あとはわたくしが……」
ポッと赤くなった。キロルテロルが小声でヴィヴに言った。
「ではあ、失礼しますう。カササギさんん」
「またね、ヴィヴ」
手をヒラヒラさせようとした昔鳥が引っ込めた。手のひらを見せると最大の侮辱にある国もある。指一本見せるだけで「地獄に落ちろ」という意味にもなる。
(ここは敵地だ)
ヴィヴが一礼して退室した。
「ここは?」
先に昔鳥が質問した。
「客室ですが、何か?」
「……」
「ああ、神聖リヴャンテリ王国です」
気づいたキロルテロルが言い直した。
「神聖リヴャンテリ王国。リヴャンテリは土地の名前ですか? キロルテロルさん」
「二人のときは呼び捨てでかまいません。正式名称は〝宮廷魔術師キロルテロル〟です。よびかける時は〝レディ・キロルテロル〟です」
「ということは貴族ですか?」
「はいそうです。宮廷魔術師のほとんどが公爵・侯爵・伯爵またはその子女です。宮廷魔術師は爵位の上位称号ですから、それ自体が敬称となります。わたくしは光の中級魔術師なので、光の魔術師が職種名となります。同じクラスは、火の上級魔術師や水の上級魔術師です」
「光だけが一つ上ということですか?」
「まあ数が少ないですから。それに聖女がいますので」
「いるんだ……」
「いますね……停戦派ですが。わたくしたちは勇者召喚派」
「継戦派?」
「はいそうです」
「きなくさいですね……」
「この時代、どの国もそうです。魔王に苦しめられているのは」
「魔王がいるんですか?」
「はい」
「いっぱい?」
「いっぱいはいませんよ。複数存在したら世界が滅んでしまいます。――続けますね」
「どうぞ」
「爵位は上から公公爵、候侯爵、それに辺境伯と伯爵があります。その他に下級貴族として子爵と男爵があります。ここまでが貴族で、準男爵や騎士は平民扱いです。騎士は一等から五等まであり、騎士(一等)以下はあまり気にしなくて構いません」
レディ・キロルテロルは光を司るアーダァ伯爵の子女で、爵位の〝アーダァ〟には光の他に情熱も含まれる。それだけに前向きで、差別をしている自覚はまったくなかった。
(〝気にしなくて構いません〟とは、蟻扱いなのだろう……人権がない世界か……)
「以上で質問はありますか?」
「いいえ。……上月さんの身分はどうなりますか?」
「コウヅキさんには〝勇者〟の称号が与えられましたので、王族に準じた身分が与えられます」
「臣民公爵――公公爵のような?」
「よくご存知ですね。名誉職です」
「まだ少年でしょうに……」
「この国では十五歳で成人扱いとなります」
(それだけ早死にするということでもある……)
「図書館で資料を閲覧したいのですが、キロルテロルさん」
「申請してみます。しかし、宮廷魔術師カクマリクマが許可を出すとは考えにくいです」
「上司ですか?」
「はい。今回の勇者召喚の責任者です。言いにくいのですが……」
「〝巻き込まれた〟?」
「はい。〝巻き添え〟――カササギさんの処遇について宮廷内でも紛糾しています」
「さっさと処分すればいいものを?」
「それができれば楽なんですが……あ」
開いた口を押さえたがキロルテロルの心の声が漏れていた。
「……」
「いえいえそんなことは考えたことはありませんよ。アタシは無実です」
口調が違う。有罪だろう。
「あなたになら、殺められてもいい」
青年が美女にキスをした。




