異世界召喚される種付けおじさん
今回は異世界モノです。
剣と魔法のファンタジー世界、セミニス。
そこではある問題が発生していた。
全ての男性の精子の死滅、つまり子供ができないのである。
魔法、科学の両方から問題の解決を試みたが、結果は芳しくなかった。
ある者は神の裁きだと言い、ある者は人間という種の衰退だと言った。
だが、どの世界にも諦めの悪い者はいる。
ある時、気づいた人間が居た。
この世界に種が無いなら、違う世界から持ち込めばいい。
各国が古文書を紐解き、異世界召喚について調べたが、長く平穏の続いたセミニスでは、異世界召喚の方法をほとんどの国が失伝してしまっていた。
だが、聖シード王国王女ラバード・ウィルオーナは、ついに異世界召喚の方法を解き明かした。
そして、満月の輝く晩に、玉座の前でついに異世界召喚を行う。
「申し訳ございません、あなた。私はふしだらな女です」
王女ラバードの傍らに控える、王女の婚約者アラン・ウィルオーナが、彼女に微笑みかける。
「君は何も悪くない。君はこの世界のために最善を尽くした。種を失ってしまった、僕が悪いのさ」
ラバードは涙を流して、夫の愛に応えた。それは美しき夫婦の愛であった。だが、世界を襲った災厄が二人を切り裂く。
見知らぬ男の種を宿すことでしかこの世界を救うことはできない、とラバードは理解していた。
「ありがとうございます、あなた。では勇者殿をお呼びします」
王女は涙と共に、異世界召喚の祝詞を唱えた。
十二音節にわたる詠唱が終了すると、魔法陣が強い光を放った。太陽のように眩い光が二人を照らしたが、二人はその光を嫌なものだとは感じなかった。それどころか、暖かいお母さんのような、不思議な感慨を抱いた。
光が晴れると、そこには一人の男が立っていた。
勇者とは言い難い体型の、中年の男であった。
ラバードは意を決して、その男に声を掛けた。
「よく召喚に応じてくれました、勇者様。私はシード王国王女ラバード・ウィルオーナです」
「召喚?そうか、僕は呼ばれたのか。では、何のために僕を呼んだんだい」
聞くものを安心させる、低く優しい声で勇者は答えた。
「私に、あなたのお子を宿していただきたいのです。この世界セミニスでは、男性が子供を作る機能を失ってしまったのです」
勇者は不機嫌そうに答えた。
「君は、それでいいのかい?僕のような、よく知らない男としても」
「覚悟はできております」
涙を堪えてラバードは答えた。それは、為政者としての覚悟を感じさせた。
「すまない、無礼な質問だったね。君の覚悟は分かった」
勇者が手を伸ばす。思わずラバードは目を瞑った。心の中で夫への謝罪をしながら、ラバードは覚悟を決めた。
だが、その覚悟は意外な形で報われることになる。
勇者の手が掴んだのは、ラバードではなく、彼女の夫だった。
「え?」
「まだ、名乗っていなかったね。僕は正義の味方と呼ばれていたんだ」
「どういうこと!何で子供が生まれてくるのよ!」
この世界を管理する女神アクウィラは憤慨していた。
人間たちから子供を作る能力を奪い、慌てふためく様を見ながら笑ってやろうとしていた女神は、予想外の事態に慌てていた。
この世界の管理者はアクウィラであり、彼女が分からないことは存在しない、はずだった。
「世界を悪に染めようとする者がいるなら、僕たち正義の味方はどこへでも駆けつける」
正義の味方は、世界を崩壊へ導こうとした女神に、堂々と宣戦布告をした。
突然現れた正義の味方に驚きながらも、女神アクウィラは臨戦態勢をとった。
「有り得ないわ、男たちの精子は全て私たちが殺したはず…」
「確かに、彼らは男性としての機能を失っていた。だが、正義の味方が一人である必要はないだろう?」
「なに?」
「彼らにもなって貰ったのさ、僕と同じ正義の味方にね。失ったものは取り戻せる、当たり前のことだろう」
それは勇者の愛が為せる技であった。全ての同胞たちの幸せを祈り、自らの力を分け与えたのであった。
「さあ、かかって来い悪党。僕が裁きを下す」
「貴様のようなふざけた存在に、女神たる私が負けてたまるか!」
正義の味方が勝って、世界は平和になった。
あと、なんやかんやで、女神と正義の味方は結婚して、ラブラブに暮らしたよ。
おしまい。
正義は勝つ。