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異世界転生なのです、お姉さん!  作者: 乃平 悠鼓
第3章
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第2部 理想郷の崩壊《3》

やっとこれで、試練本番が終わります。できるだけ暗くならないよいな文面にしたつもりですが、最後が少しだけ悲しくなっております。(ToT)

 あまりに鋭い光が怖くて、その場に(うずくま)った。私の手を掴むリブロの指が震えている。


「ふぇ……」


 昼間なのに暗くて、怪獣の咆哮(ほうこう)に空間が震え、光が眩しくて、思わず泣きそうになった。でも


「来てくれたか!!」


 そのダンジョンマスターの言葉に、そっと窓の外を見つめる。


 ……何も、……なかった。


 迫りくる黒檀(こくたん)色の魔物も、ウォータースクリーンも、真っ黒な空も何もなく、ただ綺麗な青空が見えたの。“あっ、あの雲。玩具(おもちゃ)の車みたい” なぜか暢気(のんき)に、そんなことを思ってしまった。

 でも、巨大化までして出て来てくれたダンジョンの魔物さん達、真っ赤な何か飛び出して、崩れ落ちていくパステルブルーの熊さんの姿が脳裏に浮かび


「く、くましゃん!!」


 今度こそ、お屋敷の外に向かって飛び出したの。


「あ……ぁ……ぁ……」


 そこにいたのは、(いた)る所を真っ赤に染め上げたダンジョンの魔物さん達。

 ミルキーオパール色のスライムも、虹色の羊も、パウダーピンクの兎も、イエローグリーンの鷹も、シアンブルーの鷲も、エンジェルスキンの梟も、金色のユニコーンも、レモンイエローの豹も、皆、皆、傷だらけで蹲っていた。

 高麗人参のようなマンドラゴは干からびて、オフホワイトの毛並みのカーバンクルまでが真っ赤に染まり、強くて優しい皆のリーダー・(マダー)色をした狼は横たわり、苦し気に息をしている。そしてパステルブルーの熊は、顔半分を真っ赤にして崩れ落ちていた。


「や……ぁ……だ……。」


 ぽてぽてと力なく近付き、皆の体を確かめるように触る。でも……、皆、皆、弱々しくて、今にも眠ってしまいそう。

 最後にたどり着いた熊さんは、ピクリとも動かず僅かな息づかいしかしてなかった。


「ふ…ぇ……、ふぇぇ……」


 あまりの光景に、大泣きしようかと思った、まさにその時。パタパタと、天使達が飛びながらやってきた。


「な、なんだ!」

「幼児が飛んでるぞ!」

「羽がある!」

「ま……魔物、なの……か」


 この世界は、私やダンジョンマスターがいた前世の世界とは違い “天使” なんて生き物は、想像の中にも存在していない。見たこともない生き物。

 いつもはカボチャパンツ一枚で飛び回っている天使達だけど、今日は私がデザインした、と言うか天使の絵にありがちな白いワンピースを着ているの。

 天使達は魔物さん達の近くまでくると、互いに向き合って両手を合わせた。すると、二人の間からキラキラした金色の光のつぶたくさんが現れて、雪が降るように辺りに降り注いだ。


「きえー」


 こんな惨状にも関わらず、それはとても綺麗で、怪我をした魔物さん達や、冒険者や自警団や騎士団の兵士達の上にも舞い落ちる。

 そして次の瞬間には、すべての傷が消え去り穏やかな寝息を繰り返す、少し小さくなった熊さんがいた。そう、大きなアメリカグマから、小ぶりな日本のツキノワグマくらいになってたよ! もう、びっくり! そして


「てんちたち!!」


 金色のつぶが消え去ると、力を使い果たしたように天使達の羽のパタパタが止まり、上から落ちてきた。


「ふ、ふぉ!」


 私は、両手を差し出しておろおろしましたとも! 私じゃ天使達を支えきれないから、つぶれるのがおちだけども!

 私が下でおろおろしていると、キャメリアとノワイエがササッとやってきて、落ちてくる天使達を抱きとめてくれました。


「ほ、ほぇ!」


 私は、キャメリアとノワイエに抱っこされた天使達を見て、驚いた。なぜかって、それはね天使達が小さくなってたから。その姿は、どう見ても1歳未満!


「皆、力を使い果たしたな」

「たんじょんまちゅたー」


 ダンジョンマスターの声に辺りを見回すけど、その姿は見えない。はて?と首を傾けていると、何か足に触った。ふと、自分の足元を見てみると


「ふぉぉぉぉ!!」


 “なんじゃ、こりゃーーー!!” と、叫ばなかった自分を誉めてやりたい。“あなたが一番小さくなってますよ!!”

 そこにいたのは、バスケットボールくらいの大きなハリネズミではなく、前世の世界のハリネズミカフェにいるような、普通サイズの小さなハリネズミだった。

 思わず地面にペタリと座り込み、両手を前についてマジマジとダンジョンマスターを見る。ダンジョンマスターは愛くるしいおめめをして、小さな片手をあげ “よぉ” と言った。

 “いやいや、よぉじゃありませんよダンジョンマスター!” と思った所で、またもや視界が黒く覆われた。


「アンブル! 味方だから安心しろ!!」


 と、ダンジョンマスターは叫ぶと


「お前も小さくなって降りてこい!!」


 と、空に向かって叫んだ。ダンジョンマスターの視線を追って空を見上げると、視界を覆うような黒い物体。

 なぜか、前世に見た怪獣王の映画と同じような、巨大なカメの怪獣映画を思い出した。“カメの怪獣が空を飛んでいたら、こんな感じかな?” と。

 “いやカメと違って、ぜんぜん丸いフォルムじゃないけども……” って、現実逃避してる場合じゃない!

 私の前、いやダンジョンマスターの前に、白鳥より少し大きなサイズになって降りてきた()()は、まさしく()()()()

 初めてダンジョンマスターの部屋に行った時、教えてもらったよ。ダンジョン内の魔素が塊となって、動物なんかの姿を持つことがあると。

 それらは巨大化し高い知能を持った、ファンタジー小説に出てくるような生き物になることが多いって。目の前のドラゴンがまさに()()だろう。


「久しぶりだな」

「ずいぶんと、小さくなったじゃないか」

「あぁ。この領地の守りと、お前に連絡をとるのとで、力はほぼ使いきった。」


 “後悔はない!” と、小さな胸を張りきっぱり言いきるダンジョンマスター。“そうか”と、上からダンジョンマスターを見下ろす黒い(ドラコン)


「それにしても、そこの幼子は私が怖くはないのか」


 と言われ、誰? 誰のこと? と辺りを見回し、“()()!!” と気づく。


「グルナは、()()()()()()()()


 とダンジョンマスターが言えば


「ほぉ」


 と、竜が私を見つめた。


「どうりで、竜を怖がらぬ」

「そう言うことだ。グルナ、こいつは黒竜(こくりゅう)。俺が呼んだ、まぁ、優しい(ドラコン)だ」

「やさちぃ、とらごん」


 私は、キラキラした目で竜を見ましたとも!! だって、竜だからね! ダンジョンマスターと黒竜の会話を聞いた所、黒竜はこの大陸から海を挟んで二つ先の国の山の上に住んでいるんだって。

 だけど数日前、ダンジョンマスターの心の叫びを聞きつけ、急いでやってきてくれたらしい。ありがとう、黒竜さん!

 そして、この領地を覆い尽くしていた魔物達を、そのブレスで消し去ってくれたんですって。すごいよ、黒竜さんのブレス!

 あの怪獣王によく似た咆哮は、ブレスを出す前の一声で、鋭い光の正体はブレスだったらしい。“この屋敷にいた魔物以外は、すべてブレスで焼き払ってやった” と、言ってた。マジですか!

 でも、ダンジョンマスターと黒竜さんの会話を横で聞いていて、私は “ハッ” と思い出した。


「な…や」


 私は急いで立ち上がり、お屋敷の裏側、納屋めがけて走り出した。

 水堀は、お屋敷の前から納屋の近くまで伸ばした。でも、ウォータースクリーンは用意できなかったの。

 だから納屋を頑丈な木で覆い、その上から大河の水にダンジョンマスターからもらった水晶(クリスタル)のさざれ石を溶かした水を、たくさんかけておいた。いや、それしかできなかった……。


「……ッ」


 私は、その場に崩れるようにへたり込んだ。だって、そこに納屋はなかったのだから。あったのは、黒檀色の魔物に踏みつけられ壊された、粉々に砕け散った木片だけ。


「ふぇ……」


 何もない…、もう…、何も……。あの、木々の緑が眩しかった日本の山の色合いも、咲き誇る満開の桜の木も、梅雨の紫陽花も、夏の花火も、赤い宝石のような紅葉も、みんな、みんな、もう見れない。


「ふ…ぇぇぇぇ……」


 100均のお店も、ファミレスも、ホームセンターも、スーパーも、遊園地も、プールも、神社も、もう行けない。


「ひっ…く……、ふぇぇ……」


 二階建て一軒家の、お姉さんのお(うち)の日本家屋(かおく)、お姉さんの車、物置。こちら世界から、あっちの世界にいく扉さへ、もう見えない。


「ふぇ……、ふぇ…ぇ…ぇぇ……」


 “グーちゃん!” いつもニッコリ笑顔で名前を呼んでくれたお姉さん、もう…会えない……。

 わかってた、わかってたから、扉を二重にして、しっかり鍵をかけた。山神様にも、お別れに行った。

 でも、でも、頭ではわかっていても、小さな心がギューーーっと締めつけられ、悲鳴をあげる。

 私は、両手で胸元を握りしめ “びぇーーーん! びぇーーーん!!” と、ただひたすら泣き続けた。

 あとから追い付いたダンジョンマスターが横にきて、私の足に手を置いて “よしよし” と撫で続けてくれたけど、それもわからなかった。

 その後ろで、起き上がった魔物さん達が心配そうに集まって見つめてくれていたけど、それにも気づかない。

 さらにその後ろでは、キャメリアとノワイエが天使を抱きかかえたまま涙ぐんで私を見つめ、リブロもスケッチブックを持ったまま心配そうに見つめていた。

 私は、ただただしゃくりあげながら、ひたすら泣き続ける。


 お祖父様が皆に指示を出し終え私の所にきてくれた時には、私は狼さんに埋もれて泣きながら眠っていた。


次回投稿は13日か14日が目標です。

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