3話 真剣勝負
「はい。楓。どうぞ」
言ってコロネがにっこりと私にパフェをすくったスプーンを差し出した。
はい。つまるところ、ベタな漫画でカップルがいちゃつくシーンのお口あ〜んです。
「え……」
固まる私。
あれから、場所を移動してちょっと洒落たカフェに移動した。
コロネにデートならどこに行くのか聞かれて、なんとなく思いついたのがここだったからだ。
正直デートなんてしたことのない私にはベタな少女漫画で行くようなデート場所しか思いつかない。
いや、それはいい。
てか、26歳だよ私。コロネだって見かけは30代だ。
それがお口あ〜んはないと思うの!?
コロネが美形なせいで、わりと注目を浴びてしまっているこの状況で、演技でもあ〜んとか!拷問すぎる。
どこのバカップルだよ!?
「コロネ、流石にこの歳でそれはないと思うんだけど!?」
と、私が顔を近づけ耳元で言えば
「すみません。こちらの世界の恋人同士の情報は魔王と猫様が持っていた漫画の知識しかありませんので。
それに……」
コロネが小声で言いつつ視線を向ける。つられて見やれば、まだいたよ叔母。
なんでだよ。なんでお前まだいるんだよ!?
いい加減諦めろや!!
漫画かよ!?頭悪いにもほどがあるだろ!?
「さぁ、どうぞ」
コロネがニコニコで言ってくる。くっそー絶対からかってる。
こんにゃろう大人の余裕みたいな表情みせやがって。
仕方なしに一口もらうと、コロネがニコニコでこちらを見つめてくる。
ううう……やばい。恋人耐性なんてない私にこの状況はきつすぎると思うの。
心臓がもたない。
「美味しいですか?」
目元をほころばせて聞くコロネを私はジト目で睨み
「コロネなんだかキャラが違わない?もしかして本当は魔王だったりしないよね?」
聞いた。
そう――魔王とコロネは、ベースは同一人物である。
巨人と魔王の力を吸収するために、魂を二分した存在で、片方がコロネで片方が魔王なのだ。
普段のコロネならこんなこと絶対しないと思うのだけれど。
「そうでしょうか?いつもと同じつもりなのですが。
ああ、たぶんこちらの世界ではシステムの影響がないためかもしれませんね。
気分が高陽しませんし、いつもより落ち着いていられる感じがします」
言って微笑む。
ああああ、そうか。システムのせいかぁぁぁぁ。
コロネはゲームの世界では、私がNPC時代に餌付けしてしまったため、変態化してしまうシステムが組み込まれていた。
そのせいで、私大好きの変態キャラだったのだが……。
まぁ、実際はゲームの世界でもコロネのシステムはとっくに切れていたらしい。
コロネ本人が自覚していなかったため、思い込みでシステムの影響下にあったのだ。
こちらの世界ではシステムは完全に途切れるため、本当のコロネになってしまったのだろう。
てか、やばい。システムのないコロネってこんなグイグイくるタイプなの!?
コロネはヘタレであってこそコロネだと思うの!
これは元の世界にもどったら魔王に土下座してでもコロネの変態システムを復活してもらったほうがいいかもしれない。
でないと私、心臓がもたないんですけど。
悔しいので私もコロネにスプーンでパフェをすくってあげれば……
照れる事なく、にっこりそのまま普通に食べて
「ありがとうございます」
とか余裕で言ってくる。
oh---no---!!
ダメージ与えてないじゃないか!!私の知ってるコロネなら猫様からいただくなんてと全力で拒否するはずなのに!?
やべぇ。負けてる。完璧に負けてる。
どうしよう!?
ああ、ダメだここで負けたら、コロネの保護者としての私の威厳がっ!!
いいだろう!その勝負受けてたとう!
演じてやろうじゃないかバカップルを!!
こうして、勝手にわけのわからない勝負が私の中で開幕するのだった。
△▲△
……結果は全戦、全敗だった。
やべぇ、こいつ強すぎるよ。戦った異界の神より強すぎてまるで勝ち目が見えません。
もう私のHPはとっくに0だ。これ以上は無理。
ふい打ちなら照れるかとおもって、抱きつけば、「可愛いですね」とか言われそのまま額にキスを返され、慣れない女言葉で、大好きとかいってみれば、壁どんで「私もですよ」と返され、水たまりをよけるために、腕組みしてみれば、「ああ、濡れてしまいますね」とかいってお姫様抱っこされる始末。
こちらの知識が漫画知識しかないだけあって、やることがイチイチ王子様か!?と言うことしかやらないしっ!
攻撃をすれば2倍、3倍のカウンター攻撃になってかえってくるとか強敵すぎるだろ……。
「大丈夫ですか?」
公園のベンチでぐったりしてしまった私にコロネが飲み物を買ってきてくれる。
いえ、もうだめです。おうちに帰りたい。
ネトゲしたい。VRMMOやって敵を撲滅しまくりたい。
私にリア充生活は100年くらいはやかったみたいです。
いや、しかし家にまでコロネがついてくるとか言い出したら、私死ぬよ!?どうするよ!?
「所で猫様」
「……うん?」
「あの御婦人はもういないようですね」
「……は?」
「ああ、お気づきでなかったのですね。もうだいぶ前からいませんでした」
しれっと言ってのけるコロネ。
ちょ、ちょっとまてーー!!
「それはやく言えし!!!なんでそんな重要な事いわないかな!?」
「申し訳ありません。猫様がムキになってる姿が可愛くてつい」
「だーーかーーら。可愛いとか言うなっ!!」
わさわさとコロネの首根っこを掴んですれば
周りからヒソヒソとDV? あんな女のどこがいいのかとか聞こえるように言われる始末。
うおー日本やりにくい。
コロネが睨んで追い払ったが、私たちはとりあえず人気のない場所へと移動した。
「もう帰ろう!グラニクルオンラインの世界に帰ろう!ここだと身体がもたない!」
私が言えば、コロネがにっこり微笑んで、
「ああ、そうでした。説明がまだでしたね」と缶コーヒーを私に手渡すのだった