25.コカトリス討伐(7)(R)
25.コカトリス討伐(7)
翌朝リムリスが起きると、すでにファーウが顔を洗っていた。タオルで拭くと、青い眼鏡をかけた。
パリチチスは装備を点検している。
まだ眠いらしく目をこするがリムリスに見える訳もない。だが、朝日を頬に感じた。
窓が開いていたが、片目のユックリリナが来ることはなかった。
ブーツを履くと、ベッド脇のテーブルに雑多に脱いだ上着を着た。くるりと回してすっと袖を通した。
ていねいに畳むのもいいが、貴族ではないのだ。冒険者はすぐに支度できなければならない。
朝食は取らずに、そのまま徒歩で〝黒い森〟に入った。馬が石化されると放置しなければならなくなる。
(確かに黒い……)
ファーウがわずかに木漏れ日がある暗い森をそう評した。
常緑針葉樹で、高さは五十メートルはあるだろうか。鬱蒼と繁っていた。
先頭のリムリスが肩の槍に両手を置いていた。無防備にも見えるが、いつでも振り下ろせるし、その前に風の魔術で対処するだろう。両腰には剣があるので、武人としてはかなり厳つい。
ファーウは杖と大きな帽子でいつもと変わらない。
五分もすると、入ってきたところも隠れてしまった。警戒は問題ない。
この森はコカトリス以外にもBクラスやCクラスの怪物や野獣が生息していた。薬草も多いがこの森でなければ取れないというものは少ない。
村の住民の日常はそうした安価な薬草やDクラスの大型獣を狩猟している。ハイクラスの怪物は生物の頂点にあるので、実際の生息数は少ない。旧王宮のように、コカトリスが放し飼いにされていることはない。
草食のコカトリスは森の奥のリヴャンテリ宮殿の中庭と同じ草が生えている場所に生息している。
作戦は簡単に二パターン。ファーウがコカトリスの下半身を焼き、倒れたところをリムリスが首を落とす。または、リムリスの風の魔法で首を落としてからファーウが焼く。
先攻後攻どちらでもファーウは問題なかった。
どちらが先に敵を見つけるかも課題だった。先に見つかって石化は避けたかった。
水音がして前を確かめると、リムリスが樹上から落ちてきた蛭を斬ったらしい。もっともファーウも蟻を焼いている。
パリチチスはその後ろで優雅に浮いていた。
(確かに……)
パリチチスがいないところで、リムリスが「アレ便利そう」と口にしたがファーウも同意した。
あれだけ風の魔術が使えれば何をするにも楽だろう。
二時間ほど歩くと、パリチチスの動きが止まった。
ここから狩り場なのだろう。
リムリスがそれに気づくと、唇を舐めた。ファーウも口中が渇いていた。緊張を自覚しているうちは大丈夫だった。
リムリスが右にゆっくり歩みを進めると、ファーウが左に進んだ。二人とも太陽を背中にしている。
リムリスが風を読んで、風下に移動した。
(囮ですか……)
ファーウは心の中で溜息をつくと、静かに深呼吸した。
次の瞬間、リムリスが後方に飛んでいった。すぐに見えなくなる。
「は?」
(撤退? なに? なんなの? ――チッ!)
思考を中断した。
赤い目をしたコカトリスがこちらを向いていた。
「ああ……」
青い眼鏡越しでも、恐怖に身体が動けなかった。
「こちらが見た段階ではない?」
コカトリスが邪眼で睨んだ瞬間、魔法が発動されるらしい。
「根本的な勘違いをしていた……」
図書館や組合の資料にはそんなことは書かれていなかった。
「やられた……」
コカトリスが翼龍の翼を広げた。
「火焔!」
ファーウが火を放った。容赦なく全身を灰にした――はずだった。
「嘘!」
奥にもう一匹いた。
「火焔! 火焔!」
最大火力でそれも屠った――はずだった。
「卵?」
数十個の卵が孵っていった。
「バジリスク?」
コカトリスの雌のバジリスクは、ファーウ――FAW(火の上級魔術師)の火をものともせず、卵を守り、ファーウの熱で生まれ出たバジリスク同士が食い合っていた。
風上にいたファーウに気づいたらしく、一匹が翼を広げ飛んできた。十数匹が続く。
逃げる。
「鶏でしょうに!」
コカトリスもバジリスクも飛ぶとは書かれていたが、生まれたばかりなのによく飛んできた。
そして、コカトリスとは違い、バジリスクは肉食である。
「ふざけるなあ! 水!」
火の上級魔術師が、最大魔力で水の魔術を起動した。
水の魔術は初級だったが、命の危険からリミッターが切れたらしい。中級魔術だった。
雨のように追っ手のバジリスクに降り注いだ。
高温度になっていたバジリスクが固まって落ちた。
「水! 水流!」
振り返らず何度も水をかけると、バジリスクが動き出した。
「どういう理論で――」
舌を噛んだ。
「火焔!」
もう一度、火の上級魔術をかけたが、それがいけなかった。
水が爆発した。
「――」
ファーウの意識が途絶えた。




