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設定の話その4

「改めて礼を言おう。お前のおかげで助かった」


 豪華な彫刻の彩られた部屋で、テオドールが猫に頭を下げる。

 テオドールと猫の座るテーブルには所狭しとワインやつまみが置かれていた。


「なんだよ。急に改まって」


「ゼンベルの処刑が決まったのでな。

 お前が居なければ、私はいまでもあいつの傀儡だっただろう」


 言ってテオドールはワイングラスを傾けた。


「何であいつの言うことなんか聞いてたんだ?テオドールらしくない」


「元々、自分を皇帝に据えたのがあの男だと言うのもあるが……」


 言ってテオドールが先に酔いつぶれて、ベットで寝てしまっているコロネに視線を移す。

 面白がって、猫とテオドールが酒を勧めたせいで、酒に弱かったコロネだけ先にダウンしてしまったらしい。


「……ああ、コロネを人質に取られていたわけか」


 猫もワイングラス片手にコロネに視線を移した。


「私が少しでも奴に気に入らない政策をとると、まるで見せしめのようにコロネに危害を加えてきてな。

 手も足もでなかった。

 エルフの国(サウスヘルブ)での地位を捨ててまで付いてきてくれた友を見捨てる事もできない」


「……お前らしいな。

 にしても、何でテオドールは皇帝になんかなろうと思ったんだ?

 あまり地位に固執しそうなタイプでもないのに」


「神託だ。巫女を通じて女神アルテナの神託を賜った。

 近い将来、人間の国より使者が来るので受けるようにと。

 それがゼンベルの使者だった」


「ああ。なるほど」


「神託でなければ、人間の国の皇帝など、断っていたさ。

 それで、お前はいつまでここに居れる?」


 唐突に尋ねられて、猫はワインを飲もうとした手を止めた。


「何の事だ?」


「隠す事もないだろう。お前が時々見せるコロネを見るときの表情で大体察しはついている。

 そう長い時間、護衛に付くつもりはないのだろう?」


「……自分はそんなに顔にでやすいか?」


「ああ、かなり」


 テオドールに言われ、猫が少ししょげた顔になり


「コロネを殺そうとしている奴を倒すまでだ。

 そいつがいつ仕掛けてくるかがわからない」


「お前が相手をしなければいけないほどの相手なのか?」


「ああ、自分でもかろうじて倒せるか倒せないかだ」


「……コロネはそんな奴に狙われているのか」


 言ってテオドールはコロネに視線を向けた。

 最近やっと笑顔を取り戻した友が、猫が去る事実を知ったときどのような反応を示すだろうか?

 長い付き合いゆえ、テオドールはコロネが猫にそれなりの感情を抱いているということはなんとなく察する事ができる。

 だからこそ、別れがそう遠い未来ではないという事実を彼に告げるのがはばかられた。


「……倒したあとも、そのままここに居る事はできないのか?」


 テオドールの言葉に猫が困った顔になり


「ああ、無理だ。

 詳しくは話せないけど」


 言って、猫もうつむいた。


「――そうか」


 テオドールもそのまま押し黙る。

 

 本音を言えば、猫もこのままずっとコロネの側にいてやりたいという感情がないわけではない。

 むしろ、いてやりたい。

 これから彼に待ち受ける未来がどんなに辛いものなのか知っている。

 異界の神々に征服され、弾圧される絶望的な未来――それにコロネはこれから立ち向かって行かなければならないのだ。

 未来のコロネに比べると、精神的にか弱い過去のコロネにそれは残酷な事のように思える。


 それでも魔王に念を押されている。

 楓の魂をもつものが、再び生まれてきて、その転生体と会ってしまったら、魂が二人とも滅び、世界に多大な影響を及ぼすと。

 本来この時代にいるはずの楓の魂が転生してくるのは、そう遠い未来じゃない。

 それまでにコロネを殺そうとして、この時代にきたエルギフォスの魂を倒さないと。


 恐らくオリジナルコロネの記憶を受け継いでいる魔王は自分とコロネがどんな形で出会い、別れたのか知っているのだろうが――。

 魔王も言いたいことだけを言ってコロネと同じく眠りについてしまった。


 猫はそのまま大きなため息をついた。


 未来のコロネはエルギフォスのせいで、いまだ眠ったままで。

 この時代でエルギフォスを倒さなければ、未来のコロネと、魔王を救えない。

 かといってエルギフォスを倒せば、今度は過去のコロネとの別れがまっている。


 立ち上がりベットでスヤスヤと眠るコロネの頭を撫でてやれば、感触がくすぐったいのか少し嬉しそうに微笑む。

 未来のコロネに比べると、ずっと細く、華奢なその身体は今にも折れてしまいそうで心配になる。


 せめて自分がいる間だけでも――コロネを守らないと。

 それに異界の女神達がこの世界を征服するのはもう少し先なのだ。

 せめてその間だけでもコロネが住みやすい環境にしてやらないとな。


 なんとなく未来の方のコロネに会いたくなる。いま彼がこの場にいればなんと声をかけてくれるだろう?


 そんな事を考えながら、まだあどけなさの残る過去のコロネに視線をうつせば会ったころよりも安らかな寝顔に少しホッとする。


 「おやすみ。コロネ」


 そういって、猫はもう一度コロネの頭を撫でてやるのだった。

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