No.1 はじまり
髪を拭きながらスマホを確認する。お風呂に入っていた数十分の間にいつもなら通知が来ているからだ。しかし、今日も通知はない。「既読もなしか…。」紬姫はこの頃、お風呂上りにスマホを確認する半分癖のようになったこの行動に嫌気がさしていた。悠叶から返信が来なくなって一ヶ月が過ぎようとしている。
悠叶とは出会ってもうすぐ三年になる。三年前に出会って、一年かけて少しずつ仲良くなって、悠叶の方から告白してきた。付き合ってもうすぐ二年になる。彼女の私が言うものおかしいかもしれないが、悠叶はかなりイケメンな方だと思う。物静かで一見冷たい印象を受けるが、とても優しい性格で自慢の彼氏だった。しかし悠叶は少し体が弱く、体調が悪い時や少し無理をした後には決まって連絡が取れなくなる。心配しても、ただ寝ているだけだったり、純粋に返信を忘れていたり。二、三日もすれば決まって謝罪文が送られてくるため、あまり気にしないようにしていた。しかし、最近は連絡が取れない期間が少しずつ長くなり、ついに一ヶ月が経とうとしている。最初こそ心配もしていたが今回はそろそろ終わりを感じている。
「楽しかった頃に戻りたいな…。」
紬姫の頭の中では仲良く笑い合う悠叶の姿が思い浮かび少し泣きそうになった。
「じゃあ、戻してあげる!」
紬姫の後ろから子供のような柔らかい声が聞こえた。コロコロとしたその声に振り返ろうとしたところで紬姫の意識はゆっくりと遠のいていった。