26.コカトリス討伐(8)(R)
26.コカトリス討伐(8)
パリチチスの命を受けた使い魔の隼が、組合の裏庭で雀を食べていた。報告を届けた褒美だ。
神妙な顔でアダリリスが「森を破壊し、コカトリスは駆逐されました」と告げた。
組合長は頷くだけだった。
(予定通りだったということ?)
「あのお……」
「なんじゃ?」
「これからどうするのですか?」
「うん?」
他の書類を見ていた組合長が「ああ」と言うと、言葉を続けた。
「どうもしやせん。ユタリナの南の〝黒い森〟は、二十年に一度〝燃やす〟約定じゃからのお」
「……そんなことはどこにも書かれていませんが」
「うむ。書かせておらん。……考えてもみよ、アダリリス。コカトリスとはなんじゃ?」
「……怪獣です」
「そうではのおて。リヴャンテリ金貨に描かれているものは何じゃ?」
リヴャンテリ金貨は希少な古銭で、アダリリスも成人式の時に一枚もらったきりだった。正式な名称は「金貨」だが、特にそう名乗るのは……。
「リヴャンテリのコカトリスです。王家の象徴?」
「そうじゃ。その下位であれ、コカトリスの謎を解いたらどうなるのじゃ?」
「……王家の秘密を知る? ああ――」
「青い目のリヴャンテリのコカトリスの謎を知っておるのは、王族のみじゃ。アダリリス、お前たちの母を含め、火と風と水の魔術を使うものが、コカトリスの謎を知ることができる。二十年後は、パリチチスかお前さんの娘たちが行くことになるじゃろうて」
*
カナイルナイが起きたのは三日後だった。
パリチチスの話では、ファーウ――FAW(火の上級魔術師)は森の一画を吹き飛ばしたらしい。
「全滅ですか?」
「いいえ。また生まれて来るわ。なぜかは知らないけれど」
「……王家の秘密ですか?」
「さあどうかしら」
パリチチスが妖しく微笑んだ。
「……リムリスのコカトリス殺しは? 及第ですか?」
話題を変えた。多くの秘密は知ると消される。そうしたものだ。知るには高い地位にならなければいけないし、知ってしまうとその闇から抜け出せない。そんなものだ。
「え? 他人を心配する元気があるとは、感心感心。リムリスは元からコカトリス殺しよ? 十の時から」
「ああそれで……」
リムリスは、赤い眼鏡を見たことがあると言っていた。
「ところで、この足くっつきますか?」
右足の膝から下がなく、テーブルにそれが置かれていた。
「大丈夫でしょう。リムリスが凍らせたから」
「あなたではなく、リムリスが?」
「ええ。吹き飛ばされるときに最大の水の魔術を使ったから、今は上級魔術を使えているわ。治癒魔術であなたを冷蔵保存させたし」
「そうですか……リムリスは?」
「海よ」
「海?」
「ええ、肉は飽きたので魚を食べたいそうよ」
「はあ……」
「食事なら、Cネックがまだ食堂に残っているわ」
「肉は残ったんですね……」
「私が凍らせたから。もっとも掘り出すのが手間だったけれど」
リムリスは、コカトリスと接敵した瞬間に(麻痺で動けなくなる前に)魔術で自分を風で飛ばしたらしい。
敵の位置が分かったパリチチスがコカトリスとバジリスクの親子を冷凍したが、ファーウの火力で埋もれたそうだ。
「今回の件は、ペナルティとかありますか?」
「いいえ。計算ずくよ」
(組合長……)
「これもですか?」
足を指差した。
五体満足でないと叙爵されない。貴族になってからなら失っても問題ないが。
「海から戻ったらくっつけるそうよ」
「悪い予感がするのですが……」
「前後逆につけたらもう一度斬ってくれるわ」
冗談に聞こえなかった。
*
若い冒険者のカランドリスはファーウの巻き添えで、右腕を飛ばされたらしい。
パリチチスが再生させたが、指のいくつかは動かなかった。
若気の至りと言えばそれまでだが、王都で聖女に診てもらえば問題ないとのことだった。
もっともそのためにコカトリスの赤い目は売らなければならなかったが、父に頭を小突かれただけだった。
少年は大人になり、故郷に帰った。




