ループする種付けおじさん
ハッピーエンドって良いよね。心が暖かくなる。
何度繰り返したのだろう。
一度目は何も出来ずに彼女が死んだ。
二度目は彼女を救うことが出来ずに、僕も死んだ。
三度目は僕だけでなく、僕のことを助けてくれた友達も死んだ。
何度も、何度も、僕は死んだ。彼女を救うことが出来ず、ただ無意味に僕は殺された。
何度も世界はループし、ループ毎に世界は変化したが、僕と彼女の死因は一つだった。
闇のように黒い色をした、虫と人を組み合わせたような怪物に僕は殺される。奴は一人ではなく、卵を産み同属を増やしていく。
どこかの研究所が生み出した怪物なのか、宇宙からきたエイリアンなのか、奴の正体は分からないが、奴が人類にとって敵であることは確かだった。
ループする毎に僕の心は確実にすり減っていった。
いつしか僕は殺されることにも何も感じず、彼女のことが本当に好きなのかも分からなくなった。
二万と四千回目のループのとき、僕は全てがどうでもよくなった。僕のことを心配する彼女の声も無視して、奴が僕を殺すまでずっと家に引きこもるようになった。
ただ、ずっと家にいるのにも飽きてきたので、僕は自慰行為にふけるようになった。
そんなとき僕は一つの本に出会った。
それは種付けおじさんと呼ばれる男が主役のエッチな本だった。
なんだこの本は、と思った。性的な興奮よりもバカバカしさが勝って、最初に読んだときは笑ってしまった。
だが、一冊、二冊と読み進めていく内に僕は種付けおじさんの魅力に取り憑かれていった。
力強く、どんな敵にも負けず、自らの望みと読者の望みを叶えてくれる種付けおじさんに僕は憧れた。僕もあのように強い戦士になりたいと願った。
その時から、私は変わり始めた。体を鍛え、武器を鍛えて、種付けおじさんを目指し努力を始めた。
だらしなくお腹が出ているが筋肉質な、理想的な種付けおじさんの体を私が手に入れたとき、私はある一つのことに気づいた。
ループする世界の中で私と妻を殺すあの怪物も、犠牲者であると。卵を産んでいたので、そこから気づくことが出来た。
ならば、種付けおじさんは負けない。
私はあの怪物と対峙し、勝利した。
私は世界を救い、二人の妻を手に入れた。
種付けおじさんは世界を救う。