17.コカトリス討伐(1)(R)
17.コカトリス討伐(1)
組合長に「ファーウ」と呼ばれたカナイルナイが「はい」と返事をした。
「お前さんの正式な二つ名じゃよ。それにしても平凡だねえ」
同じ名前がないか組合長が最終確認していたのだ。王国では同じ二つ名は使えない。例外として血縁関係にある場合は認められる。屋号のようなものだろう。
ファーウはFAW(火の上級魔術師)の頭文字だ。
「私を見習えばいいのに」
リムリスが自分の二つ名〝LymLyss〟を自画自賛した。〝Ly〟は音のみで意味はなく、後半の〝m-ss〟が〝Master of the Swords〟を意味する。リムリスは「剣聖」(Master of the Sword)なので間違いではない。
ただ、そこに悟りがなく、そしてリムリスに「悪」は理解できない。
祖母の組合長は、才はあるがそれに至ることができない孫を憂えていた。
「ファーウ、奥においでな」
「はい」
「お前さんもじゃよ、リムリス」
「はーい、組合長」
応接室に入ると、組合長が風の魔術で静寂の呪文を唱えた。
もともと静寂の術式は起動しているが、それとは別に職員にも聞かせたくないのだろう。
「二人ともお座り」
上座のソファーに座らせると、組合長が懐から真新しい羊皮紙を出した。
依頼書だ。「コカトリス討伐」とある。
「コカトリスってあのコカトリス?」
リムリスが声を上げたが、組合長の一睨みで大人しくなった。
「そういうことですか……」
ファーウが理解した。
「何よ、説明して」
ファーウが組合長の顔を見た。
「まあ先に、冷たいものでも飲むがいいじゃろ」
奥の組合長の部屋のドアから、アダリリスに似た年上の女性がやってきた。姉のパリチチスだ。アダリリスより大きな胸を揺らしながら、トレイから飲み物を置いた。微細な細工が美しい銀のグラスだった。汗をかいている。パリチチスは氷の魔術が使えるらしい。
組合長はいつもの白い乳酸飲料。
リムリスには青く透明な炭酸水。
ファーウは貴族らしく紅茶。
「どうぞ」
組合長の合図で、リムリスが一気に飲んだ。
「お代わりはいりますか?」
「お願い」
リムリスがグラスをパリチチスに手渡した。
「いただきます」
二つ月の祈りを終えたファーウがアイスティーを飲んだ。
知っている味だった。
「コカトリスについて、どれだけ知っておるのかえ?」
パリチチスが下がると、組合長が二人に質問した。
「私が知っているのは雄鳥の頭と爪、ドラゴンの胴と翼、蛇の尾の怪獣ってことだけ」
複数の生物が合体したいわゆるキメラだ。
「大きさはどれくらいだえ?」
「こんなくらい」
「うぐっ」
リムリスが両手を広げた。ファーウが吹き出しそうになった。
「なによ、ファーウ」
「いえなんでもないです」
「じゃああなた言ってみなさいよ」
「体長は二メートルほど、ドラゴンの翼を広げると六メートル以上あるかと」
「他には何かあるかのお?」
「毒を吐きます」
「私勝てるじゃん」
パリチチスが持ってきたグラスを片手にリムリスが勝利宣言をした。
「邪眼で人を石にすることができます」
「無理じゃん」
リムリスが飲み干した。
「石といっても強力な麻痺ですが。……あと草食です」
組合長の横に座ったパリチチスが説明した。
「あんがいかわいい?」
依頼書の絵は華奢だった。
「アレ?」
リムリスにはコカトリスが二重に見えた。目をこする。
「ユタリナの南方の黒い森にコカトリスが生息しています」
パリチチスが依頼書の一文を指差し説明した。
「存じています」
「討伐の季節じゃて、一つ狩ってきておくれな」
組合長の言い方はやさしいが、命令だった。
「邪眼にどう対処しろっていうのよ?」
片目を瞑るリムリスが反論した。
「邪眼は強力ですが、対抗手段があります。コカトリスはBクラスですから、Bクラスのあなたがた二人なら問題ありません」
「何をした!」
リムリスが目を押さえて立った。見えないらしい。
「見なければ、ただの大きな鶏です。特に頚部の肉はCネック――コカトリスセセリとして大変貴重な部位です。とても美味です」
パリチチスが唾を飲み込んだ。
「見ずにどうやって戦えというのよ!」
「リムリス。あなたは目が良過ぎるの。視力だけに頼っていては、いつか死角から殺される。全身の知覚を研ぎ澄ましなさい」
「……ふう」
納得はしていないが、従わざるを得なかった。
「……あの青い眼鏡は対コカトリス用なのか……?」
冷静になったリムリスが、誰とはなく聞いた。




