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異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第3章 火の上級魔術師と二刀流の剣聖
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15.討伐(3)(R)

15.討伐(3)


 翌日、三回目。カナイルナイは一人で水蛇を討伐したかったがリムリスのようにはいかなかった。


(確かに銀貨九十枚分の価値はあるわね)


 倒せないのだ。頭を九つ同時に倒さないと、落とした首からまた二つ首が増えてしまって、収集がつかなくなってしまう。


「手伝う?」


「お願い」


 カナイルナイの火力なら余裕で水蛇を消し炭にできるが、浄化装置としての水蛇だけに殺さないように厳重に注意されていた。首をすべて落とせば、水蛇が生まれ変わりまた浄化してくれる。


 増え過ぎた頭を隣の大きな頭が食べて、九つに戻った瞬間、教官役のリムリスが目を串刺しにした。


 報酬の銀貨は案分するとして、頭の分はまたタダ働きになった。


   *


 カナイルナイが考察した。


(火ではなく他の魔術を使えば?)


 首を凍らせて一度に九つの頭を斬ることは可能だが、カナイルナイが持っているのは護身用のナイフで、それに魔術をかけてもすべてを一度に斬ることは技量的に不可能だった。確実に落とせる数は一つか二つだろう。


 風の魔術で斬るとしても高等技術が必要で、カナイルナイも使えなくはないがレベルが低過ぎて空を舞うこともできない。とても足りなかった。


(小手先では無意味だ)


 結論は出た。


   *


 昼からの四回目。火の魔術で頭を一つ一つ焼き落とした。


 正攻法だ。


「なるほど」


 冒険者組合(ギルド)の手順書には、まず水蛇の首を一つ斬り落とし、首が再生する前に傷口を焼く方法が書かれていた。焼くと二度と生えてこなかった。


 最後に残った大きな一つ頭を魔法のナイフで落とすと、水蛇の身体が水に沈んで行った。


 最後の傷口を焼いてはいけない。水蛇が再生できなくなってしまう。


 小魚がいるらしく、死体をついばんでいた。


 リムリスはそんなことにまったく関心がなかった。


(このには罪がないんだ……)


 初めての買取だったが水蛇のペロペロ舌(本当にこの名称)だけで銀貨一枚になった。血抜きを同じ額でリムリスに頼んだのでプラスマイナスゼロだったが……。ただ、両目が銀貨十枚で、上下左右の四牙で銀貨五枚だった。


(どうしてリムリスは目を刺すのかしら?)


「最後に残ったヤツの目だけが高いのよ」


 察したリムリスが聞かれる前に答えた。


「再生させないためには一つずつ首を落としてその部分を焼くしかないんだけど、手間だから」


 落とした首はすぐに劣化するので、九つ同時に刺して牙の銀貨四十五枚を得るほうが、最後の一つ首で十六枚より多いという計算だった。


 午後も頑張ろうかと思っていたカナイルナイだったが、依頼は月に四件しかなかった。


   *


 組合ギルドに戻るとアダリリスが手招きしていた。


 カナイルナイが自分の顔に指を差すと、うなずいた。


「ナイル侯爵閣下から、贈答品が届いています」


「違う」


「えっ?」


「ああごめんなさい、アダリリスさん。ファイア卿(ロード・ファイア)が正しいんです。ナイルは家の名前で、爵位がファイアなので。爵位名 + 卿(ロード + 爵位名)です」


「ありがとうございます」


「それと、おおやけ公爵だけが閣下デュークです。呼びかけるときは閣下ユア・グレース。――会うことはあっても声をかけることはまずありません」


 そうろう侯爵・伯爵・子爵・男爵は「マイ・ロード」で、それ以下の準男爵・騎士は「サー」と呼びかける。


「申し訳ありませんでした」


「いいですよ。本人は気にしていないでしょうから。……にしても、母上から? 今日は何もまだヘマをしていませんよ?」


 水蛇の依頼を受けたのがマズかったかと考えたが、正式な依頼で(最終的には)手順にも従っていた。冒険者組合(ギルド)は王国政府の外郭がいかく団体なので、他の貴族が事業の内容をどうこう言える立場にない。もし冗談でも言ったなら、管理している貴族の顔に泥を塗る行為なので、まず間違いなく恨まれるし、機会(隙)があれば暗殺される。


(あっ!)


 カナイルナイが思い至った。


(とすると、あの借金は……)


 金貨二十枚は、ファイア卿(ロード・ファイア)から冒険者組合(ギルド)に「不肖な娘ですが何卒なにとぞよろしくお願い致します」という(非公式な)〝御挨拶〟兼〝先払い迷惑料〟ということになる。


(私がトンデモないミスをしたら〝先払い迷惑料〟で口封じ(暗殺)でしょうね)


「こちらです」


 紫檀したん製の細長い箱だった。凝った装飾に、ファイア侯爵家の紋章が中央にある。


「……(懐かしい)」


 手に取ると、母の残りのこりががあった。愛用品らしい。


「呪いの箱とか?」


 冗談だ。


「解呪の依頼は銀貨十枚からです」


 アダリリスが営業スマイルで返し、金額が書かれた紙を見せた。


 高級用紙に一覧表が書かれていた。


 簡単なものなら組合ギルドの上級職員でもできるが、強力な魔法は二つ月教会の聖職者でないと不可能だった。組合ギルドから紹介してもらえるが、そのぶん紹介料もかる。その金額がそのまま組合ギルドの寄付となる。世界は回っている。


「いいえ。大丈夫です」


 もしその呪いが〝祝福〟の魔法だったなら、それも消してしまう可能性もある。ファイア侯爵家の宝物ほうもつの一つに違いないものを、おいそれと他者に委ねることはできなかった。


「では、受領証を発行しますので、手を。はい、いいですか?」


「はい」


 納品書と書かれた紙が上下二枚に分かれ、上の納品書に「受領」マークが描かれた。


「それ、なんの箱?」


 リムリスがさわろうとしたが、カナイルナイがあわてて拒絶した。顔が真っ青だ。


「リムリス。燃えますよ? れるだけで。開けようとする意思を感知する魔法が施されています」


 リムリスがそれでも指を伸ばすけれど、アダリリスの手が邪魔をした。


「燃え落ちますよ? 手首ごと。――『なんじあるじにあらざればあたわざるなりなおほっほのおわざわいあらん』」


 アダリリスが読み上げたとおり、納品書の説明書きにそう書かれていた。


流石さすがは名門ファイア侯爵家。火の魔術師(ファイアウィザード)伊達だてではないですね」


ファイア卿(ロード・ファイア)から娘への贈り物……」


 リムリスの目が早く開けろと言っていた。


「本当は一人きりのとき開けたいのですが……あっ!」


 カナイルナイが手をかざすと、針のように細い炎が親指の腹を刺した。


 痛みはない。一滴だけ血を残し、傷はすぐに再生されいやされた。


 金属音がして、箱が開いた。



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