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異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第4章 神聖リヴャンテリ王国
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27.神聖リヴャンテリ王国(1)(R)

27.神聖リヴャンテリ王国(1)


 目覚めた昔鳥カササギが初めて見たのは、美しい女性だった。


「……ここは?」


 頭が痛く、身体に倦怠感が残っていた。関節が音を立てた。


「美しい(ビュー)。天国?」


 スタイルのよい別嬪べっぴんだった。


煉獄れんごくよお」


 ゆっくりした口調で、事実を伝えるその首には禍々(まがまが)しい紋様があった。


「呪い?」


 ふれれようとするが、女性が逃げたので手を止めた。


迂闊うかつれると呪いが発動するのかしら?)


 首が落ちる予測をする昔鳥だった。


「呪いではなくてえ、隷紋ですう」


女隷じょれい? 官婢かんぴかしら?」


「女隷ですう。コウヅキさんのお」


 美しい顔に見蕩れていた昔鳥の記憶が戻った。


上月こうづきくん……)


「アタシは勇者コウヅキさん専門の酒保商人ヴィヴァンディエールのヴィヴですう。ヴィヴとお呼びくださいい。カササギさんん」


「ヴィヴァンディエール……ヴィヴァンディエールですか……」


「知っておられるのですかあ?」


兵站ロジスティクスの一つですね」


兵站ロジスティクスを理解しているレベルの国か……)


 昔鳥がいた国は前世紀に兵站ロジスティクスを軽視して敗戦した経緯がある。反応兵器で焦土と化した。


「ロジスティクスを知っておられるのですねえ?」


「多少の実戦も……。法律を教えてくれませんか、ヴィヴ。外交儀礼プロトコルも」


 ミスをして首を落とされたくはない。


「それはわたくしが……」


 ヴィヴの背後にいた、うら若い胸の大きな美しい女性が声をかけた。豪奢な白と金の衣装がまばゆい。


(高級官僚かしら?)


「宮廷魔術師キロルテロルです。光の魔術師です」


(キロルテロル? ユハズルズルとかいう敵がいたな。魔法騎士だったか)


 正しくは、魔術騎士ユズルハズルである


昔鳥かささぎです。お手柔らかに」


 頭をかしげた。やわらかい笑み。


「あとはわたくしが……」


 ポッと赤くなった。キロルテロルが小声でヴィヴに言った。


「ではあ、失礼しますう。カササギさんん」


「またね、ヴィヴ」


 手をヒラヒラさせようとした昔鳥が引っ込めた。手のひらを見せると最大の侮辱にある国もある。指一本見せるだけで「地獄に落ちろ」という意味にもなる。


(ここは敵地だ)


 ヴィヴが一礼して退室した。


「ここは?」


 先に昔鳥が質問した。


「客室ですが、何か?」


「……」


「ああ、神聖リヴャンテリ王国です」


 気づいたキロルテロルが言い直した。


「神聖リヴャンテリ王国。リヴャンテリは土地の名前ですか? キロルテロルさん」


「二人のときは呼び捨てでかまいません。正式名称は〝宮廷魔術師キロルテロル〟です。よびかける時は〝レディ・キロルテロル〟です」


「ということは貴族ですか?」


「はいそうです。宮廷魔術師のほとんどが公爵・侯爵・伯爵またはその子女です。宮廷魔術師は爵位の上位称号ですから、それ自体が敬称となります。わたくしは光の中級魔術師なので、光の魔術師ライトウィザードが職種名となります。同じクラスは、火の上級魔術師ファイアアークウィザードや水の上級魔術師ウォーターアークウィザードです」


「光だけが一つ上ということですか?」


「まあ数が少ないですから。それに聖女がいますので」


「いるんだ……」


「いますね……停戦派ですが。わたくしたちは勇者召喚派」


「継戦派?」


「はいそうです」


「きなくさいですね……」


「この時代、どの国もそうです。魔王に苦しめられているのは」


「魔王がいるんですか?」


「はい」


「いっぱい?」


「いっぱいはいませんよ。複数存在したら世界が滅んでしまいます。――続けますね」


「どうぞ」


「爵位は上からおおやけ公爵、そうろう侯爵、それに辺境伯と伯爵があります。その他に下級貴族として子爵と男爵があります。ここまでが貴族で、準男爵や騎士は平民扱いです。騎士は一等から五等まであり、騎士(一等)以下はあまり気にしなくて構いません」


 レディ・キロルテロルは光を司るアーダァ伯爵の子女で、爵位の〝アーダァ〟には光の他に情熱も含まれる。それだけに前向きで、差別をしている自覚はまったくなかった。


(〝気にしなくて構いません〟とは、アリ扱いなのだろう……人権がない世界か……)


「以上で質問はありますか?」


「いいえ。……上月こうづきさんの身分はどうなりますか?」


「コウヅキさんには〝勇者〟の称号が与えられましたので、王族に準じた身分が与えられます」


「臣民公爵――おおやけ公爵のような?」


「よくご存知ですね。名誉職です」


「まだ少年でしょうに……」


「この国では十五歳で成人扱いとなります」


(それだけ早死にするということでもある……)


「図書館で資料を閲覧したいのですが、キロルテロルさん」


「申請してみます。しかし、宮廷魔術師カクマリクマが許可を出すとは考えにくいです」


「上司ですか?」


「はい。今回の勇者召喚の責任者です。言いにくいのですが……」


「〝巻き込まれた〟?」


「はい。〝巻き添え〟――カササギさんの処遇について宮廷内でも紛糾ふんきゅうしています」


「さっさと処分すればいいものを?」


「それができれば楽なんですが……あ」


 開いた口を押さえたがキロルテロルの心の声が漏れていた。


「……」


「いえいえそんなことは考えたことはありませんよ。アタシは無実です」


 口調が違う。有罪だろう。


「あなたになら、あやめられてもいい」


 青年が美女にキスをした。



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