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雑談配信でイキりたい




 vtuberとなってから四日が経過した平日のお昼過ぎ、今日も私は寡黙系秀才美人として大学に来ていた。


 現在は午後の空いた一コマで、使用されていない講義室にてレポートを書いている。


 今いる講義室には私の他にも勉学に励むお一人様や仲間内で集まり談笑するグループなどがいる。そして、当然のように私はお一人様だった。


「…………」


 会話する相手もいないので少々の寂しさを覚えながら、私は黙々とレポートを書き続ける。なお今世の私は天才なため、レポートは特に労することもなく進められている。


 机に向かってレポート用紙にペンを走らせながら、私は片耳につけたイヤホンにも意識を向けていた。今の私を傍から見れば音楽を聴きながら課題をこなしている学生にでも見えているだろう。


 だが、私が聞いているのは昨日の配信アーカイブだ。それも自分のやつ。


「……ふむ」


 いや、しかし今更ではあるが、大人しく暮らすはずのリアル生活がずいぶんと配信生活の方に浸食されてしまっている。


 そもそもが中学の頃、増してきた自己顕示欲を満たすために「ネットなら多少ハッチャけても問題ないだろ」と動画投稿を始めたのが間違いだった。それがいつの間にか高校の頃にライブ配信を始めてしまい、一人暮らしを始めた去年からはほぼ毎日配信をしてしまっている始末だ。


 だってちやほやされるのが気持ちいいのだ。他人より優れた才能でどや顔するのが快感なんだもの。


 通算年齢を考えて慎んだ生活をしろよ、とは自分でも強く思うが、どうにもやめられないのが現状である。


「……まぁ、いいか」


 レイナ(わたし)だとばれなければリアルに影響はないわけだし、いつかは飽きたりしてやめるだろう。


 そう考えてとりあえずは保留する。


 ともかくとして、そうこう考えるうちにレポートは終わった。そしてもう一つの作業――アーカイブの視聴にも一つの結論が出た。


 (これ)vtuberじゃないな?



++++++++++++++++++++++++++++++++++



「はい、ということで今日は雑談配信をします」


『いやどういうことだよ』

『お、そうだな』

『開口一番これか』

『一話飛ばした?』

『今日はエーペックスやらないんですか?』


 今日も今日とて自己顕示欲を抑えきれずに配信を始めてしまった。


 配信画面上にはもう当然のように金髪ロングの巨乳美人――の3Dモデルが写っている。我ながら美人かつエチエチの自慢できる出来だ。私が手を振ると配信画面の中のレイナさんも視聴者へ向かって手を振る。にっこり笑いかけるとそれだけで一つの絵になった。


『ん?』

『えぇ?』

『なんか変わってるんだが』

『服変わった?』


 私が求めていた反応通りにコメントが指摘する。


「えへへ、気づいちゃいましたか! そうなんです! 新衣装を作ってみました!』


 そうなのだ。vtuber化してから3Dキャラクターが人気なので数日前から新しい衣装を作っていたのだ。今世の私は天才なので一度行った作業を次に行うときは効率化&効率化できわめて短時間で済ますことができる。そのため新衣装――新しい3Dモデルの作成も大学で講義を受ける時間に内職で作成できてしまった。


 今回作成した新衣装は和服だ。黒を基調色としていて、袖などには草木をイメージとする模様が装飾されている。それを金髪ロングの巨乳美人が身に纏うと大人な雰囲気を醸し出す魅力的なお姉さんキャラが誕生するのだ。


 私は新衣装の3Dモデルでポーズをとっていく。胸を強調したり後ろを向いてうなじをチラ見せしたり、大人な雰囲気を強めるような色気のある姿を見せつける。


「へへへ、どうです? エチエチじゃないですか?」


『エッッッッッ』

『すっご』

『うっ』

『やばすぎない?』

『h』

『見た目と中身で頭バグってくる』

『俺は騙されないぞh』


「えへへへ、もっと言ってください」


 ああー、満たされていく。リアルで自重した生活を送っているぶんの満たされない承認欲求や自己顕示欲が急速に充足されていく。気持ちいい。


『しゃべらないで』

『ちょっとミュートにしますね』

『中身出ちゃってます』

『表情係さぼるな』


「……へへへ、気持ちよくなれたので今日はもう配信やめていいですかね」


 なんだか満足してしまった。今寝たら気持ちの良い朝を迎えられそうだ。


『雑談どこ行った』

『やめないで』

『おつ』

『また明日な』

『やめるな』

『唐突に始めて唐突にやめるな』


「ああ、そうですそうです、雑談というか重要なことを決めなければならなかったんです」


 コメントに指摘されて重要なことを思い出す。あぶなかった、危うく本当に配信をやめる所だった。


『ん?』

『なに』

『え』

『おつ』

『企業からなんかあった?』


「企業とかではないんですけど、そのですね、私気づいたんです。vtuberを名乗り始めたのはいいものの、設定をまったく考えていなかったことに」


 そう、配信アーカイブを見直して判明したことだが、現在の(レイナ)にはvtuberとしての設定がなかった。


 vtuberといえばキャラクターをわかりやすく示すための設定が必須だ。設定があるからこそ視聴者はキャラクターというフィルターを通して配信を見ることができ、配信者を二次元の存在として愛でることができる。だが、今の(レイナ)には設定がない。とすれば、このままだと私はvtuberの皮を被ったただの配信者にしかなれないのである。


『はぁ、そうっすか』

『設定なんている?』

『もう十分じゃね?』


 どうやら視聴者たちは事の重大性を理解していないようで反応が薄い。しかし設定の有無は私をもてはやしてくれる人数に直結するので重大事項なのだ。


「ということで、今日の配信は私の設定を決める配信にしたいと思います! 参考にさせていただくので、各自好きなように設定を書いていってください!」


『設定とは配信中に考える物だったか?』

『オタク君こういう時だけ早口だよね』

『どういうことだってばよ』

『話が急すぎてついていけない』


「まぁまぁ、ほら、見た目のことでもいいんですよ?」


 そう言って、私はモーションキャプチャーの機器に向かってポーズを決める。


 今世の私は天才であるので、繊細な感覚と確かな記憶に裏打ちされたポージングは、モーションキャプチャー越しの3Dモデルであっても自由自在だ。それに加え、元々男である私は男性が魅力的に感じるフェティシズムも十二分に理解している。故に、天才の身体制御と男のロマンが融合した結果、配信画面上には究極のエッチな金髪ロングの巨乳美人(和装)が体現することとなり――


『エッッッッッ』

『h』

『うっ』

『エチチチチチ』

『新手の精神攻撃はやめろ』


 視聴者を思いのままに魅了することができるのだ。


 というか、大勢を手玉に取っているようでめちゃくちゃ気持ちがいいな、これ。承認欲求と自己顕示欲をガンガンに刺激してくるから、真面目に癖になりそうなくらい気持ちいい。


「へへへ、じゃあまぁ、設定は適当に超絶天才金髪巨乳美人vtuberということでいいですかね?」


『は?』

『え?』

『……えぇ?』

『どういうことなの』

『この人怖い』


 実のところ、設定は存在するのであれば何でもよかったりする。だから新衣装の見せびらかしを兼ねて、適当に配信で決めようと思っていたのだが、こう、あまりにも視聴者が愉快な反応をしてくれるので、欲求不満が解消されてしまった感がある。本来はもっと時間をかけてちやほやされようと思っていたのだが、なんか一種の賢者モードに入ってしまった。


「はぁ、ということで今日はゲームでもしますか」


『よくわからんが配信が続くのであればそれで良し!』

『今日もでは?』

『てか設定雑過ぎない?』


「それじゃあ、これから超絶天才金髪巨乳美人vtuberとして活動していくのでよろしくお願いします」


 このあとめちゃくちゃゲームした。


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