20.賭場(R)
20.賭場
小娘が一人百枚だすと言うと、男たちが顔を見合わせた。
リーダーらしき禿頭髭面のオヤジとその相棒がCクラスで、他はDクラスが二名、Fクラスの若者が一名の計五名の「Cクラスパーティ」だった。Cクラスは一つ上のランクのBクラスの依頼を受けることもできる。
「私は二刀流のリムリス。Bクラス。ここに半金おく」
バックパックのサイドポケットから銀貨が飛び出して、二五〇枚キッチリきれいに並べられた。
雑なリムリスにはちょうどいいアイテムだった。
「何が目的だ?」
他の三名が並べられる銀貨に視線を奪われたが、バックパックの魔法を見知っていたリーダーは目的を聞いた。クラスと実力は正比例するが、例外もある。相棒は用心深かった。
(このお嬢ちゃんは俺より上だが、あまちゃんだ。勝てねえ訳はねえ)
そう考えているのも見越してリムリスが口を開いた。
「片目のユックリリナが今夜、私を消しに来る。盾になって欲しい」
骨付き肉を口にした。頬が緩む。美味いらしいが、コカトリスではないだろう。
「片目のユックリリナとは穏やかじゃあねえな」
「ビビッたんなら視界から消えなさいよ」
Dクラスの弓使いの軽口に、そう言うリムリスは目を閉じたままだ。コカトリスを討つまで毒は消えないのだろう。
「Bクラスのアンタなら、一人で戦えばイイ」
Fクラスの坊やだ。
「それにどうしてギルドに依頼しないんです?」
「カランドリス」
名前を言われたカランドリスがリーダーの顔を見て口を閉じた。
「アンタがリムリスってんなら話は通じる。先代(アンタの母親)がアイツを片目にしてくれた日にゃ拍手喝采したもんだ。だからってえ、それでアンタを助ける理由にはならねえ」
「子供の教育かしら?」
食べた骨をガラ入れ――通称「骨壷」にいれた。
カランドリスがリーダーの顔色を見た。
「コカトリスを討てなくても、一度は経験させるのが筋だものね」
初心者の時に石化されれば、一生用心する。意識はあるのに動けないのだ。
助けられるまで、眼球を蟻に齧られ続けたリムリスが笑った。
「コカトリス?」
聞かされていなかったらしい。
「親父……」
「黙ってろ!」
「CD、チクリがいるってことです」
リーダーの相棒=副官だ。冷静な魔術師なのだろう。
「え?」
ギルド内部に内通者がいるのだ。でなければ、リムリスの行動を的確に予測できない。
「誰なんです?」
「ぶっは!」
これには酒場の全員が笑った。
カランドリスは純粋に聞いたのだが、笑われて当然だと理解した瞬間に真っ赤になった。
「アンタ何様なんだ!」
八つ当たりである。
「リムリス様だ。カド坊」
名前の略称は侮蔑に他ならない。
カランドリスが剣の柄を握って立ち上がろうとしたが、さっき投げられた銀貨をリーダーが転がし弾いた。カランドリスの膝にあたり、不様に肉のスープ皿に顔を埋めた。
「うっ!」
まだ熱いらしい。
副官が銀貨を手にした。
交渉成立だった。
*
カランドリスは不平不満タラタラだった。同い年くらいの女の子に軽くあしらわれてしまったのだから、副官のクルンテルミスも理解できなくはない。
ただ、片目のユックリリナが関係しているとなると厄介だった。
親分は宿に帰るとさっさと寝てしまった。
その隣で、クルンテルミスがテーブルに赤黒コウシ柄のクロスを敷いた。
賭場色のクロスは販売されていないが、非公式に個人が日銭を賭けるのなら、賭博は許されている。
クルンテルミスが参加賭け金を銀貨五十枚に設定して「賭場」を開いた。魔術なので、視覚がなくても手で金を確認できる。
邪悪だが、冒険者には必須のアイテムだった。
内容は、三枚のペアを四種類計十二枚、それに前飾りにペア二枚。合計十四枚を揃えるゲームで、まあ麻雀である。
四人ゲームなので、一人あまるがカランドリスは父に似てそれを嫌っていた。
逆に、クルンテルミスはコレに嵌っていた。というか、それで貴族から平民落ちした人物だった。
とはいえ、勝てない御仁もいる。
結果、リムリスは銀貨百枚ほど回収した。
「さてはて」
襲撃を期待したリムリスだったが、夜は静かで朝まで卓を囲んでいた。




