表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界兵站(ロジスティクス)株式会社  作者: 門松一里
第3章 火の上級魔術師と二刀流の剣聖
10/66

10.召喚前(1)(R)

10.召喚前(1)


 火の魔術師ウィザードカナイルナイの将来は司るそのほのおの輝きのように約束されたものだった。


 ヴィヴ――〝名前を消された元王女〟と出会うまでは。


 カナイルナイは火の魔術師の名門ファイア侯爵ナイル家の庶子だったが、才能があり努力も惜しまなかったことから十三歳で高等教育を終え、火の魔術師と認められ宮廷魔術師の一人となっていた。


 特に聖女の光魔法との相性はよく、個人的にも親しくしていた。


 下町にある聖女の私財でつくられた孤児院の帰り、宮廷魔術師カクマリクマの使いで下町の(偏屈な)薬師くすしに荷を届けたあと〝名前を消された元王女〟とばったり会ってしまったのだ。


 二人とも気配を消していたので、お互い気づかずにぶつかってしまった。


「レディ――」


「――カナイルナイイ。あなたは何も見なかったあ。いいわねえ」


「はい」


 しかし、見てしまった。〝名前を消された元王女〟が落としたバッグにあったのは、禁制の麻薬だった。


「アタシにも会わなかったあ。いいわねえ、カナイルナイイ」


「はい……でもレディ」


「アタシは〝レディ〟ではないわあ」


 言い終わると〝名前を消された元王女〟の身体が霧に包まれ消えてしまった。


「水と火の魔法……」


 双方とも気づかなかったことから、カナイルナイの魔力と〝名前を消された元王女〟は同じていどなのだろう。


 しかし、それは単純な魔力量であって、魔術によってつくられた人工のアートと違い、ローである魔法の自然さには遠く及ばない。力や量ではなく、純粋な質が違う。


 王宮に戻るも夕餉ゆうげをほとんど残し、そのまま自室で眠ってしまった。


 翌朝カクマリクマから呼び出されたときは、てっきり〝名前を消された元王女〟のことを詰問されたと勘違いしてしまった。


 宮廷魔術師はいわば国家公務員だ。業務上、罪があれば告発する義務(※)がある。


※刑事訴訟法第二三九条第二項「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」


「カクマリクマさま。あの薬師くすしへのお届けは公務だったのでしょうか」


 カナイルナイが慎重に聞いた。公務であれば告発する義務があるが、上司の私用なら知らなかったことにできる。特定の誰かと会っていないし、特定の何かも見ていない。


「何があったのかしら?」


 カクマリクマが訊ねた。


「……」


 宮廷魔術師はその誓約から嘘をくことができない。「分かりません」「知りませんでした」「記憶にありません」は嘘になってしまう。黙秘するしかない。


 カナイルナイは口を開かなかった。即時更迭(こうてつ)された。


 勇者の召喚に際して、才能あるカナイルナイを使うことを提案したのはカクマリクマだ。もちろんそれには、死んでもしくはないという意味も含まれていた。


   *


〝名前を消された元王女〟が唇をんだ。


(カナイルナイに見られるとはあ……)


 誤算だった。麻薬は適切に使えば治療薬になる。目的は実父の治療だったが、それも言えない。母は子爵であり、父とはもう別れている他人なのだ。子爵の子女が平民となった父を看病することはできない。ひとり前の使用人に頼んでいるが、母の目もある。


(だからこそお、身を隠しい、偽りい、どうにか看病していたというのにい)


 父はもう長くない。聖女の力をもってしても苦痛を取り除くことは不可能だった。


 聖女の庇護下にあった子爵家の第一子の〝名前を消された元王女〟だったが、宮廷魔術師の捜査から罪は露見した。


 非公開の法廷で爵位継承権を剥奪され平民降下となり、その身は宮廷魔術師の預かりとなった。投獄するか、市井しせいにはなす案もあったが却下され、王宮で軟禁となった。


 理由はたった一つ。その子爵家が旧リヴャンテリ王家の直系だからだ。旧王家の宮殿の中庭には今もコカトリスという怪獣が放し飼いになっている。その奥にある秘宝はそのままで。


 そのリヴャンテリのコカトリスを操れるのは、王家の血筋ブルーブラッドで才のあるヴィヴしかいなかった。


 子爵の子女のうちの誰か、またはヴィヴの子か孫の誰かがその資質を継いだら、ヴィヴは抹消されるだろう。


 ヴィヴいわく「飼い殺しはなれているう」らしい。王侯貴族ほどいろいろな制約がある。強く守られていればいるほど、その身は窮屈になる。


 堅牢な城にすれば、快適に過ごせない。開放的な城にすれば、身に危険が及ぶ。


 勇者の召喚の前に、聖女がヴィヴを祝福した。


 ヴィヴは停戦派のスパイとなった。


   *


 召喚術式のために集められた人たちの中にヴィヴの姿を見たカナイルナイが、杖を片手に走ってきた。大きな帽子が揺れる。


「レディ」


「カナイルナイイ……アタシは今もかつても〝レディ〟ではないわあ」


 公爵・侯爵・伯爵の娘だけが「レディ」と呼ばれる。子爵・男爵・一代貴族の娘は「オナラブル」が正しい。旧王族の娘だったので慣例で「レディ」と呼ばれていたが、それを嫌っていた。名称を取り繕っても、子爵の娘に違いない。


「でもわたしのせいで……」


「なにのことかしらあ?」


 カナイルナイが話していないことは聖女から聞いていた。


「カナイルナイイ……二度と言わないでねえ。アタシのことはヴィヴとお」


「はい……ヴィヴ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ