婚約間近で殺された令嬢は幽霊になっても待ち侘びる
私はその日、学園で奇妙な噂を耳にし、相談を受けていました。
その噂とは、
「墓場で幽霊ですか」
「そうなんです。私の友達も見たらしくて、解決してくれませんか」
紅茶を一口。
今日のは少し酸味がありますね。
「いいですか。私はあくまで、探偵であって、心霊調査は専門外です。他をあたってください」
「そうですか……」
依頼主の女生徒は落胆して、肩を落とします。
しかし流石の私でも力にはなってあげられません。
面白そうではありますが・・・と、紅茶を飲みながら考えていると、
「その噂。私も聞いたことがあります」
「サライナもですか?」
「はい。ですが、人為的に行われている可能性もあるとかで……」
「なるほど」
私は少し悩みました。
そこで、今一度女生徒の顔色を窺うと、気分が悪そうですね。青白いです。
「わかりました。貴女は、早く家に帰って休んでください」
「あっ! ありがとうございます。このお礼は必ず」
女生徒の顔色は変わりませんが、明るくなりました。
女生徒は事務所から出ていくと、早速サライナに頼んで資料を洗い出してもらうことにしました。
「サライナ。ヘンゲルに頼んで、資料集め」
「わかりました。ナタリーさんには」
「お願いするよ。シグナにも声をかけておいて。キールは……やめておこうか」
キールは吸血鬼だ。
幽霊騒動にはうってつけの人材だが、流石に昼間は酷だろう。
「さて、私達は現場だね」
「現場は元自伯爵領で現在は墓地として活用されている屍毒の花園です」
「屍毒の花園?」
「はい。有名な墓地で、悲劇の伯爵令嬢が眠るとされいているんです」
「なるほど。興味深いですね。資料は……集めましょう」
私は薄っすらと目を閉じました。
そして、サライナを連れて墓地に向かうのでした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
墓地は一等地にありました。
そこにはほかに人の姿はありません。
おそらく、噂の影響でお墓参りに来る人が少なくなってしまったのでしょうね。
「誰もいませんね」
サライナはそう述べます。
しかし私は目を凝らして周囲を一瞥。
すると、
「いや、1人いるみたいだよ」
「えっ、どこですか?」
「ほら、一番奥。この墓で一番大きくて立派な墓石だよ」
私はそう答えます。
しかしサライナは気づきません。
失礼に当たるので、覗き込むように見るのはやめるように言いつけました。
しかし、妙ですね。
真っ白な豪華な服で、今では珍しいものでした。お高いでしょうね。
「話を聞いてみましょうか。何か分かるかもしれません」
待ってくださいくださいロスターさん」
私はサライナには目もくれず、女性に近づきました。
すると嫌な気配がします。ひしひしと伝わるのは、寒々しい気配。
そこで私は不意に魔法を使ってしまいました。
「あっ!」
「私は待っています。いつまでも、いつまでも……」
世界は動きを止めました。
秒針は動くのを拒絶し、雲は形を永遠のものとする。
その儚く身近な時の中で、私だけが動くのを許されます。
しかしその中で、
「誰を待っているんですか?」
「えっ!?」
そこにいたのは綺麗な顔立ちをした女性でした。
私より少し年上でしょうか。
「貴女は?」
「私はロスター・ホワイトと申します」
「私は……」
駄目だ。
無駄に喋ったから、そろそろ息がー-
「ジュリア。ジュリア・ポイズナ」
ジュリア・ポイズナ。
どうやら彼女がこの事件の真相みたいだけど、少し調査の幅を広げましょうか。
「あ、あれれ?」
「戻りますよサライナ。調べる対象は、ジュリア・ポイズナです」
「えっ、はい?」
理解の追い付かないサラナイはほおっておくとして、あの女性。
少し悲しそうな顔をしていた。
これは何かありそうだ。
「それで、解ったことだけど……」
「はい」
私は集めに集めた資料の束を読み進めた。
その結果、解ったことがある。
「ジュリア・ポイズナ。悲劇のヒロインとして演劇の題材にもなっているとはね」
「しかも毒殺ですよ。当時はまだ特効薬のなかった……酷い」
ジュリア・ポイズナ。
絶世の美女として、この辺りに住んでいた平民だったが伯爵の目に留まり婚姻。
2人は幼い頃から婚姻関係を結んでいたが、それを妬んだ別の伯爵令嬢によって殺された。
しかも、伯爵令嬢は伯爵を奪おうとした。だが、彼女の死を知った伯爵は自身の喉に短剣を刺し自殺した。
その短剣が、これだ。
「普通の短剣ですね」
「それは違うよ。これは彼女のジュリアさんに対する誠意が込められている。伯爵は結局未婚のまま生涯を終え、財産は全て彼女の遺族に渡された。それから、彼女の遺族は二人のためにと大衆向けの墓場を設けたそうだよ」
「どんな気持ちなんでしょうか」
「さあね。それは解らないけど、とにかくこれを見せに行こう。何か変わるかもしれない」
「見せに行く?」
私はサライナを連れて、ジュリアさんのもとに向かった。
その夜は綺麗でした。
私の目には純白のドレスを纏ったジュリアさんが、美しく映り込みました。
「ジュリアさん」
「貴女はこの間の」
「覚えてくれていたんですね。こんな夜分遅くに失礼致します。実は……」
ジュリアさんは私のことを覚えてくれてたみたいです。
そこで、ジュリアさんに例の短剣を差し出しました。
「これは貴女の婚約者、ハーブ・リクタ-さんが命を絶ったものです」
「ハーブが!そんな……」
「もう50年も昔の話です。だからいつまでたっても、ここに彼は来ません」
「そんな……」
ジュリアさんは悲しそうな顔をします。
しかし私は、
「気づいていたんですよね。そのことを誰かに言われるのを待っていた」
「・・・」
「黙らなくてもいいですよ。ただ」
私はジュリアさんにハーブさんからの最後の遺言を伝えます。
「親愛なる、我が愛しき君へ。君の元へ手向けとなろう。この短剣に刻まれていた言葉です」
それは最後にハーブさんが残した言葉です。
それはどれだけハーブさんがジュリアさんを愛していたのか、伝わります。
そんな時でした。
ふと背後から気配を感じます。
「えっ!?」
金縛りにでもあったみたいに体が動かなくなります。
するとジュリアさんは、
「よかった」
「えっ!?」
なぜか涙を浮かべていました。
そして私の手を掴むと、
「その短剣は貴女が持っていて。そしていつか……」
言葉が途切れました。
冷たいはずなのに、心だけはぬくもりに包まれます。
そして、気が付くとジュリアさんの姿はありませんでした。
「逝ったんですね」
「見てください、ロスターさん」
サライナが墓石の袂を見ていました。
そこには小さな紫色の花。
屍毒草。別名、悲劇の花。その読み方は、
「悲劇の花。2人のことはいつまでも」
私は遠く空を見上げました。
今宵の月はたぶらかすように、美しい。
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