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お姉さんと私  作者: ゆりかも
第1章 お姉さんと私
2/25

第2話 作戦実行!

2、作戦実行!


本題の話をしていなかったことに気付いた私は、すぐに優太に電話をかけ直した。


「いきなり通話切られたからビックリした…」

「ごめーん!それで今日電話かけてきた本題は?」


「そうそう!来月姉ちゃん誕生日だろ?」

「あ!そういえば!」


「今年も父さんと母さん張り切って準備してるよ。」

「あー。来年はお祝いメール位で良いよって去年言っといたんだけどな…。」


「もうケーキとかも注文しちゃってるみたいだから来てよ?予定ないでしょ?」

「し、失礼な!私だって予定の1つや2つ位!」

「ないでしょ?」

「ないです…。」


別に誕生日に祝ってくれる友達がいないわけではない。私が生まれた日が運悪くクリスマスというカップルのための日だったがゆえに、恋人のいる友達は皆、彼氏と連れ添ってキラキラと輝くイルミネーションの中に消えていくのだった。


恋人のいない私は、家族に誕生日を祝ってもらい 、友達から送られてきたお誕生日おめでとうメールを確認し、切ない夜を明かすのがクリスマスのルーティーンだった。


だからといって羨ましさはあれど、彼氏が欲しいと思ったことは無かった。

彼氏がいることに羨望するのではなく、誰かに特別に愛され、自分も誰かを愛すということ自体に憧れは抱いていた。


幸せそうに恋人の話をする友達を見ては、いつか私もそんな素敵な人に出会えるのだろうかと思っていた。


そんな時に、あのお姉さんと出会ってしまった。しかも一目惚れしてしまった。もうこれは、最初で最後の出会いかもしれない。

そう思うと、初めての恋で高揚した気持ちと同姓に恋をしてしまったことによる困惑と似たような気持ちが混ざりあい、なんとも複雑な気分だった。


私自身、同性同士の恋愛について偏見はなく、愛し合っているならば幸せになるべきだと思う。


しかし、誰しもがそういう思想というわけではないという事も分かっている。もしも、お姉さんが同性同士の恋愛を良いものだと思わない人だったとしたら、私は彼女のことを諦めることが出来るのだろうか。考えれば考えるほど陰鬱としてくる。



誕生日の日に実家へ帰ることを約束し、優太との通話を切った。

一旦頭を整理しようと、ソファに横になり、目を閉じる。

思い出すのは、最後に見たお姉さんの笑顔だった。


お姉さんを思い出すだけで先程までの鬱々としたものがスッと溶けて消えていくような気がした。

自分の単純さに思わず笑みが溢れ、明日から頑張ろうと思えたのだった。


お姉さんと私はまだ会ったばかり、いわば、まだスタートラインに立って準備運動をしている段階だ。これから少しずつ私のことを知ってもらえるようにアプローチしていかなければいけない。


なんともゴールまでの道のりが険しそうだが、先のことは誰にも分からないので、運と私の努力次第でなんとかなる、と自分に言い聞かせた。





翌日、仕事終わりに早速例の薬局へと胸を躍らせ向かった。


恋は盲目とは良く言ったもので、これほどまでに誰かに執着するとは思わなかった。内心(え?これってもしかしてストーカーの部類に入っちゃう!?)と焦ったが、お姉さんと知り合いになるには薬局に来るしかないのでそっとしておいて欲しい。


昨日買い忘れていた物を買い足し、レジへと向かうと、遠目からでも分かるほど美しく、恋い焦がれた人が凛と立っていた。


恋に盲目状態の私には 、彼女の周りに瑞々しく咲き誇った美しい薔薇とスポットライトを浴びて(もはや幻覚だろう)燦々と輝くお姉さんの姿しか見えず、あまりの神々しさに目眩がした。


幻覚へとトリップしていたのを、後ろにならんでいたお客さんの咳払いで現実へと戻される。


「お次のお客様、こちらへどうぞ。」高過ぎず、低すぎずなんとも落ち着く声は、聖母マリアを彷彿とされる慈愛に満ちている気さえしてきた。


昨日と同じように一連の作業を終え、最後に笑顔で「またのご来店お待ちしております。」と言われ、芸能人の握手会に参加する方々の気持ちが分かった気がした。


薬局で買い物をするだけで押し(お姉さん)と握手会が出来るだなんて…。(握手会ではなく、お釣りを渡しているだけ。)何てサービスのいい店なんだ!と、考えていたら、ハッとあることに気付き、血反吐を吐きながらその場に膝から崩れ落ちた。


「な、名前を確認するのをまたしても忘れてた!!!」


血と涙で顔が物凄いことになっていたため、道行く人に引かれているとは露知らず 、自分の役立たず加減に嫌気がさしてきた。


顔を拭き、とぼとぼと夜道を帰る私の背中は、哀愁が漂っていたらしい。



それからも、何度も薬局へと足を運び、お姉さんの名字は如月さんという情報もやっと入手することに成功した。毎回レジを目の前にすると頭が真っ白になり、言いたいことも忘れ、ただ見惚れていることしか出来なかったがゆえに、およそ10回目くらいでやっと名札を見る余裕が出来た私だった。



今日も、お姉さん改め、如月さんに会いに行くために急いで仕事を終わらせ、残業せずに薬局へと向かう。

今日は宅飲みでもしようと、缶ビールや酎ハイ、つまみになるお菓子を買い物かごへ沢山入れ、レジへと向かった。しかし、そこに如月さんの姿は見えず、良く如月さんの隣のレジで接客しているおばさんしかいなかった。


今までも何回か如月さんに会えなかった日があったので 、おそらく今日はお休みの日だろうと思い、しょんぼりしながら会計を済ませ店を出た。


店を出ると、ぶわっと冷たい風が頬を撫で、思わず身震いする。そろそろ秋も終わりかな…と、薄手のコートのポケットに手を入れて暖をとる。まだ、夕焼けが残る寒空のした、とぼとぼと歩き始めた。


早く帰って炬燵で宅飲みしようと小走りで家に帰っている途中、帰り道にある公園にふと顔を向けると、そこには、ベンチに座っている如月さんの姿が見えた。


思わぬところで如月さんに会えた嬉しさに思わず「あ!!!」と大きな声で叫んでしまい、咄嗟に両手で口を押さえるも、幸か不幸か、彼女のもとへ届いてしまったのは、美しく、けれど少し憂いを帯びた瞳に捕らえられたことで気付いた。

どう行動を移せば良いのか思考を巡らせていると、彼女は、ペコリと私に向かって会釈をし、こちらを見ている。認知されていたことを知り、心のなかではサンバカーニバルが開催されていた。

おそらく、このチャンスを逃したら二度と訪れないであろうと小走りで彼女のもとへ向かい挨拶をする。


「こ、こんばんはー!」初めて彼女に向けた第一声は、緊張により上擦ってしまい、あまりの恥ずかしさに顔を俯かせた。


「こんばんは。えっと、良くお店に来て下さるお客様ですよね?」ベンチに座っているため私の方を上目遣いで見ながら少し首を傾げる姿は、いつもの凛とした美しさとは違って凄く可愛いかった。


(うわぁーー!!!可愛すぎる!なんだこの可愛い生き物は!可愛いの化身じゃないかー!!!)という言葉を飲み込み、必死に冷静さを装ったが、心臓は、これでもかというほど早く脈打っていた。


「家から近いので、いつも利用させてもらってます。」と定型文のような事しか言えず、自分のコミュニケーション能力の低さに絶望しかけたとき、あることに気付いた。


如月さんの顔を良く見てみると、少し目元が赤くなり瞳は潤んでいた。まるで、先程まで泣いていたかのように。


いつもとは違う彼女を目の当たりにし、咄嗟に体が動き、膝に置かれていた彼女の両手に自分の手を添え、膝まずいた。


「どうしたんですか!?どこか具合が悪いとか…。」自分が着ていた薄手のコートを彼女の肩に羽織らせる。好きな人が悲しい顔をしているだけでこんなにも胸が締め付けられるなんて知らなかった。あの笑顔をすぐに取り戻せるならば、何だってするだろう。


一瞬彼女の瞳が揺れ動き、口を固く結んだ瞬間ポツリと手の甲に涙が溢れ落ちるのを感じた。

「すみません。」と小さく紡ぐ彼女の声は震え、涙を必死に堪えようと唇を噛んだ。涙を拭おうと目を擦る手を優しく取り、代わりにポケットから出したハンカチで優しく拭った。


なかなか涙が止まらず、どうすれば良いのか思考を巡らす。ふと、昔号泣していた弟を宥めるためにしたことを思い出した。


「大丈夫だよ。姉ちゃんが守るから。」優しく彼女の肩を抱き寄せ、ポンポンと頭を撫でる。始めこそビクッと肩が跳ねたが、次第に落ち着いてきたのか呼吸も落ち着きを取り戻し、スンスンと鼻を啜る音だけになった。


「すみません、有難うございます。」冷静になってきたのか、私の胸に預けていた頭を上げ、少し恥ずかしそうに顔を反らした。


もっと顔が見たいという衝動に駆られ、顔に掛かった髪をそっと耳に掛けると、耳が真っ赤に染まりいつも凛とした眉は、ハの字に下がり恥ずかしさを押さえるかのように唇を手の甲で隠す。

その姿は、なんとも扇情的でグッと来るものがあった。このままだと私の中に満ちに満ちた愛情が決壊しそうだったので、名残惜しいけれども彼女の肩をゆっくりと離す。


泣き腫らした目元にそっと手を添え、親指でなぞる。

思わずキスしてしまいそうな程可愛らしい姿を目に焼き付けグッと衝動を堪える。


「お姉さん!お酒飲める?」顔の横に先程薬局で買ったお酒の入った袋を掲げ、ニシシっと無邪気に笑みを向ける。


突然の発言に彼女がコテンッと小首を傾げたのはいうまでもない。














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