第3部 焼け野原の理想郷《3》
「なるほど、かなりの金額が必要になるな」
“ふむ” と、頷きながら騎士団・総長のカヴァリラーロさんが言った。その言葉を聞いて、事務総監のガルディストさん、外務総監のヴォヤガントさん、医務総監のクラティストさん、財務総監のプロプヤードさんも頷く。
いやいや皆さん、先立つものが無いのはもちろん気になるところだけど、目の前の大きなホワイトボードは気になりませんか? この陣頭指揮のテントに、ダンジョンマスターの部屋にあるはずのホワイトボードが持ち込まれた時はびっくりしたよ!
この、こっちの世界にない分厚いファイルを持ってきたお前が言うなって……、申し訳ない。ごもっともです。まぁ、このお屋敷を守るために使った数々の道具を考えれば、今さらだよね。
ホワイトボードの横にはマージェさん、メティイストさん、チャルペンティストさんが立ち、分厚いファイルを持ちこれから造りたい街をホワイトボードに書きながら説明してくれている。
時々、自警団のアルメーオさんや冒険者ギルドのソルドゥーロさんや商人ギルドのサジューロさんの質問が入る。
「ツーバイフォー、ですか」
サジューロさんが呟く。そう、家の基本的な造りは2×4に決めた。
家の見た目はオススメがあるけど、造りはもう決めていて角材や合板を仮設住宅と一緒に大量に作っている。 2×4工法と呼ばれる『木造枠組壁工法』は、均一サイズの角材と合板を接合して柱や梁の代わりに壁、床、天井、屋根部分を構成し、それらを組み合わせて箱状の空間を造っていく。
既製サイズの角材に合板を合わせて組み立てるという単純な工法だから、高度な技術は必要ないし早く出来上がる。地震や強風などの外力を面で受けとめ箱状の六面体で支えるため一般的に頑丈で、耐震、耐火、気密、断熱等の性能も高い。
結露などの問題は、角材や合板を虹色の魔石を溶かした大河の水でコーティングすればいい。魔石をセットすれば、すぐに冷暖房完備になるし。こっちの世界では、この家最強じゃない?
「たんじょんまちゅたーの、いちばんのオススメでしゅ!」
こっちの世界にはない工法だから、ダンジョンマスターのオススメであることを強調しておきますとも!
その他、様々なことをホワイトボードを使って説明し、御歴々に理解納得していただくの。
「クーちゃん、いーこ♪」
「ぷる♪」
クーちゃんに声をかければ、いいお返事をしてくれますよ。クーちゃんは、本当に可愛いです!
私は今クーちゃんに乗って、お祖父様や御歴々達と、焼け野原になった街を見て回っている。昨日、冒険者や自警団、騎士団の人達が領内の確認をしてくれていたし、お屋敷から見える風景で何にもないのはわかっていたけど、まぁ見事に何もない!!
これなら、すぐにお家を建てられるよ。領地の建物はすべて領主が建て領民に貸し出す形だから、何をどう造るかは領主の思いのまま。
私のオススメは、お屋敷は領地の北にあるから北西から西にかけて葡萄畑や田畑、西から南西にかけて酪農と馬の牧場、南に森、南東から東にかけて街、東の東北側に学校、東北に工場なの!
騎士団には、いざという時のための隠し財産があるらしく、それをどこにどう使うかなどを現地を見ながら話し合っているようです。しかも、お屋敷にもあったよ! 隠し財産!
曽祖父が、これだけは何があっても手をつけてはならないと言っていた物。苦しい生活の中で、自分達の服や装飾品は売り払っても守りぬいた物。“未曾有の事態に陥った時にのみ使いなさい” と、曽祖父が言っていた物。
すごいよ、すごいよ曽祖父。騎士団の隠し財産も、曽祖父の命令で作られていたらしいからまたすごい。私も出すよ! ダンジョンでもらった大きな魔石とか魔石とか、魔石がいっぱい。それに、人には見せられないくらいの、カーバンクルがくれたデマントイドガーネットもあるよ。でもその他に、とっておきの物があるのだ!
「それでも、どこまで造り上げられるか」
と、足りない予算に頭を痛めるお祖父様に、私は胸を張って言いましたとも!
「ぐうなもあるの、かくしざいさん!」
うん、ちゃんと言えてるよ。素晴らしい!
「ぺルルにあずけた、とっておきのれちん!」
“ふぇ、れちんじゃないよ。れじんだよ” と、一人悲しいツッコミをいれる。
騎士団の御歴々が、生暖かい目で見ていますよ。“3歳児の隠し財産ってどんな玩具だよ” みたいな目線。いいもんいいもん、気にしないー! マージェさん達だけは、期待に目をキラーンと光らせたけど、それも気にしないー。
「それは……」
「みてのおたのしみでしゅ!」
私はお祖父様に、ちょっとだけ悪い笑顔を見せた。
焼け野原の視察を終えた私は、ポシェットにたくさんのお料理を入れて、やってきましたダンジョンマスターの部屋。
「くまさん!」
少し小さくなった熊さんが、それでも私を抱き上げ “たかいたかい” をしてくれた。皆、本当に小さくなった。私は “ありがとう” の感謝を込めて、皆にぎゅーと抱きついたよ。天使達はギリギリまで力を使いきったようで、一週間は起きてこないらしい。あんな小さな身体で頑張ってくれたのだ。私は、天使達が大好きな乳酸菌飲料を、いっぱいプレゼントしておいた。
「あれ、どらごんさんは?」
白鳥より大きなサイズの黒竜さんがいない。はて?と首を傾けていると、ダンジョンマスターが一つの扉を指差した。あれ、扉が一個増えてる。
開けてみると “ワオッ!” 周囲が大理石でできた部屋に、小さな白鳥サイズになった黒竜さんが寝てるよ! いや、埋もれているよ! 人をダメにするクッションに!
このクッション、お姉さんがダンジョンマスターにプレゼントしたのが始まりで、一度座れば魔物までダメにするのさ。これに座った魔物さん達が皆欲しいと言うので、予備も含め大小様々な大きさを数個ずつ買ってプレゼントしたんだよね。
人をダメにするクッション、黒竜までダメにしたのか。そっと扉を閉めたあと、リビングのテーブルの上に預かってきた料理をいっぱい出していく。
昨日、自らをかえりみずお屋敷を守ってくれた魔物さん達に皆感謝している。この領地では、たくさんの人がダンジョンにお世話になっているからね。
そのダンジョンの魔物さん達が小さくなってしまったことは、皆にはショックだったらしく、たくさん食べて大きくなってもらおうと “自分達は食べなくていいので、ダンジョンの魔物達に” と言う人達が続出。
魔物さん達は、基本ダンジョン内の魔素を吸収して生きている。人間が食べる料理は嗜好品みたいな物。食べなくても影響はない。でも、皆の誠意だからいっぱい持ってきたよ。
お屋敷にいる領民の皆は、食べ物がないだろから “自分達は食べなくてもダンジョンの魔物達に” って言ってくれたんだけど、食料の確保は十分にしてある。
お屋敷の庭の畑で収穫した野菜を中心に、隣国のコルポールティス商会からの収入は全部食べ物でもらっているし、この一ヶ月間あっちの世界の通販で買えるだけの食料は買ったし。通帳の残高、38円だったもんね。
「たんじょんまちゅたー、これね、あっちのこうきゅうちょくざいをつかったおりょうりなの!!」
うん、長文を言いきった! 今日持ってきた唐揚げはあっちの世界の高級地鶏を使ってるし、ハンバーグも超有名和牛と言う高級食材を使ってるんだよ。これは、私からのお礼なの。
「マジか!!」
ダンジョンマスターも、その高級ブランドに驚いていたよ。食べるの楽しみでしょ! 私も楽しみ♪
この一ヶ月間、あちらこちらから食材を集め、料理長達は料理を作りまくり、出来上がった物はマジックバッグに入れて行く作業を繰り返していた。食料の確保は十分なの!
その後、ハンバーグの匂いにつられて起きてきた黒竜さんにもお礼を言って、ダンジョンマスターには分厚いファイルの復興計画書を渡して、それについての話もして、ダンジョンを後にしました。
さぁ、明日も頑張ろうっと!
次回投稿は25日か26日が目標です。




