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異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第3章 火の上級魔術師と二刀流の剣聖
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14.討伐(2)/〈王国の貨幣〉(R)

14.討伐(2)/〈王国の貨幣〉


 地下道の出口で顔を真っ赤にしたカナイルナイを見て、兵士たちがニヤニヤしていた。


(何という羞恥プレイ!)


 いつもならしばくところだが、今日はそんな気になれなかった。


 リムリスは上機嫌だった。


 最近は匂いを覚えられたらしく不漁だったらしい。


(だからって冒険者初日にコレって――ハッ! しまったー!)


 一生言われ続けられるに決まっていた。


   *


 アダリリスは営業スマイルで応対してくれた。


「銀貨九十枚です」


 三分の一の費用なら納得がいく。


「はい」


 まず三十枚を皮袋に入れたリムリスが借用書を返した。


 残りを二分した。


「ふう……」


「え?」


 カナイルナイが借用書を無詠唱で燃やすと、手を差し出していたアダリリスがあわてて引っ込めた。


「何ですか?」


「契約を解除しないと……」


「え?」


 リムリスが死ぬほど笑っていた。


   *


 借用書の再発行手数料は白銅貨二十五枚たす税金二割白銅貨五枚の計白銅貨三十枚だった。


 そのあいだリムリスが水蛇の頭の査定を待っていた。高額買取されるらしい。これはすべてリムリスの取り分だった。討伐していないのでカナイルナイの報酬はない。


 シビアだが、命をかてにしているだけ現実主義で妥協できないのだろう。


(腕は確かね)


 それにしても見事に九頭とも水蛇の目を刺していた。高額なのも理解できた。断面も鋭利なので血抜きも不用だった。


 リムリスは水を操れるらしく、服の汚れはそのまま落ちていた。


 問題はカナイルナイだった。


 ボロボロでとても侯爵令嬢には見えなかった。


「夜にもう一度行くわよ」


「いいわよ」


 カナイルナイの宣言にリムリスが同意した。


 日をまたぐと金利が付く。一日一割、銀貨五枚だった。


 翌日からカナイルナイの名を知らない冒険者はいなかった。もっとも「花摘み娘」という不名誉な名前だったが。


   *


 リムリスの紹介で、カナイルナイ侯爵令嬢のフリルのスカートは(リムリスに銀貨一枚で洗ってもらって)高値で買い取ってもらった。ジャケットと上下セットの着替え十二着分で金貨一枚(銀貨百枚)の価値があった。


 同じ店で、ナイル家のカラーに似たあたたかいオレンジ色の町娘の服を購入した。ただし、魔術師だけに、杖と大きな帽子は譲れなかった。


 価値を知らないとは恐ろしいことであると実感したカナイルナイだった。たぶん購入価格は金貨十枚以上したに違いない。


 基本的に貴族は現金を持たない。すべてが信用取引で魔術のサインで事足りる。借用書にしたところで同じことだった。


 組合ギルドで信用を裏付けしてもらうと、記録が残る。それを解除しないといけないことなどカナイルナイが知っているはずかない。


 リムリスは知ってやっているが、騙されるほうが悪いのだ。


「勉強になりました」


 アダリリスに紹介してもらったマシな宿につくと、ぐっすり眠ってしまった。


   *


 リムリスとは気が合ったカナイルナイだが、二度と組むことはないと考えていた。


 しかし、翌朝組合(ギルド)に行くと開口一番挨拶もなし聞かれたのだ。「勇者召喚の噂は本当なの?」と。


「勇者? どうして?」


 勇者は知っている。召喚魔術も履修している。


「知らないから聞いたんだけど?」


「それはそうか……」


「カナイルナイさん」


 アダリリスが無表情に手招きしていた。


「はい、何でしょう?」


「ファイア侯爵家から書状が届いております」


「実家から? 何だろう? 転職祝いとか?」


 悪い予感しかしない。


「応接室を用意しましょうか?」


「お願いします。価格は?」


「内容によります」


「はあそうですか」


 応接室に入ると、アダリリスが書状をテーブルに置いた。備え付けの端末が横にある。


 封蝋を割る。


「詰問状……」


「応じますか?」


「はい……」


 拒否したら大変なことになるに違いない。


「では、手をこちらに」


 片手を端末の板に乗せた。冷たい。


「カナイルナイ本人ですか? はい」


 自分で読み上げると、一方の端末に置かれた詰問状の紙に「はい」と書かれていく。


「衣服を盗まれましたか? いいえ。――盗難?」


「集中してください。誤動作します」


「すみません。――衣服を売りましたか? はい」


 そのあと「売った店はどこか」とか「いくらで売ったのか」などに答えた。


「え?」


 空白のページに文言が浮かび上がった。


「詰問の答えですね。――『カナイルナイ名義の借財金貨二十枚を冒険者組合(ギルド)に売却する。なお、年一割の利率で返すこと。以上』」


「はあ?」


「あっ!」


 立ち上がろうとしたカナイルナイの手を、アダリリスがしっかり押さえた。


「カナイルナイさん、服……」


「売りましたよ。でもどうして実家に……あっ! 売ると不名誉になるから買い戻したあ?」


 カナイルナイが自問自答した。


 噂になってはいけないとわざわざ届けてくれた店に、侯爵側が口止め料ぶん倍額上乗せして払ったのだろう。


 今から考えれば、あの「あたたかいオレンジ色の衣服」は誰が見てもファイア侯爵のカラーだった。あの服を庶民が着るだけで、侮辱罪で投獄されてもおかしくない。


(母上、カナイルナイは、まだまだ勉強が足りておりませんでした……)


 詰問状の文字が二重線で消されて、借用書に変わっていた。


「ねね年にきき金貨二枚……」


 アダリリスに「もういいですよ」と言われ、カナイルナイが手をはなして財布を取り出した。


「それですと元金は減りませんよ」


「とととりあえず、ここ今月ぶんの銀貨十七枚を」


 震える手で、テーブルに置いた。


「月の最低支払いが銀貨二十枚です。元金銀貨三枚、利息銀貨十七枚となります」


「ぐひょ」


 カナイルナイが壊れた。


「残り五年六か月よろしくお願いいたします」


 応接室の使用料は取引金額の五%金貨一枚だった。


〈王国の貨幣〉(おおよその通貨換算)

  金貨    一枚(一枚@一〇〇万円)

 =銀貨  一〇〇枚(一枚@一万円)

 =小銀貨 二〇〇枚(一枚@五千円)

 =大白銅貨  千枚(一枚@千円)

 =白銅貨  一万枚(一枚@百円)

 =青銅貨  十万枚(一枚@十円)

※金貨(一〇〇万円)は基本的に流通しておらず、商人か貴族の屋敷にしかない。

 大青銅貨(五百円)と穴あき青銅貨(五十円)と小青銅貨(一円)は登場しない。


〈考察〉

 冒険者登録料が銀貨三十枚(日本円で約三十万円)と高いのは、冒険者組合(ギルド)が犯罪者の隠れみのにならないためだ。元犯罪者の場合、それだけ用意できる身元保証人がいるという証でもある。

 カナイルナイの衣服が金貨十枚(日本円で約一千万円)が高いと考えられなくもないが、十二着分なので、一着八十三万円とすれば貴族の衣服としてはかなり安い。たぶん一着百万円で追加二着をサービスで購入したのだろう。



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