22.コカトリス討伐(4)(R)
22.コカトリス討伐(4)
馬上のファーウ――FAW(火の上級魔術師)の二つ名をもつファーウの索敵は完璧といえた。
昨日、二つ月教会の女司祭トロンファウファから隠形の魔術を教わったからだ。
陽炎の魔術を組み合わせて、ぼんやりしてみる。
確かに存在しているが影はなく、影を追うと実はない。
ただ……。
「どうしたの?」
リムリスの言葉にハッとなったファーウだった。
「今さらながら、自分がボンクラだと気づいたので」
「今さらなんだ……」
気遣っている様子はなく本心からそう思っていると理解できるだけに、よけい落ち込んだ。
リムリスにこの術は効かなかった。
常に本質をみている人間に効くはずもない。
また、ファーウより上位の魔術師なら対抗策をもっていて不思議はない。
自然界にもそうしたことはある。
たとえば、毒蛇の毒は上位のものにしか効果がない。毒蛇より弱いものに毒を使うまでもない。またそれは毒によって進化ができないということでもある。特殊な毒を体内で作るのは危険だし、それよりも体格を大きくしたほうが論理的だが、自然はそうならない。
特に性別が二つ以上あるのは不可解としか言いようがない。種族を保存するなら、子を孕む卵を宿す雌だけで十分だ。何も雄を創造する理由はない。ようよう巡り合った二人が同性ならどうするというのか。ただ、強い雌が雄になる事例もあるので不可解は不可解なのだが……。
(まあ、需要はないですね)
魔術師の世界は、低身長黒髪美少女の供給は多い。あえて、ファーウを選ぶ人間も少ない。
火は嫉妬の代名詞でもある。浮気されたら、相手の女を燃やすことは容易に想像できた。
まま、灰まで燃やしてしまえば完全犯罪だが、まあバレるだろう。
とはいえ、それほどまで自分が好きになる人物がいるとも考えられなかった。
(異世界から来た勇者……)
素直で実直で善人の勇者。
(あ……)
ファーウが顔を真っ赤にした。
自分より賢い悪人がタイプだと気づいたからだ。
それはファイア侯爵の現当主であるファーウの母を男にしたような人物だった。
(まあいないわね)
貴族は弁護士のように例外なく悪人だが、賢い人物は少ない。賢い人物を雇えばいいだけだから。
その点でもファイア侯爵は例外だった。
(あの人、化け物だもん)
しかし……。
お尻が痛かった。
治癒魔術で心を落ち着けた。
内腿の皮は一度めくれただけで傷は残っていない。
常に魔術を発動させていた。
(なるほど)
ファイア侯爵が年齢の割に若い訳が分かった。ずっと発動させているのだろう。
特に内臓は十代のままらしく健啖家だった。
(ダメだ。辿り着く気がしない)
パリチチスもイイ歳のはずだが、見た目は若いままだった。
ファーウの火の魔術である陽炎のなかで、水の魔術で霧をつくっていた。
馬の背がぼんやりしていた。
他の人の魔術と組み合わせる魔術は複雑で、簡単ではなかった。
しかし……。
(リムリス……)
一度見ただけで、リムリスは簡単に真似していた。
ただ、霧が深くて人物が見えなかった。
パリチチスのように、そこにいながら不確かな存在にはなれないのかもしれない。
自己主張が強いのだろう。
ファーウが真似したが、全身を水浸しにしただけだった。
(あ、気持ちイイ)
霧にすることで、太陽光を反射して気温を下げているらしい。
気化熱でやわらいだが、雨を降らせるだけだった。




