第6部 理想郷の街《3》
コテージの前、片足を斜め後ろの内側に引きもう片方の足の膝を軽く曲げ、両手でスカートの裾をつまみ軽くスカートを持ち上げ、頭を下げて御挨拶しましたとも!
そして、手に持つ手綱をクイクイと引くと、隣でクーちゃんが片足を前にだしお尻を少し落として頭を下げ、クーちゃんなりの立派なカーテシーを披露してくれましたよ! クーちゃんいいこ〜♪
「まぁ〜!!」
それを見た王妃様は目を見開き、とてもびっくりしていました。そして、素敵な笑顔で
「いつも素敵なプレゼント、ありがとう」
と、声をかけて下さいました! 王弟殿下ご夫妻も、“ウサギのぬいぐるみをありがとう” と言ってくれましたよ! ご夫妻の横では、乳母と思われる人に抱っこされた赤ちゃんが、ウサギのぬいぐるみの耳をアムアムと口にしています。とてもお気に入りらしい。
「その馬はポニーよね。美しいカーテシーができるだなんて、とても頭がいいのね」
「私も、びっくりしました。こんなポニーがいたとは」
「本当に」
王妃様も王弟殿下ご夫妻も、感心してクーちゃんを見ていますよ。でも、ポニーは賢いので “教えたら皆できるんじゃないでしょうか?” って思うんですけど、それは言わない方がいいのかな。
王妃様は、この国の軍馬を育てている領地の出身だそうで、馬好きだなんだそう。
「グルナ、王妃様に少しお見せして」
お母様が言う “お見せして” は、多分クーちゃんができる芸をお見せしてって言うことかな? お祖父様に視線を向けるとコクンと頷いたので、私はクーちゃんから鞍と鐙を外しコテージの前の広い場所にマジックバッグから取り出した飛越をポンポンと置いていく。
飛越の高さは30センチ、40センチ、50センチの3種類。30センチの前でクーちゃんの手綱を外し
「クーちゃんストップ」
と告げ、従僕にクーちゃんを任せる。私は50センチの飛越の先に木箱を置いてその上に立つと、クーちゃんに両手を振った。
「いくよー! クーちゃん、ゴー!」
私の声に従僕がクーちゃんから離れると、クーちゃんは小さい飛越から順にポンポンポンと飛び、私の所にやってきた。
「クーちゃんおりこー♪」
私はマジックバッグから輪切りにした人参を取り出し、それをクーちゃんの口元へ。クーちゃんは嬉しそうにパクっと人参を食べました。うまうま〜と言ってます、たぶん。
王妃様や王弟殿下ご夫妻のみならず、おつきの騎士さん達も驚いたように目を見開いています。私は飛越を回収すると、クーちゃんに手綱をつけて皆さんの正面へと移動。そして
「ホースショーのまねごとを、ごらんにいれます」
と挨拶しました。私が一礼して手綱を引くと、クーちゃんも頭を下げて一礼。そこから
「はい、クーちゃん。たっちー」
と言えば、クーちゃんは前足を上げ後ろ足だけで立ち上がる。ポヨポヨと後ろ足で立ったあとは
「クーちゃん、ごろ〜ん」
と、その場にクーちゃんを横たえさせる。そして、クーちゃんの首筋を撫でてヨシヨシしたところで今度は
「クーちゃん、おっきー」
と声をかける。クーちゃんは私の声に、足を投げ出して寝ている状態から起き上がる。私はマジックバッグから木箱を取り出しその上に乗ると、クーちゃんに目の前まで来てもらい、その背に手を置き “えい!” とばかりにクーちゃんに乗るのだ。
通常の乗馬スタイルになった私は、右の手綱を引きクーちゃんに指示を出す。さぁ皆様、よ〜くご覧あれ!
「クーちゃん、みぎー」
するとクーちゃんは右側に横歩き。そして左の手綱を引き
「クーちゃん、ひだりー」
と言うと、今度は左側に横歩き。
「クーちゃん、バックー」
手綱をグッと引き両足に力を入れると、クーちゃんは前を向いたまま後退。“あぁ〜、クーちゃん上手ー♪” 一人ニマニマしながらクーちゃんを前に歩かせ、元の位置に。
私はクーちゃんにしがみつきながら、ズルズルと背中から下りると
「はい、クーちゃん。みんなにバイバイー」
と声をかけ、自分も手を左右に振ってバイバイの真似をする。それに合わせるようにクーちゃんも片方の前足をあげ、前から後ろに何度も引きバイバイーの真似。決して “なんかちょうだ〜い” の、前掻ではない。
「ごらんいただき、ありがとうございました」
私が深く一礼しながらクーちゃんの手綱を引くと、クーちゃんも首を深く下げ一礼。パチパチパチ
「素晴らしいわ、これがホースショーなのね!」
「誠に!」
王妃様や王弟殿下ご夫妻に拍手をいただきました! でも、これはあくまでも真似事なんです。明日から行われるホースショーのポニーは80センチの飛越も飛べるし、鞍を置いてない裸馬に乗っての演技は馬の背に立って指示を出すなど、さまざまなことができるのだ。私の、見ている間に一緒にやってみた程度の演技とは、天と地ほど違うのですよ!
「障害馬術とクロスカントリーは、どのような事をするのです」
王妃様が質問されています。障害馬術は一番高い飛越は垂直障害の160センチ、ほかにも垂直障害を二つ置いて幅を作ったオクサー障害、連続して障害を置くコンビネーション障害、穴に水が張ってある水濠障害などを順番に飛んでいきます。障害物の落下や不従順などのミスなく早くゴールするこが求められる競技なのです。
クロスカントリーは自然に近いコースに竹柵や丸太、水濠や池などバリエーションに富んだボリュームのある障害物を人馬一体となって駆け抜ける、人と馬の信頼関係とテクニックそして勇気が必要な競技なのだ。クロスカントリーで使われる障害は固定障害なので危険が伴うのです。一生懸命説明していると
「それは、我が国の軍馬達でもできるかしら」
と、聞かれた。王妃様は、何も軍馬を強くしようと言うわけじゃありません。七年前まで戦をしていたこの国では、元軍馬達の行き場がなく処分されていることもあるのだそうです。
この国の軍馬は、フリージアン達よりもさらに馬体が大きい。前世の日本にいた “ばん馬” よりは小さいが、隣国も含めこの辺では一番大きいのです。戦が終わった今、厄介者のような扱いを受けている一部の軍馬の先行きに王妃様は心を痛めているらしい。
ふむ、私は両手を組んで考える。どうだろう、ばん馬は温厚でおとなしく力持ちだった。その馬体に似合うように、気は優しくて力持ちだったわけだ。この国の軍馬も馬体に似合って気は優しくて力持ちなら、ホースセラピーにも使えるかも知れない。大きなお馬さんの、団体のホースショーも素敵かも! ばん馬みたいに、ソリを引くレースもやってみる?
王妃様は、“街びらき” の間はコテージにいるらしいので、牧場を見ていただこう。牧場の横には騎手、厩務員、獣医の専門学校もある。実は、隣国の競馬の若手騎手の人達も、この学校で基礎を学んでいたりする。ちなみに、先生の半分は隣国のクンルダントさんからお借りしてるけど、教科書はあっちの世界の本を使っているからね!
さて、お子様な私は一足先にお屋敷に戻ることに。クーちゃんに乗って帰りまーす。
翌朝、いつものように羊のサフォとスライムのスィリーに起こされ目覚めます。この二年でサフォとスィリーはずいぶん大きくなりました。
ダンジョンにいるドロップスライムやレインボウシープよりは小さいけど、今はベッドではなく部屋の一角に置かれた “魔物をダメにするクッション” の上で寝ていますよ。
ピーノ料理長が作ってくれた朝食を食べて庭園の奥、葡萄畑と柿畑の先にあるナラの木に向かいます。二年前、突然出てきたドングリの小さな葉は、あれよあれよと言う間に大きくなって、今では信じられないことに木の周りを子供が2人で手を繋いでやっと届くくらいの大きさになっているのですよ!
私はそんなナラの木に手を合わせ
「やっとまちびらきです。きょういちにち、がんばってきます!」
と気合いを入れて、クーちゃんに乗って街に行くのです。
街の中央広場には、たくさんの領民達。役所の窓には、王妃様と王弟殿下ご夫妻の姿も見えます。役所の横の舞台には、今朝地下のトロッコを使ってやってきた村の村長さんと冒険者ギルド、商業ギルド、医療ギルドのギルドマスターと、騎士団総長、自警団の代表が座っています。中央にはお祖父様。
お祖父様の “街びらき” 宣言と共に時計台の鐘がなり、その鐘の音を合図にすべてのお店やギルドが開店し、この街の入り口の門が開くのです。門は二つありそれぞれにタブレットのような物が置いてあます。そこにギルドカードと片手を置き、問題がなければ街に入ることができます。
ギルドカードを持っていない人は、こちらが用意しているネームカードに住所、氏名、年齢を記入。そこに血を一滴落として手を乗せればOK、お金は要りません。門を入った所にある観光案内所で、この領地のパンフレットをもらって入ればいいのです。
そして、同じくしてダンジョンの入り口も二年ぶりに開きますよ。この二年で魔物さん達の大きさも元に戻り、二年分貯めこんだ魔素で作られた魔石と魔物さん達の毛や羽で、大量の魔物さん達の分身が作られました。街びらき期間中は、サービスでレアドロップを多めに出してくれるそうですよ!
力を使い果たし、バスケットボールくらいの大きさから普通のハリネズミサイズになったダンジョンマスターは、やっとバレーボールくらいの大きさまで復活しました。まだ元の大きさじゃないけど、チートは使えます。
ダンジョンマスターの力で足りない分は、黒竜のクロちゃんと地竜のチーちゃんが手伝ってくれるから大丈夫。クロちゃんとチーちゃんは時々自分達が住んでいた場所に様子を見に帰るけど、ほぼこっちにいます。
さて、時間がきたようです。お祖父様が立ち上がり “街びらき” の挨拶が始まりました。そして
「今日めでたく王妃様、王弟殿下をお迎えし、街びらきをむかえることができた。皆で力を合わせ、よい街を作って行こう。今より、門を開く!」
お祖父様の片手が上がり、ガーン、ゴーンと時計台の鐘がなる。二つの門の扉が開き、たくさんの人達が入ってくる。
さぁ、私も働こう!
次回からエピローグです!
次回投稿は11月30日か12月1日が目標です。更新時間は遅れるかもしれません。




