第零話:プロローグ
どこにでもある普通の二階建ての一軒家。只今の時刻は二十二時。高校受験を明日に控えた少女は戦っていた。
――カチカチ ポチ!カチカチポチ!カチポチ!
――タラララーララータッタラー!
「やった!やっと倒せたよー」
ゲームだった。内容は王道系のRPGで、彼女はそのクリア後に条件を満たせば登場する裏ボスと戦っていた。
裏ボスとは通常のシナリオを最後まで進むと出てくるラスボスより、数倍の強さを誇る最強の敵。
彼女は二時間掛けて裏ボスを倒した。
「いやー強かった!まさかラスエリ10個も使うなんて。しかもブツブツ――」
裏ボスを倒した事が未だ興奮覚め止まずぶつくさ言っている。
彼女の名前は、島谷飛鳥十六歳。髪はセミロングで軽くウェーブがかかっていて、髪色は金色を通り越して色を抜いたカナリーイエロー。分かりやすく言えばレモンの色を薄くした色。本人は地毛と言うがしっかり染めている。
身長は165センチで、体重は秘密。43キロだ。
まだ中学三年女子にしては身長は高く、その為中学の部活も女子バスケ部に所属していた。運動神経も学年トップクラス。発育も良くて胸もCだ。と、本人は言い切る。顔立ちは目鼻立ちは通り整っている。特徴は美人な母親譲りの大きな碧色の瞳だ。
飛鳥の母親はフランス人で父親は日本人。
つまり飛鳥はハーフなのだ。
そんな綺麗な碧色の瞳をもつ飛鳥も父親の血を継いでおり、産まれた時の髪の色は黒。物心ついた年頃になった飛鳥は瞳とのギャップに激怒して親の反対を押しきって今の髪の色に変更した。
なぜあんなに綺麗な母がお世辞にも良いとは言えない顔の父親を選んだのか、飛鳥は理解できなかった。
小さい頃に飛鳥は二人の出会いを聞いた事がある。その時母から聞かされたのは――。
「昔ね、私がこっちに来て危なかった時に今のお父さんが助けてくれたのよ。それがきっかけ……かな?」
母は少し顔を上気させて話してくれた。
お互い娘の目も憚らずらちゅらちゅしていて年中熱々のバカップルだ。呆れる飛鳥だがそんな二人を見るのは何故か嫌じゃなかった。
飛鳥の趣味は読書、映画鑑賞、音楽鑑賞、バスケ。これが飛鳥の表向きの顔。
実際は上記の物+ゲーム、アニメ、ラノベ鑑賞、某巨大掲示板での交流、etc
はっきり言えばヲタクなのだ。
だが同年代の子にそんな子が居たとしても体裁を気にする飛鳥がそんなキモヲタ君に近付ける分けもなく、飛鳥はいつも一人でヲタク生活を楽しんでいた。
しかし高校に入ったら新しい出会いがある。同じような人がいるかもしれないし。飛鳥はそう思いながら未だ決まっていない高校入学に胸膨らませて、ベッドに入り瞳を閉じた。
「……あ。受験勉強してないっ!」
慌ててベッドから降りて机に向かう飛鳥。
飛鳥は頭は良くない。
しかしそこまで馬鹿ということもなく、中の上と言ったところだろうか。
この日飛鳥は一夜漬けを敢行して、受験に臨んだ。
県立聖ヶ丘高校。一応進学校ではあるが、県内トップクラスという訳でもなくて普通の進学校。
飛鳥は蕾がまだ芽吹かない桜の木が傍らにある校門の前に立つと、一度大きく深呼吸して高校に足を踏み入れた。
「――よし。かんばろう!」
校内に入ると飛鳥は周りとの視線と戦っていた。
原因は飛鳥の容姿。碧色の瞳で明るすぎる髪の色、スラッと細長いモデルの様な脚。飛鳥は男女問わず様々な受験生、教員の視線を集めていた。
「懐かしいなぁ。確か中学の時も同じ反応だったっけ?見られるのは慣れてるけどこれだけの人に見られるのは恥ずかしい。そろそろ“来る”ころかな」
すると分厚い眼鏡をかけた髪の薄い男子教員がこちらに走ってきた。
「君、どこの中学から来た受験生だね?こんな頭で来るなんてどういうつもりだ!」
男子教員は走って来たせいか、髪は乱れ息を少し荒らして聞いてきた。
飛鳥は学生鞄から用意していた自分の住基カードと小さい時に撮った、母とのツーショットの写真を取り出した。
「私は涼宮中学から受験に来ました島谷飛鳥です。これに私の戸籍が載ってる住基カード。これが母と私のの写真です。何か問題あります?」
男子教員はカードと写真を受けとると確認して飛鳥に返した。
「君は外国人の母親と日本人の父親のハーフか。すまなかったね。いきなり問い詰めて」
「いえいえ。慣れてます。初めての方なら仕方がないですから。この髪色は校則違反に当たりますか?」
「本来なら、ね。だがそれなりの理由があるなら別だよ。君のようにね。わが校の校訓は誠実・丁寧・真心だ。気にする事はない。引き留めて悪かったね?受験頑張りなさい」
飛鳥は軽く会釈してその場を後にして受験会場の教室に向かう。
教室に入ってからも飛鳥を見る好奇の目は減ることはなかった。
受験カードに書いてある番号の席に座る、しばらく参考書を読んでいたが落ち着かない。
――ハ……キテ…
「いっ!痛っつ……何?」
飛鳥の頭の中に囁くように呟かれた声。
――ジ…ン……イノ…
「――つぅッ!何なのよこれ……」
少し時間が経つと飛鳥に聞こえた声は聞こえなくなり、頭の痛みも引いてきた。頭に手を置くと額には汗をかいていた。
「まだ時間には余裕があるよね」
飛鳥はそう言うと席を立ち手洗い場に向かう。女子トイレに入り、鏡の中に映る自分を見た。少し肌が青白い。ハンカチに水を含ませて額に当てる。
落ち着いた飛鳥は鏡に視線を戻すと――
「――え?何これ……」
鏡には輝く光が写っていた。飛鳥は呟きその光に手を伸ばす。
――ゴ…ンネ……モ…ル…テ…
飛鳥が光に触れた瞬間、飛鳥に囁くようにまた声が聞こえた。
「――謝って、る?いっ!痛…ぃ」
飛鳥が触れた光は瞬間、黒光りして飛鳥は掴まれたように引っ張られる。
「!!ちょ、ちょっと何これ?誰かいない!?」
飛鳥は周りを見たが誰もいない。
「ちょ!勘弁だからこんな展開!小説でよくあるベタな――キャアァァ!」
飛鳥は黒く光る鏡の中に吸い込まれていった――。