第2部 扉の向こうは理想郷《2》
「おはよーごじゃいましゅ」
私は部屋に入って来たキャメリアに声をかけた。
中身年齢アラサーな私が、昨日は泣きわめいたあげくに泣きつかれ、そのまま寝落ちしてしまったよ。おかげで、それはもうぐっすり寝れましたとも! とんだポンコツ幼女だよ。
でもそのおかげか、今朝は爽快です♪ 基本的に私はポジティブなのだ。まぁ、ちょっとはへこんでるけどね。
前世の私は、自分で色々と作ることが好きだった。それは、母が手先が器用な人で、私の服とか小物とかさまざまな物を手作りしてくれてたから。母の手から色々な形の物が生み出されていく様は、見ていてとても楽しかった。だから私も、母のようになりたいって思った。
服飾学科に入ったおかげで、自分で着る洋服や着物、編み物やアクセサリー作りにいたるまで、時間がたつのも忘れてよく作ったものだ。
熱中するあまり、気がついたら夕飯の時間を過ぎていて、よくレトルト食品とか冷凍食品を食べてたよ、私。だから料理作りでポンコツなのは仕方ない! たぶん……ね。
「お嬢様、今日はお屋敷の中で遊びますか。」
おっと、昨日は畑で泣き出してしまって、キャメリアに心配をかけてしまったようだ。
「おしょと、いく。はたけのちゅぎ、みゆ!」
私は元気よく、両方を上げて答えました。
朝食を食べてキャメリアと手を繋ぎ、元気いっぱいでやって来ました昨日の続きの畑。うん、緑の葉っぱがまぶしいくらいです。
元気に育って美味しくなれーと畑を見ていると、畑の先のお家から女の人が出て来ました。あれは料理長ティヨルの奥さん、ノワイエ。
私は、とてとてーとノワイエのところまで行くと
「おはよーごじゃいましゅ」
と声をかけた。ノワイエは私を見ると満面の笑みで
「まぁ、お嬢様。おはようございます、お散歩ですか」
と、両膝をついて目線を合わせてくれた。私は両手をパタパタさせて
「たんけんでしゅ」
と答える。するとノワイエは少し考えて、家も探検してみますか、と言ってくれた。
いいのー、探検したいです! 普通のお家の探検は初めてです♪
ティヨルとノワイエのお家は一階がキッチンと居間、洗面所にお風呂場、トイレ。二階には部屋が二つと小さめの物置。その上に屋根裏部屋がありました。
ノワイエはティヨルと結婚するまでは、お屋敷でメイドとして働いていたそうですが、結婚後はメイドを辞めお家でティヨルを支えているようです。
実は、アルボとマーロ夫妻はここに来て二日間は、ティヨルのお家にお世話になっていました。でも、工場の話が出てからは、アルボとマーロは工場に移ってそこで暮らしています。孤児やお年寄りが住めるように色々準備してもらったり、裏に畑を作ってもらったりしてるんだ。
お屋敷からは、孤児院出身のぺルルと数名がお手伝いに行ってます。私も探検が終わったら行きたいです!
ノワイエにお家を見せてもらい、おやつまでご馳走になって、バイバイしてから畑の端まで探検。
お屋敷に戻って昼食後お昼寝をして、また探検。畑の端の少し下に納屋があったから、そこを見たらとりあえず探検は終了です。
王都のお屋敷は、探検すれば何かしらポシェットに入れる物があったけど、ここでは何もなし。余分な物は全部売りはらったんだろうなお祖父様。
お昼寝のあと納屋探検に行こうとすると、納屋は行ってはいけません、と言われました。何でだろう?
「私もよくは存じませんが、先代様の時代から入ってはいけないと言われているようです」
う〜ん、どうして? 私は執事のトルキーソに話を聞きに行くことにしました。
「なや、みちゃい。みゆだけ、い〜い」
「外から見るだけでは駄目でございますか、グルナお嬢様」
「なや、あぶにゃい?」
「いえ、私も入ったことがございませんので、中はわりかねます。」
「なか、みゆ。かくにん、たいしぇちゅ」
納屋の中に何があるのかはわからないけど、確認は大事。役立つ物があるかもしれないし。でも、どうして立ち入り禁止なんだろう。
「とるきーちょ、いっちょにいこ、かくにん」
トルキーソが一緒なら行けるはず、うん行けるよ。私はトルキーソの手をとって引っ張るようにする。トルキーソは、うんんと考えてから
「少し見るだけでございますよ、よろしいですか。」
と言った。私は、あい!と満面の笑みで答えましたとも!
グルナお嬢様は探検でたくさんの物をお持ちでしたからね、とトルキーソも私のポシェットの中身を思い出し、確認しておくことは大切だと思ったようだ。
とにもかくにも、納屋へレッツゴー♪
トルキーソを先頭に、私はキャメリアに抱っこされて、やって来ました畑の端の方の納屋。下の方にあって人目につかないから、誰もあまり気にしないのかもしれない。
納屋には鍵がかかっていたので、トルキーソに開けてもらい中に入ります。ごくり。立ち入り禁止の納屋が開く瞬間です、緊張します。ギィィーーーと音を立てて、扉が開きました。キャメリアの腕の中から身を乗り出して、トルキーソの後ろから覗きこみます。
「にゃにか、あゆ?」
ゆっくりと、トルキーソが前に進みます。続いてキャメリアも納屋の中に足を踏み入れました。
木造作りの古い納屋は、板の間から光りが少しもれています。開け放たれた扉から入ってくる光で、中の様子はよくわかりました。
中にあったのは、使い古された箱のような物ばかり。箱の中には何も入っていません。この納屋のどこが立ち入り禁止なんだろうと思っていると、それは突然目に入ってきました。
「あえ、なに」
私が指差した方にトルキーソが向かい、それをじっと見て
「扉? いいえ、こんな所に扉があるはずはありません。グルナお嬢様、しばらくお待ち下さい」
と言い、外に出て行った。
納屋の壁の向こうにトルキーソの足音がして、こちら側に来ていることはわかった。トルキーソは納屋の壁を叩いたりして確認しているようだ。そして足早に中に戻って来ると
「外にはこの場所に、扉などございません。」
と言った。トルキーソも私もキャメリアも、納屋の中にある扉を見つめる。
「あけて、みゆ」
そう、三人で首を傾けていても何の解決にもならない。ここは、扉を開けてみるしかないのだ。
「でも、扉の向こうに何かあったら」
キャメリアの意見はもっともだ。だからこそ
「なにかあっちゃら、あぶにゃい。かくにん、ひちゅよう。あけて、みゆ」
開けてみるしかないんだ。トルキーソはキャメリアを見ると、万が一の時はグルナお嬢様をすぐに避難させるように、と言った。トルキーソの手が扉にかかり、ゆっくりと慎重に扉を押し開いた。
押し開いた扉の先にあったもの、それは真っ暗な世界。かすかに、私達の後方から射し込む光で、何かがあることは確認できる。
しかし、目がなれてくるにしたがってそこにある物が何かわかるようになると、私は目を見開き固まった。
しばらく呆然としたのち、私はキャメリアの腕を叩いてそれに近づいてもらう。トルキーソとキャメリアには、それらが何なのかまったくわかっていなかった。
それは当たり前のことだ。私は辺りをぐるっと見回すと
「そえ、あけちぇ!!」
と叫んだ。私が指差した先にあったもの、それは扉だ。
表から鍵がけられていたら開かないかもしれない。とも思ったが、その扉の鍵はまるで、中からも開けることを想定してつけられたような鍵だった。
「とるきーちょ、ちょのちゅまみ、まわしゅ!」
トルキーソは私のいうつまみの部分を、くるりと回した。そしてその扉の部分を押すと、キィィ〜と音を立てて開いた。
一口メモ
フランス語→日本語
ティヨル→菩提樹
ノワイエ→胡桃
次回投稿は5月31日か6月1日が目標です。




