19.コカトリス討伐(3)/〈冒険者ランク〉(R)
19.コカトリス討伐(3)/〈冒険者ランク〉
次の町に着くとリムリスが長槍をつきながら、冒険者組合に殺人未遂犯の遺体を届けた。
バックパックから取り出した十四名は完全に干からびており、人相の判断も危ういが身長や傷痕、装備から人定は簡単になされた。
リムリスはこれまでも犯人の顔をいちいち覚えていないが、組合に犯罪者履歴が残っている。
「ユックリリナ?」
「はい。片目のユックリリナの配下です」
冒険者組合の受付嬢は例外なく巨乳の美女なのは、組合長の方針らしい。荒くれ者をいいように扱う術だろう。
冒険者組合は王国政府の外郭団体なので、職員は王国政府の職員と同等の待遇となっている。そのため、上級職員のほとんどが貴族の第三子か第四子だ。第二子であってもおそらく庶子で、この受付嬢も地方の貧乏男爵の第七子だ。
王国に対しての人質とも考えられなくはないが、冒険者組合の本質は軍事組織だ。いざとなれば、職員といえど前線で指揮を取る必要があった。そのため人質は初期の建前で、現在では名誉となっている。
冒険者組合の職員は五年を過ぎれば王国軍の職員になることもできるし、十年を過ぎれば地方の王国軍を任せてもらえる。どちらにせよこの時代、軍事面での管理能力が第一だった。
なお、貴族の子女の職員がモテるかというとそうでもない。子爵・男爵はCクラスなので、その子女の魔術の実力は一つ下のDクラスとなり、これは平民の最高ランクだ。準男爵や騎士(一等)がそれにあたる。
DクラスはSABCDEF七クラスの下から三番目だが、王国軍でいえば歴戦の下士官といったところか。三年は生き残った者と考えていい。王国軍の志願兵が満期三年名誉除隊となれば、冒険者組合にDクラスとして登録できる。一番下のFクラスが駆け出し冒険者だとすると、Eクラスは中堅の兵長にあたる。D三割、E三割、F三割というようにこの三クラスで全体の九割を占める。Fクラスが異様に少ないのは、適性もあるが、それだけ冒険者が危険な職業であるためだ。
残り一割のCクラス以上の冒険者は士官クラス=貴族階級だ。貴族の子女はDクラスで採用され、一年半後にCクラスに無試験で昇任する。もっともまともな貴族であれば子女を王国軍に入隊させるので、冒険者組合に加入しているのは厄介者と相場は決まっていた。陪臣の第三子や側室の第二子などは、爵位を諦め平民として生きる者も少なくない。
職員の貴族の子女は生まれが不遇な文官であるのに対して、冒険者となった貴族の子女は何かミスをして追われた武官という二分類になる。水と油のようだが、しょせん貴族なので表立って対立することはない。それぞれの派閥があるので、問題になれば家名に泥を塗ることになってしまう。
冒険者の貴族の子女は脛に疵持つ身なので、大事になれば貴族籍を奪われ平民になるか、有罪となれば奴隷落ちする。名誉職である貴族が落ちるのは、平民より早い。
逆に、冒険者の貴族の子女がBクラスになれば、一代だが男爵になることができる。正式に叙爵となれば、いずれかの貴族の第一子と婚姻して子供にその爵位を与えることもできた。
庶民はそうした煩わしさはない。実質的な最高ランクはBクラスであり、それ以上のAクラスは名誉職で、リムリスの祖母や母のように外郭団体で働かなければならない。
なお、冒険者のランクに貴族の階級を無理にあてはめると次のようになる。
〈冒険者ランク〉
・S――国王/大公←存在しない。
・A――王族公爵・臣民公爵←名誉職(政府関係者)
・B――侯爵/辺境伯・伯爵
・C――子爵/男爵
↑貴族 ↓平民
・D――準男爵/騎士(一等)
・E――二等騎士・三等騎士・四等騎士・五等騎士
・F――爵位なにそれ?
一般的に騎士といえば、Dクラスをいう。Eクラスの騎士は必ず等級を言わなければならない。
「片目のユックリリナ?」
「はいそうです。年齢は三十六歳。燃えるような赤い髪と雪のような白い髪の妖艶な女です」
(赤い髪……)
「前は赫髪のユックリリナと呼ばれていましたが、片目を抉られたときに半分髪が白くなったそうです」
「どうしてそんな女が私に?」
「抉ったのは前のリムリス――ナリスクリスさんです」
「母……。始末しときなさいよ。――というかそれって」
「逆恨みですね」
「本人を殺ればいいのに」
「さすがに聖女さまの従女を殺すことはできませんからね」
王宮の奥の奥にいる。侵入するのはほぼ不可能に近い。
「……遠征の折に暗殺とか」
「ナリスクリスさんに片腕落とされています。魔法具の義眼と義手をしているそうです」
「情報ダダ漏れですよね?」
「宣伝もあるのでしょう。王都近くの盗賊はほぼすべて片目のユックリリナの手下です」
「あの……」
「コクマスタヤカンです」
受付嬢が名乗った。
「この町でも襲撃はあるのかしら? ヤカンはどう思う?」
「コクマ=スタヤ=カンです。コクマかスタヤと呼んでください」
「名前覚えるの苦手……」
「……あるでしょうね。警備はしていますが、忍び込むのが生業ですから」
名前の件を無視されたことを無視して、回答した。冒険者に一般常識は通じない。
「こういう時、組合って対策あまいわよね?」
「警備を依頼されますか?」
営業スマイルでコクマスタヤカンが確かめた。
「冗談でしょ?」
Bクラスの正式認証試験中にそれはない。
片目のユックリリナの捕縛も、組合長が課した裏メニューにあるのだろう。
「賞金は?」
「生死を問わず金貨六枚分の銀貨です」
銀貨六百枚だ。
「少なくない?」
「そうですね」
(『王都近くの盗賊はほぼすべて片目のユックリリナの手下です』――つまり……)
「誰かが使役している?」
「さあどうでしょう」
この件はこれで終わりだった。
コクマスタヤカンが銀貨七百枚を並べた。殺人未遂犯人の賞金だ。装備は一人五十枚に含まれているので端数はない。
手で重さを計算しながら、リムリスがバックパックに入れた。収納魔法なので、重さは感じない。
リムリスが長槍をつくと、酒場の冒険者が数人見たがすぐに酒宴に戻った。
その男たちの席に着くと、手首をひねってフォークを出した。
勝手に食べる。
「おい……」
「てめえ……」
「私は気にしない」
銀貨を一枚投げた。地元の人間が食べているのだ。毒はない。
「喧嘩売ってんのか」
「ゲームをしましょう。一晩中起きていられたら銀貨百枚あげる」
金貨一枚と同じ金額だ。三か月は遊んで暮らせる。
「ふざけてんのか?」
リーダーらしき男がリムリスの手首を押さえるが、指から血が滲んだ。放す。小さい傷が無数にあった。
「一人百枚。返事は?」
小娘が何かの魔術を使ったのは明白だった。
今夜はパリチチスもファーウもいない。盾になる人間が必要だった。




