第4部 理想郷の復興《1》
「グルナ!!」
「おかぁしゃま!」
お母様が、船の上から手を振っていますよ。マジですか! スタンピードから三日目の朝、もう船着き場に隣国からの船が着くとか、びっくりだよ! 皆、隣国から帰ってくるの早くない?
今は仮設住宅造りの真っ最中。この領地に残っていた皆には何とかテントで寝起きしてもらってるけど、隣国に行ってた皆も帰ってきたらどうなるの? テント、全然足りないよ!
一昨日お祖父様から聞いた話だと、しばらくは皆隣国のクンルダントさんの所にいるんじゃなかったの? 領民達が早く帰ってこれるよう、急いで仮設住宅を造ろうって皆で話し合ったよね? どうするの?
「おちぃさゃま」
「あぁ、そうだな。何とかしなければ、皆寝る所もない」
もうびっくりしすぎて、ちゃんとした言葉も出てこないよ! ムム、落ち着け私。お祖父様が船着き場に近づいて行く。私は、近くにいる皆に向かって叫ぶの。
「とりあえじゅ、びょうきのひとをりょうに。おとしよりと、こどものいるおうちのひとを、かんちぇーしたミニログハウスに。しようにんは、みんなおやしきにいどうでしゅ!」
言ったよ、言いきったよ! こんな長い言葉を。そして
「あと、いしょいでミニログハウスと、このりのテントをつくるでしゅ!」
言ってやりましたとも!
「グルナ!!」
お母様は船着き場からの階段をかけ登り、私を抱き上げました。うちの船着き場は、斜面の少し下にあるからね。
「大丈夫だった、怪我してない。怖かったでしょう」
「だいじょーぶ。ぐうな、げんきいっぱい!」
ふぉ。お母様の方が慌ててるから、私はちょっと冷静になれたみたい。ちゃんとお喋り出来てるよ。お母様は私をぎゅーと抱き締め、頬と頬をスリスリスリ。心配かけちゃったね、お母様。
「グルナ!!」
「おばぁしゃま!」
う? 何だかお祖母様が、知らない人を一杯連れて戻ってきましたよ。
「さぁ、いらっしゃい。怖かったわね」
お祖母様が両手を差し出したので、お母様の腕の中からお祖母様の腕の中に移動です。
「元気そうでよかった」
お祖母様はそう呟くと、私をぎゅーとしてからゆらゆらとんとんと、絶妙なテンポであやしてくれます。“ま、待って〜お祖母様! それ、すぐ寝ちゃうやつだから!” 密かにそう思っていると
「グリシーヌ殿、紹介していただけるかな」
ふぉ、お祖母様に声をかけたのはアユじーじよりは年下そうだけど、お祖父様やお祖母様よりは年上の感じの人。白いお髭が印象的なの。
「アミケッソ様、失礼いたしました。グルナ、こちらは隣国のクンルダントの前当主、アミケッソ・クンルダント様。後ろにいらっしゃるのが、コルポールティス商会の前会頭フィーディさんとご子息のフィーロさん。他の方達は、フィーディさんが連れてきてくれた大工さん達よ」
おー、大河を挟んでお隣のクンルダントさんと、工場の持ち主だったコルポールティス商会さんですよ! お世話になりっぱなしの皆さんです。
「やぁ、グルナ。」
私の頭を撫で撫でしてくれているアミケッソさんは、七年前に長男さんに家督を譲り、今は別邸で奥様と暮らしているらしい。
「コーメンツ家とクンルダント家は親戚筋だ。私の叔母が、ピオニロ様に嫁いだんだよ。私が幼い頃には、ピオニロ様に剣を習ったものだ。ぜひとも “じーじ” と呼んでおくれ」
「じーじ?」
コテンと首を傾けて聞けば、“うんうん” と嬉しそうに頷いて、私を抱っこしてくれた。
「初めましてお嬢様。コルポールティス商会から参りました、フィーディと息子のフィーロです。よろしくお願いいたします」
なんと! 3歳児の私にまで丁寧に御挨拶してくれる、コルポールティス商会の前会頭フィーディさん。お祖父様よりは年上だけど、アミケッソさんよりは年下っぽい。ここは一つ、フィーディさんにお願いしておかなければ。
「フィーデさん、このりょーちにとーち、ちてくだしゃい!!」
ふぇ、とーち。なんか、凍死みたいな言い方になっちゃったけど、凍死じゃなくて投資だよ。
「投資、でございますか?」
「あい! とーち」
幼児の言うことにも “後でお話をお聞きしましょう” と、返事をしてくれるフィーディさん。優しい、だけど
「ふぉぉぉぉ!!」
私は、それを見た瞬間叫びましたとも!! 一番最後に船から下りてきたそれ。
あまりの神々しさに、後光がさして見えたよ! あぁー、クラクラします。前世の世界で、神話の中の馬、神秘的な馬と言われてたそれ。
首は太くて短め、胴も幅広で筋肉質。短くて力強く太い四肢。豊かなたてがみと尾、蹄毛は羽飾りと表現されるほどふさふさ。そしてそのお髭。そう、お髭!
ぷにぷにのお鼻の下にある、立派な八の字の形をしたお髭。前世日本人の私には、画像で見るだけで実際に見ることはなかったお馬さん。ジプシーバナーだよ!!
「私の愛馬、ファイロだよ」
「ファイロ!!」
アミケッソさんの愛馬なんだって! 白と黒の斑のお馬さん、ぜひとも私をその背中に乗せて下さいな!
「乗ってみるかい」
「あい!」
その後、お屋敷までの道のりをファイロに乗せてもらって帰ったよ。うちのフリージアン達も大きくて安定感があって乗りやすいけど、ジプシーバナーも安定感があって乗りやすかった。学習能力が高く、調教しやすい性質だそうで、前世の話で聞いていたジプシーバナーと同じだなぁと思った。
お屋敷の中では、お母様やお祖母様が私やお祖父様のことが心配で早く帰りたいと言ったことや、領民達も早く帰って復興の手伝いがしたいと申し出たこともあって、今朝船を出したことなどを聞いた。
アミケッソさんとフィーディさんは、今は隠居して自由気ままな身だから何か手伝えることがあればと、息子さんや大工さんを連れて一緒にきてくれたんですって。
冒険者さん達を送ってきてくれただけでもありがたいのに、今度は大工さんまで。隣国には足を向けて寝られないね!
「これは、変わった食事だな」
「初めて見る料理です」
アミケッソさんとフィーディさんが呟いていますよ。今日は、カツサンドなのです! と言うか、ここ数日のお昼はサンドイッチなの!
今は仮設住宅造りで忙しいから、皆が簡単に食事が出来るようにサンドイッチにしてるの。もちろん、全員が同じものを食べているよ。
食パンの金型はあっちの世界で買ってきたものだから、こちらの世界の人は食パンを初めて食べるんだよね。
「ぐうなのおしゅしゅめは、あつやきたまごのサンドイッチでしゅ!」
今日はないけどねー。でも、カツサンドも美味しいから食べてみて! モグモグ、今日も料理長のお料理は最高です!
「父さん、このパンふわふわですよ!」
フィーロさんは、ふわふわの食パンがお気に召したようですよ。よかったです! お話を聞く所によると、フィーディさんには4人の子供さんがいて、フィーロさんは末っ子なんだって。
上に商会の会頭を継いだ長男のお兄さんと、取引先に嫁いでいるお姉さんが2人いるそう。フィーロさんは遅くに出来たお子さんらしく、まだまだ見習いの身らしいよ。
昼食後はお祖父様と騎士団副総長が、アミケッソさん達隣国の皆さんを連れて、仮設住宅やテント、焼け野原の視察に行くらしい。
それから帰ってきて、皆で話し合いをするらしいから、私も参加しようっと。その前に、ぺルルに預けてある “隠し財産” をもらっておかなくっちゃ!
スタンピード前の忙しい時間の合間をぬって、キャメリアやぺルルに手伝ってもらって作り上げた隠し財産。いい働きをしてくれるといいなぁ。
お祖父様やお祖母様、お母様は忙しくなると思うの。でも、家族皆で頑張るの!!
一口メモ
エスペラント語 → 日本語
アミケッソ → 友情
フィーディ → 信頼
フィーロ → 息子
ファイロ → 火
次回投稿は29日か30日が目標です。




