第3部 焼け野原の理想郷《2》
小高い丘の上に建つお屋敷からは、コーメンツの領地がよく見渡せる。お祖父様は誰もいない所で、何一つ残っていない焼け野原の領地を見つめてた。
「おじぃしゃま」
あっ、じが言えたよ! じが! ちょっと感動しつつ、お祖父様の隣に行く。
「グルナ、大丈夫か」
お祖父様は心配そうに、私を抱き上げてくれた。
「あい! ぐうな、けんき」
うん、相変わらずの一進一退。その内、げんきって言えるようになるはず。
「おちぃしゃまは」
“あっ、また元に戻ったー!” そんなことを思いつつ、お祖父様を見つめる。曽祖父やお祖父様が、領民達と共に造り上げてきた街はもいない。
見渡すかぎりのこの焼け野原は、お祖父様の目にはどう映っているだろうか。お祖父様は、また焼け野原に目をやり
「何も、なくなってしまった」
と呟き、眉を曇らせた。いかに痩せこけ荒れ果てた大地だったとしても、無くしたものの大きさは計り知れない。でも、それでも
「いっちょ、しゅがしゅがしい」
私は、あえてそう言った。
「グルナ」
だってね、お祖父様。“いっそ、清々しい” そうでも思わなくっちゃ、やってられない。私ね、昨日泣きつかれて達観したの。たぶん……。
曽祖父やお祖父様や領民達の、苦労や思い出や喜怒哀楽のすべてがつまった街を無くすことが、どれだけ辛く悲しいことか。私だってこっちにきて数ヶ月だけど、この街の思い出はたくさんある。
でもね、お祖父様。昨日あれだけ泣いたんだから、今日からは前だけを向いて進むの! 決めたの!
目の前の、焼け野原と天の原の二色だけになった光景を見つめ
「あい!」
私は元気一杯、お祖父様に重〜いファイルを差し出したましたとも! これで、どうよ!!
私をおろしファイルを受け取ったお祖父様は、中をパラパラと見て目を見開いた。
「こ、これは……」
「ふっこーの、きかくちょでしゅ!」
まぁ、復興の企画書って言っても、色々な中世ヨーロッパの街並みや、家や道や下水道や地下にいたるまで、様々な作り方や用途をパソコンからダウンロードしたり、本からコピーしたやつをまとめてみただけだけど。
それでね、お祖父様! 私のオススメの街並みや家、道や下水道や地下は、付箋をつけている所だよ! 前世日本人らしく、防犯防災対策を第一に安心安全な街造りを考えてみたよ。近代的なやつじゃなく、この世界にあったやつ。
「そうだな、前に進まねば。父上が造り上げた街に負けない、新しい街を造ろう」
そう言って、お祖父様は私の頭を撫でてくれた。
お祖父様と手を繋いで工場があった場所に行くと、そこではすでに仮設住宅が次々と造られていた。パーツごとに、ダンジョンマスターがチートで作り出してくれた、大きな長い箱みたいなやつで大量に作ったもの。
左側から適当に切った木や板を入れると、右側から設定してある大きさの幅と長さになった木材が出てくる箱なんだよ。初めて見た時は、もうびっくり。“チートかよ!” って、ツッコンダくらい。いや、チートなんだけど。
その木材は虹色の魔石を溶かした大河の水でコーティングされていて、仮設住宅の中に火の魔石、風の魔石、氷の魔石をセットすることで、エアコン完備のような住宅になる優れものなのだ。
木材運びには、お屋敷のフリージアン達が大活躍! ファターロからの魔物の襲来で厩まで守れなかったから、お屋敷の中に併設されて今は使われていなかった、昔馬達がいたスペースに避難していて皆無事だったからね。
私があっちの世界からミニログハウスを持って帰ってきたその日には、もうマージェさん達の手に渡り、次の日には同じものを造り初めていたから数は用意できてる。
仮設住宅の材料になる木も、どうせ魔物の襲来で近くにある森の半分は消えるだろうから、その分を切り倒して行って使った。
とは言え、仮設住宅が出来上がるまではテントで対応。お屋敷の周りの平たい土地には至るところにテントが設営されている。
12月に入り寒さがつのる中、あっちの世界で買った大型テントを、ダンジョンマスターのチートで作っていた錬金術の箱を使って大量複製。
テントを二枚重ねし、中のテントには虹色の魔石を溶かした大河の水をコーティング。そこに火と風と雫の魔石をセット。これで、適度に加湿されつつ暖かい風がテントの中一杯に広がる。
中は通路を挟んで布で仕切られた部屋が幾つかあり、段ボールベッドに厚さ3センチのマットレスがおかれ、そこに薄手のあったか毛布が一枚。サイズはすべてあっちの世界だから、こんなに縦長のベッドを見るのは皆初めて。
初めは皆???って感じだったらしいけど、これからこの領地を復興させるため、皆には働いてもらわなくちゃいけないんだから、しっかり寝て英気を養ってもらわなければ。一度このベッドで寝てもらえば、もうこの快適なベッドの虜さ。
テントは女性用一つ、男性用一つ、家族用 三つ、自警団用一つ、騎士団用二つ。別に冒険者用のテントが男女別で一つずつ。
最初は、お屋敷は広くて一杯部屋があるんだから、お屋敷の部屋を開放すればテントの数は少なくていいかも、と思っていたけど……。このお屋敷は元は王族のものだったから、領民を泊めるはちょっと問題があるみたいなの。何気に面倒臭いのよ、このお屋敷。
だから、とりあえず騎士団の上層部と寮が壊れた使用人はお屋敷に寝泊まり、メイドさん達は寮、それ以外はテントに決定。もともと王族がここにいた頃は、地下や屋根裏に使用人達は寝泊まりしていたらしいからね。
その他に食堂用テント、男女別にお風呂用のテント、陣頭指揮をとるテントを張って、仮設住宅が出来上がるまでの急場をしのぐの。
お祖父様と手を繋いで陣頭指揮用のテントに行くと、御歴々が揃っていたよ! 騎士団の総長カヴァリラーロさん、事務総監のガルディストさん、外務総監のヴォヤガントさん、医務総監のクラティストさん、財務総監のプロプヤードさん。
この騎士団の役職は、曽祖父が王室師団長をしていた時の王都の騎士団と同じ布陣らしい。この領地に何かあった時必ず役に立つから、この布陣は変えてはならないと曽祖父は言っていたらしい。全員曽祖父の部下だった人の二代目なんだよ。
そして自警団の団長のアルメーオさん、冒険者ギルドのソルドゥーロさん、商人ギルドのサジューロさん。
錬金術研究所からは所長グリモアさん、副所長で息子のマージェさん、設計担当のメティイストさん、建築担当のチャルペンティストさんです。
私はお祖父様から離れると、マージェさんの所にトコトコ走りより、ニッコリ笑顔で分厚いファイルを差し出したよ。それをつい受け取ってしまったマージェさんは中をパラパラっと見て
「お嬢様、今笑顔でこっちに丸投げしましたよね」
と、言った。えぇー、だってしょうがないよね。マージェさんとメティイストさんとチャルペンティストさんはダンジョンマスターの部屋のテレビで見たよね、中世ヨーロッパの街並み特集とか世界遺産特集とか。この分厚い企画書を3歳児が説明するのは大変なの。
「ぐうなのおしゅしゅめは、ふちぇんのところなの!」
“えっへん”と胸を張った私をみてから、マージェさんは企画書の付箋がつけられたページを見る。
「案外、地味な方に行きましたね」
“そうねー” マージェさんはカラフルに塗られたお家の街並みとか華やかで素敵って言ってたよね。でも、色をゆっくり塗っている暇はないと思うの。だから、色つきは屋根とかドアとか一部だけで、家の形は揃えたい。
この領地から、いつかダンジョンがなくなっても、あっちの世界のヨーロッパの街並みみたいに、景観が観光につながるようにしておきたい。今はわからなくても、将来今から造る街並みがこの領地の収入源になるように。
「じゃ、よろちく。アユじーじ!」
私はマージェさんに後をお任せすると、親子三代に渡ってこの場所にきていたマージェさんのお祖父様、アユじーじの所に行ってお話に参加しましたよ!
一口メモ
エスペラント語 → 日本語
カヴァリラーロ → 騎士団
ガルディスト → 番人
ヴォヤガント → 旅人
クラティスト → 医師
プロプヤード →財産
アルメーオ → 陸軍
ソルドゥーロ → 傭兵
サジューロ → 賢者
グリモア → 魔術書
次回投稿は21日か22日が目標です。




