その1
「ねえ、リリム、あなたの趣味は何なの?」
「もしかして、そんなしょうもないことを聞くために私を召喚したの?」
「まあまあ、いつものことじゃない。私たちも興味あるのよ、悪魔の生活。」
「私は忙しいっていつも言ってるじゃない!これでも悪魔将軍なのよ。アークデーモンよりも上の悪魔将軍。わ、か、る?」
「うんうん。分かるよ。いいじゃない、私たち友達でしょ?」
「友達とか、、、そんなこと言っても、私の怒りは収まらないのよ?趣味って、何でそんなこと知りたいのよ?」
「リリムのことを色々知りたいと思って。」
「そうなの?まあ教えてあげないこともないけど。私はね、毛虫って虫がいるでしょ?その毛をね、一本一本丁寧にむしっていくのが趣味なの。」
「きゃあぁぁぁ!やっぱり悪魔だ!」エルナとレイナは二人揃って叫び声を上げた。
「何よ!私の趣味の何が悪いっていうの?楽しくない?」
「楽しくない!毛虫の毛をむしるとか!最後は毛のないイモ虫になるの?」
「いや、待って、今の嘘。もう一回やらせて。私の趣味はね、私に似合う黒い服を集めることよ。」
「それって普通すぎない?もっと捻らないと。」レイナが言った。
レイナはシルフという妖精だ。背中に羽が生えており、飛ぶことができる。背丈は20cmほどだ。
「あんたに言われたくはないわ!」リリムはレイナにはいつも厳しい。
レイナは主人ではないので従う必要はないのだ。
「ホントはね、今日あなたを召喚したのは、倒して欲しい敵がいるからなのよ。」
「敵って?」
「ここって、どこだか分かる?」
「ううん。どこなの?」
「暗黒大陸。」
「ええっ!それって本当!?」
「本当に本当。外見てみなよ。」エルナは窓を指さした。
窓の外は荒涼として見たことがない景色だ。崖下には何やら蠢くものがいる。
「何あれ?」
「あれはハイオークの群れ。」
「あれ全部ハイオークなの?」
「そう。だからね。困ってたのよ。全部倒しておいてくれない?」
「えっ?私一人で?手伝ってくれないの?」
「だって私崖の下に行けないし。」
「イ、ヤ、よ!もう一度言うわ。イ、ヤ、よ!絶対嫌。」
「そんなこと言っていいの?」エルナは剣を抜くような恰好をした。
「そうやってすぐ脅そうとする!そういうところが嫌い。」
「嫌われたっていいのよ。早く倒してきて。」
「そんなこと言ったって、ハイオークでしょう?一体でも強いのに、それが群れをなしてるなんて、考えるだけでぞっとするわ。」
「リリムならできるよ。」
「無責任ね!そうだ、レイナ、あなた飛べるんだから、手伝ってくれるわよね?」
レイナは妖精のシルフだ。羽が生えている。
「私はお腹痛くて。イタタタタ。」
「仮病使っても駄目よ!私一人じゃ嫌だわ。」
「レイナも手伝うし、私も他の魔獣を呼び出すから、それでお願い。」
「魔獣って何よ。まさか半魚人じゃないわよね?」
「えっ、半魚人だけど?」
「半魚人なんて崖を下りられないじゃない。」
「それが、今では下りられるんだな。遠い場所にでも召喚できるようになったのよ。」
「ふーん、そう。じゃあ、私いらないんじゃない?半魚人だけで倒せるでしょ?」
「無理無理。あの数だよ?半魚人とハイオークのどちらが強いか分からないけど、多分同じくらいよ。あの数の半魚人を召喚すると疲れちゃう。」
「疲れるだけなら、いいじゃない!私なんて戦うんだよ。もっと疲れるに決まってるわ。」
「あとね、半魚人達をあまり危険な目に遭わせたくないのよ。」
「私はいいの!?」
「だって、リリム強いし。」
「強くない、強くない、アンタの方がよっぽど強いわ。仮にも勇者なんでしょ?」
「まあ、それは置いておいて。私は行けないから、代わりに行ってきて。」
「あ、そうだ、私があなたを崖下まで運ぶから、自分で戦って頂戴!私は帰るわ。」
「そんなこと言っていいのかな~?」エルナが剣を抜く動作をする。
「また脅す!そんなところが嫌いなのよ。でも、アンタを運ぶのはいい案だわ。一緒に戦えるでしょ?」
「嫌よ。戦いたくない。」
「何で?」
「怪我したくないし。」
「アンタ、仮にも勇者なんでしょ?強いんでしょ?」
「勇者だって、怪我したら痛いし。」
「ねえ、レイナ。何でこの人とずっとつるんでるの?この人ヤバいよ?」
「そ、そうね。確かに、今の発言は勇者失格ね。」レイナも同調する。
「あ、ごめん。訂正。じゃあ、運んでくれたら、私も少し戦うわ。」
「少しだけじゃなくて、思い切り戦えよ!」リリムが切れる。
「うん。じゃあ、頑張る。」
リリムはエルナを背中に乗せた。
「アンタまた重くなってない?」
「うるさい!」
リリムは翼を広げ、崖下に下りて行った。
崖下ではハイオークの群れがこちらを見ている。
「見て!弓で狙ってるわ!」リリムが叫んだ。
「何で上昇するのよ!」後ろからエルナが叫ぶ。
「だって怖いじゃない。無防備なのに、弓よ!」
「いいから行って!弓は私には当たらないわ。」
「それって、私が壁になるからって意味で合ってる?」
「うん。まあ、そうかもしれない。」
「やっぱ、アンタ、ダメ人間だわ。」
「悪魔に言われたくないよ。」
「悪魔将軍!」
「分かったよ。一度作戦立て直しましょう。」
三人はまた崖上の小屋に戻った。
作戦会議は続く・・・