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異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第1章 兵站(ロジスティクス)限界
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2.兵站(ロジスティクス)(R)


2.兵站ロジスティクス


 異世界で、昔鳥カササギが最初に出会ったのがヴィヴだった。


 転移の影響で倒れた昔鳥を交代で看病していたが、真面目にしていたのはヴィヴの他はカナイルナイだけで、メリアは顔に落書きをしてはずされ、リムリスは近づこうともしなかった。


 目覚めた昔鳥に、上月コウヅキが頭を下げて「教えてくれ」と頼んだのが、戦略論だった。上月自身はヤンチャな高校生だったが、魔王攻略を真剣に考えていた。


 アルバイトに頼まれた若い社会人のような関係で、二人で深く考察して今のチームがあった。昔鳥自身は表に出ることを嫌ったが、いかんせん人数が足りなかった。


 メリアに無理を言って、同郷のクリーアンを呼び寄せたのは昔鳥だ。


   *


 最終的な戦闘の前に周到な戦略があって然るべきで、その基礎が兵站へいたんだった。


 魔王軍の兵糧を奪いその地の民に還元し、武器庫を奪い民衆を蜂起させる。


 数人のチームで魔王を倒せるのは夢物語だ。倒せるとしてもどうやって近づくのか。


 国王以下、宮廷魔術師たちを納得させて始めたはずだったが、昔鳥の戦略は地味だった。


 静かに奪い、その地を解放する。


 魔物によって蹂躙された人を解放する絵は何枚も描かれたが、実際の討伐は少なくドラマ性はなかった。


   *


 実はあったが花がない戦略だった。勇者召喚に異を唱える派閥が力を増していた。


 そこは政治なので、無理にダンジョンを攻略しなければならないこともあった。


 戦略的に無意味でも、対外的な(政治的)価値が優先されることもある。


 こうしたことは全体の戦略に悪影響になる。


 昔鳥が政治的に何が必要か聞いて、それを着実に実行するに従って、要求は肥大化していった。


   *


 もう一つの懸念は、上月の性格だった。実直だったが下積みをとかく嫌った。生き残って欲しい昔鳥が一番最初に学ぶよう頼んだのが「逃げ方」だった。〈とん〉のような個人が逃げるのではなく、全体の戦略的撤退をまず覚えてもらった。


 第一印象が悪かったのだろう。上月はそれらから逃げるように攻撃に特化していった。


   *


 王国随一の才をもつ宰相からも苦言があった。とかく兵站ロジスティクスに金がかり過ぎなのだ。以前の三倍から五倍の費用に召喚側も動揺し始めた。


 古典的な「兵は使い捨て」という基本的思考から進歩しなかった。


 兵の損耗率はきわめて低くそのため生き残った兵の分まで用意する必要があった。回復系の魔術師は少なく、育成するにも対価が高く、多くは王族の子女で戦地におもむかせることも困難だった。


 市井の回復系魔術師も前線に行きたがらない。


 だからこそ、敵の兵站線を切りつつ、前線と後方支援の距離を広げる必要があるのだが、誰もが頭で理解していても実行は伴わなかった。


   *


 加えて、魔王国と国境を接していない国からも攻撃されていた。


 帝国は、後方から王国を叩き弱体化させるも、王国を滅ぼして自ら前線になろうとする意思はなかった。


 昔鳥の提案で、帝国は一時的に停戦に応じていたが、それもいつまでか分からない。昔鳥の戦略を参考にしているのだろう。


   *


 昨夕も隠密に街道を進む予定が、夜盗を見つけたメリアが勝手に先制攻撃を仕掛けてしまった。


   *


 昔鳥が止めるがメリアが振り切った。


「死ね!」


 悪党を見過ごすことができない正義の人メリアが頭にきたのか、殺気を押し止めず矢を放った。


 細身だが剛腕らしく、盗賊の頭を二つ三つ貫いていく。


 始めてしまっては、仕方ない。


 昔鳥の合図でクリーアンが盗人の足下の土を泥に変え、カナイルナイの火が悪人の持つ武器を熱した。


「メリア! 左、逃げる!」


 昔鳥が知らせた。


 悪党のかしらはその時点で走っていた。機微を見るのにさとい。


 リムリスの左右の両剣が首を落とし、上月の両手剣によって胴が半分になった。


 上月が昔鳥を睨んだ。


「指示が遅い!」


 叫んだメリアは一瞬迷うが、リムリスと上月の援護に回った。


(辞めよう。もう無理だ)


 昔鳥が決断した。


   *


 戦闘が始まると、ヴィヴァンディエールのヴィヴは馬車を止め、収納魔術で取り出したものを整理していた。


 水、食料、武器。いろいろある。敵地で略奪したものを馬車に積み直しているのだ。あとは友軍に渡すだけで済む。


 種類毎に数値を羊皮紙に書き込んでいく。


 敵地で行わなかったのは、すぐに撤退すべきだったからだ。何があるか分からない敵地に長居するバカはいない。


 移動中にできなくもなかったが、先ほどまで人が乗っていた。


 日も暮れた。ここで野営になるだろう。


 本来なら隣村で休める距離だったが致し方ない。


 後ろから近づく音がした。


 ヴィヴが前に転ける真似をして、その反動で腰の剣を抜いて後ろに突き刺した。


 剣を九十度(ひね)る。うめき声。


 倒れる。


 盗賊の一人が抜け駆けしたらしい。


 首を落とす。グールになられてはかなわない。


 周囲に人影はない。


 ていねいに血を拭き、剣を腰に戻した。


 酒保商人ヴィヴァンディエールは戦闘に参加しないが、戦えない訳ではない。ヴィヴの剣は、剣士のリムリスには及ばないとしても皆伝している。良家の子女のたしなみだ。


 首の隷紋に触れるとザラつきがある。


 空を見上げると二つ月の一番目の一つ月が出ていた。夜中には二つ月も出るだろう。



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