第3部 焼け野原の理想郷《1》
ゆっくり、ゆっくりと飛んでいるの。真っ青な空、わたあめみたいなフワフワの雲。眼下に見える、山の青々とした緑。
“あぁ、夢だな” と思った。今いるこっちの世界じゃなく、お姉さんがいるあっちの世界。
まるでドローンで撮影したみたいに見えるソレは、とっても綺麗。あっ、前行った遊園地! 観覧車にジェットコースター、お隣のプール。
あったかな日差しに包まれながら、見る光景。夏祭りに行った神社発見!! 空の上から手を合わせ、拝んでおこうっと。
あっ、よく行ってたスーパーだ! そしてホームセンターにファミレス。上から見る100均のお店! 山に続く道。
あっちの世界の、生命に満ち溢れた山の緑。“好きだな” と、思う。
“あれは、山神様?” 深い山の木々の中で、ひときわ大きな木。太陽の光を浴びて、枝葉が揺れいる。“また、おいで” どこかで、あの日と同じ声を聞いた気がした。
山の中腹にポツポツとあるお家。二階建ての日本家屋は、お姉さんのお家!! お姉さんが、洗濯したての真っ白なシーツを干している。
『おねぇーしゃーん!!』、空の上から叫んでみた! ふと、お姉さんがこっちを見て、微笑んだ気がした。
“あぁー、なんて幸せな夢”、そう思ったの。
コーメンツ辺境伯領から一番近い、ファターロのダンジョン崩壊。そこから放出された、何万、何十万かと言われる黒檀色をした魔物達が、コーメンツ辺境伯領の横を流れる大河に押し寄せてきた。
崩壊したダンジョンの魔物は必ず水場を目指す、それは自然の摂理。ファターロから一番近い水場、大河を目指し、そこに至るまでの道のりすべてを壊滅させやってくる。そして魔物は、大河の中に消え去る。
お姉さんのお家のパソコンから、買える物はすべて買って準備した。水堀、ウォータースクリーン、作れる物は何でも作った。
そして、コーメンツ辺境伯領は壊滅したの。お屋敷、その一つだけを残して。
お屋敷が残ったのは、命懸けで戦ってくれた冒険者、自警団、騎士団の兵士達、そしてコーメンツ辺境伯領のダンジョンの魔物さん達、ダンジョンマスターが呼んでくれた黒竜さんのおかげ。
まぁその後、あっちの世界への扉がある納屋が瓦礫と化していて、ギャン泣きしたわけだけども。しかも、泣きながら納屋の前で寝落ちしたし。
皆に、心配かけました!!
あぁ、視界がぼやける。目が覚めるんだな、と思った。幸せな夢、冷えていた心がぽかぽかあったかくなるような、そんな夢だった。
パチリ、と目が覚めましたとも! 不思議と、悲しくはなかった。自然と両手を胸の上あたりで重ね合わせ、今一度目を閉じる。
うん、あったかい。幸せな夢も見た。今日もグルナは元気です!!
「きゅぴ……」
「ヴェー……」
なにやら、心配そうに近づいてくるスィリーとサフォ。
「おはよーごじゃいましゅ!」
そう言って、私は元気に上半身を起こした。そして、やってきたスィリーとサフォを抱き締め
「だいじょーぶ! ぐうな、げんき!」
と声に出して、
「ふぉぉぉぉ!!」
自分でびっくりして、目を見開いたよ。ちょっと皆さん! 今、聞きました!! 私は今一度、ゆっくりと口を開いてみる。
「た…、た…」
私の真似をするように、スィリーとサフォも “きゅ” とか “ヴェ” とか言ってるけど、もう一度やってみるの。
「た…、たいちょうぶ」
違ーう!! 私さっき、だいじょーぶって言えてたよね! 言ったよね! う〜ん、じゃ
「け…、け…、けんき」
うぇーん、さっきげんきって言えたよね。私は、さしすせそと濁音が上手く言えないんだよ。3歳になったから、もうそろそろ上手く言えるようになってもよくない?
「たい…ちょうぶ……、けん…き……」
“はぁ…” やっぱりダメか。ポンコツ感がでてるよ。まぁ、いいや。一度は言えたんだから、きっとまた言える!
私は気を取り直し、ポンと立ち上がった。
「こちょう、うこん、きょいこう、おはよーごじゃいましゅ!」
今日も元気にピンク、イエロー、グリーンのユニコーンのぬいぐるみに挨拶をして、ベッドから降りる。そして、この部屋の見守り担当の大きな大きな馬のぬいぐるみ、くーちゃんにギューと抱きついて
「くーちゃん、おはよーごじゃいましゅ!」
と言うと、ポシェトを片手に持って、トコトコ歩いて窓辺の机に行く。机の上にはたくさんのフォトフレーム。
遊園地に行った時に撮った写真や、花火を見た時に撮った写真が並んでる。皆のたくさんの笑顔を取り囲むように、フォトフレームの周りは100均で買ったデコパーツや、山で拾ったどんぐりが飾り付けられてるの。
手作り感満載の、お気に入りのフォトフレームの後ろにある本立てから、分厚いファイルを三冊取り出してポシェトへ。
外から色々な音が聞こえる。焼け野原になったコーメンツ辺境伯領には、やることが山ほどある。じっとしている場合じゃない。
「おなかすいたの。ひとりでおきがえするの!」
“ふぉ! ハッキリ言えたような気がするよ!” 私は、ニマニマしながら着替えを終わらせ部屋を出た。
食堂へ行く道すがら、会う人会う人が “お嬢様、大丈夫でございますか” と、声をかけてくる。昨日ギャン泣きしたことで、皆に心配をかけたなぁ、と思う。
でも、基本ポジティブな私は、昨日ギャン泣きしたことで、今日は吹っ切れていると思うんだ。
食堂にたどり着くと、テーブルの端でリブロが絵を描いていた。私に気がつくと、直ぐに駆け寄ってきて、やっぱり “大丈夫?” って心配されたよ。
リブロの話によると、私がギャン泣きして眠ったあとも大変だったらしい。冒険者や自警団、騎士団の皆の無事の確認。
ファターロからの魔物達はほとんど黒竜さんのブレスで跡形もなかったけど、魔物はドロップ品を落とすものだから、ドロップ品がないかの確認もしたんだって。
その後全員の食事もあって、ダンジョンの魔物さん達もお祖父様が用意した部屋で料理長の料理を食べたらしいよ! その時、リブロはお世話係の1人として働いたんだって。
で、その時に黒竜さんがハンバーグをすごく気に入って、たくさん食べてたとか。本当はスィリーやサフォ、蜂コンビのパステルグリーンくんと薄紫ちゃんと、ダンジョンでお留守番組だった天使達が、勝手にダンジョンから外に出て行ってしまって、お留守番組がダンジョンの中で右往左往してたとか。
相変わらず自由人だね、天使達! でもそのおかげで、皆が天使達の不思議な力のおかげで助かったんだけどね。ダンジョンマスターに怒られてないといいけどな、天使達。
「お待たせいたしました、お嬢様」
ノワイエが、サラダとスープとサンドイッチを持ってきてくれました。わぁ〜い、私の大好きな厚焼き玉子のサンドイッチ♪
“もぐもぐ、ごっくん。おいちーぃ!” じゃなかった、“おいしーい”。
ノワイエに聞いたところ、お祖父様は朝早くからお屋敷の外で陣頭指揮をとっているらしい。キャメリアや若い使用人達も、領民のお世話や外の後片付けに忙しくしていると。確かに、庭園も半分を残して、あとは見る影も無いからね。
「ごちそーさまでした!」
“ふぉ、言えた!” ちょっと大人になったような気がしましゅ! すぐ元に戻るけどね!
さぁ、分厚いファイルを持ってお祖父様の所に行こうっと。この焼け野原になったコーメンツ辺境伯領を、どう建て直すのか。
「ぷれじぇんでしゅ!」
資料を集めたファイルでプレゼンするぞー! おー!!
領民が、安心して暮らせる土地。皆が、笑って暮らせるような街。そんなコーメンツ辺境伯領を目指して、皆で前を向いて進むのだ。
次回投稿は17日か18日が目標です。




