2話 クリスマスイブ
てっきり、あのゲームの世界の出来事って夢だと思っていた。
自分が神様の力をもっていて、実は異世界人で異界の神を倒して世界を救いました✩なんて出来事をだれが現実として受け止められるだろう。
世界が平和になって、神様が復活してめでたしめでたし…となったところで、私は目を覚ますと、何故か現実の世界に帰っていた。
食べたあとのお弁当の空箱と、起動させたVRMMOのゲーム機がそのままで。
「コ、コロネ、本当にコロネ?」
つい思わず何度も聞き返してしまう。
「はい。迎えにくるのが遅くなって申し訳ありません。
……詳しく事情を話したい所ですが……」
言ってコロネが視線をさ迷わす。
私もつられて辺を見れば……思いっきり店内の注目を集めていた。
うん。そりゃ修羅場&美形登場ですものね。そりゃ、視線も集まりますよね。
「うん。わかった外でようか」
私はそのまま料金を払うと、店を後にするのだった。
△▲△
「コロネはいつからこっち来てたの?」
喫茶店をでると私はすぐ尋ねた。だって現れるタイミングがよすぎるっていうかなんというか。
「はい。猫様の家についたところで猫様達がそろって喫茶店に向かっていたので。
家の前で待とうか迷いましたが、あまり猫様が気分がのらないような表情でしたので、申し訳ありませんがそこから尾行させていただきました。」
あー。なるほど。叔母が執拗に私の家で話がしたいといったが、なんとなく胡散臭かったので、家には入れず近くの喫茶店に移動したのだ。
その時、コロネは尾行してたらしい。
「あー、うん。正直助かったよ。ありがとう。
……にしても」
私は周り視線をうつせば、道行く人の何人かはコロネを二度見してすれ違っている。
うん、やべぇ。美形すぎて目立ちまくり感半端ない。
その横を、対して美人でもなんでもない私が一緒に歩いているのだ。
そして今日はクリスマスイブで、街中はカップルだらけなわけで。
物凄く不釣合いな光景だろう。
やばい、なんか物凄く申し訳なくなってくる。
「所で、猫様。
私の格好はどこかおかしいでしょうか?
魔王に見繕ってもらった服なのでおかしくはないはずなのですが。
嫌に視線を感じます」
と、真顔でこちらに聞いてくる。
「いや、格好はおかしくない。耳もちゃんと人間になってるし」
「……では?何故でしょう?」
美形すぎるからです。と正直に言っていいものなのだろうか。うん。なんだか言いにくい。
「顔が西洋風だからかな?」
と、ちょっとぼけた返事を返してみた。
「ああ。なるほど」
西洋風なんて言葉をコロネが知ってるのかよくわからないが頷いたという事は知っているのだろう。
ふと、コロネの足が止まる。
そして、急にコロネが私の手を握ったのだ。
「へっ!?えっ!?」
つい、赤面するのがわかった。いや、だってこれはリアルだよ!?
いままでゲームのキャラでなんとなく現実味がなかったから、コロネと接触してもとくに気にしなかったわけだけど。
もろ現実の世界でコロネと手を繋ぐとか、彼氏いない歴の長い私には刺激が強すぎるというかなんというか!!
「コ、ココココ、コロネ!?」
つい鶏の真似のような言い方で名前を呼んでしまう。
「何も恥ずかしがる事はないでしょう?恋人同士なのですから」
急に甘い声で私に囁く。
い、いやいやいやいや。美形にそういうこと言われるとちょっとというか、かなり照れるんですけど!?
っていうか、付き合ってないよね!?私たち!?
コロネは顔を私に近づけて
「先程の御婦人が、どうやらついてきているようですが……」
と、耳元で囁く。
……ああ、なるほど。恋人のふり続行というわけですか。そうですか。
い、いや別に何も期待なんてしてなかったんだから。うん。本当だよ。本当。
てか、まさか尾行までするとはね。
普通に考えれば、もしコロネが恋人じゃなかったとしてもあんたの息子とくっつくことなんて100%ないのだが……。
そんなこともわからないほど頭がよろしくないのだろうか。
死んだ母が、あの人と縁を切っていた理由がなんとなくわかった。
「猫様」
「うん?」
「折角ですから、このまま恋人の振りを続けてもよろしいでしょうか」
「……へ?」
「また言い寄られてきてもお困りでしょう?」
「そ、そりゃまぁ」
「でしたら、諦めさせるためにも、このまま恋人のふりを続けたほうがよろしいかと」
「い、いやそれはっ……」
ニッコリと提案するコロネに私は自分でも顔が赤くなるのがわかる。
ってかコロネってこんな子でしたっけ!?
もっとこう、恥ずかしがりやというか、私がからかう立場のはずなのに!?
おう、なんだかこの押されっぱなしの状況はものすごく納得できない!
「私ではご不満でしょうか?」
「そ、そういうわけじゃないけどっ!?」
つい言葉がうわずってしまう。
「では行きましょうか、楓」
そんな私を見てコロネがおかしそうに微笑んだ。